脳に電極を埋める時代の入り口で
昨年のクリスマスの夜。
独身の友人達と鍋を囲み、酒を飲み、下世話な話に花が咲いた。
もう40も手前の私からすると、恋愛のツールや価値観も自分が思春期の頃に比べると多様化しているように感じる。
昔は、これほどまでにマッチングアプリが多数派に認められるようになるとは想像さえしていなかった。
業界大手の某サービスの開発者に以前聞いた話によれば、彼らはいかに効率的にユーザ同士をマッチさせ、またはマッチするという期待感を継続的に与えていくのか日々、データを分析しそのアルゴリズムを改良しているのだそう。
表示された相手にメッセージを送るかどうかにまでは関与してはいないけれど、TVドラマや戯曲になるような「運命的な出会い」「個々の自由が尊重された恋愛」は、すでにどこかのエンジニアの組み込んだアルゴリズムの枠内で行われているようだ。
なんのことはない、ひと昔前は友人や上司、お見合いおばさん。古来には巫女や神官が示してきたようないわゆる「リコメンド」がそれにとって変わっている。
この年末年始に読んだこちらの本にも、そのような現代と、これからのテクノロジーの発達によって訪れる未来への考察が詳細に述べられていた。
ざっくり言うと
ベストセラー「サピエンス全史」に続く、人類の進化の歴史とこれからの未来を考えるきっかけを与える作品。
ヒトと動物との違い、連綿とした歴史の中でヒトを支配してきた「虚構」やイデオロギーの変遷。
テクノロジーの進化の歴史とあわせてとこれを検証することで近未来の可能性と私たちのとりうる選択肢を明らかにする。
要約
サピエンスは渇望により課題の追求をやめることはできない。苦痛からの解放を求めて、不死と至福を追求し、神のような「ホモ・デウス」へのアップグレードを目指す。
現代の生命科学では、人間至上主義の源泉としていた自己や自由意志の存在に懐疑的な結果が出てきている。今後、テクノロジーが自然選択の法則を打ち破り、「データ至上主義」が生まれる。
サピエンスを突き動かし、強大な力を持たらしめたのは、宗教、国家、企業などの「虚構(共同主観的現実)」である。21世紀はこの虚構が遺伝子コードや電子コードとなり、客観的現実を呑み込んでより強大な力となりかねない。
感じたこと
自由意思や脳科学の研究にはかねてから興味はあったけれど、最新の技術は私の想像以上に進んでいるようで、衝撃的でした。
ヒトをアップグレードすることや、それを享受できる人とそうでない人の格差の拡がりは止められそうにない。
脳に信号を与えて能力を強化したり、感情や意思を制御する技術には生理的に不安な感情になってしまうけれど、冒頭に書いたマッチングアプリのように、すでに意思決定を外部に委ねてきた事実は確かにあるのかもしれません。
今は、就職も、住む場所も、口にするものも、そして人生のパートナーも検索をして、誰かの決めた仕組みによって表示されたサジェストや評価を見て比較する。
古くは神託に、現代はシリコンバレーのアルゴリズムに。
なにが正義であるか、なにを快感と感じるのかも時代とともに変わっていくものなのであれば、その時代の「主義」に深く傾倒することも、「反主義」に傾倒することもなく時流を見定めて、多くの選択肢を知り、手にできるようにしていくことが必要なのかもしれないと思いました。
いつか脳に電極を埋め込み、永久の快楽に耽ることや、完全に副作用なく幸福感を得られるドラッグが発明されたときに
「なんか流行ってるらしいね。昔のタピオカみたいなかんじ?」
と言えるくらいのテキトーな人間でありたい。
おわり
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