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小さな上映会

コロナが落ち着き、どのカフェも人でいっぱい。

作業スペースを探してウロウロとしていると、またカフェの前を通った。
覗き込んでみると空席が見えたので足早に入店する。

荷物を先に置こうと奥へ進むと、ひと席だけ空いていた。
よかったと思いお財布、携帯っと。。と

キンキンに冷えたチャイを片手に戻ると、
ヘッドフォンをした男性がパソコンと睨めっこしてた。

「。。。。」

これから、同じような作業をする自分が急に気まずくなった。
見渡す限り、席はここしか空いていない。

パソコンを開き、きっと同じであろう動画編集ソフトを開く。
イヤホンを刺し、先日撮影した動画に音楽を当てはめていく。

そんなことをしながら隣のパソコンがつい気になってしまうと
その人は見る限り、旅行先で撮った動画の編集をしていた。

「こんな友達いたら、嬉しいだろうなぁ」
「友達に言われてやってるのかな、それともサプライズで作ってるのかな」

そんなことを気にしながら、自分も作業に集中することにした。


自身のヤル気に比例するような手が回らないほど大きなサイズで買った、キンキンに冷えてたチャイはみるみるうちになくなり、味そのものがもう溶けていた。

ふぅ。

どれほどの時間が経ったのか分からなくなるほど熱中してた私は
ひと段落つくのと同時に、背もたれに寄り掛かった。


お。あれ、同じタイミングで休憩してる。


背をつけ、自分が作ったであろう映像を一から見返していた。

なぜだか最初から見れるタイミングに居合わせてしまい、混み合うカフェでたった二人の上映会がスタートしていた。


集合場所から車に乗り込み、
わーわーと大きな口で歌うような仕草でわちゃわちゃとした車内が映る。
サービスエリアで同じソフトクリームを食べるみんな。
その後ジャンケンしてお会計を決めてる姿。
キャンプ場について川で泳いだ後は、夜になって火を囲みながら乾杯し、踊ったり騒いだりしながら終始楽しそう。

とびっきりに楽しかったんだろうな〜と、
こっちまで心がポカポカしてたら、


ヘッドフォンを外して、私を見て何か言われた。

「え?」

見てるのがバレないようにとイヤホンをしてた私に何か問いかける相手。
驚いてイヤホンを外すと、


「どうでした?」


驚きと、恐怖心と、謝った方がいいのかな、でも、友情愛がたっぷり詰まったムービーに胸がいっぱいになっていたので

「え、あ、めっちゃめちゃ、よかったです!」

気が付いた時にはもう、拍手しながら伝えていた。


「伊豆の方に行ったんですよ、みんな大学の時の仲間で」
「へ〜!これ最近ですか?」
「この間ものすごく暑かった日、あったじゃないですか?あの日です!」
「あ、あぁ!ありましたね!あの日ですか、最高ですね!」

その後も、車内で何を歌っていたかとか、ソフトクリーム代を自分が支払った話や、夜中まで飲んで酔っ払った一人が川に飛び込んで大変だったこと、翌日は昼までテントで寝てて全員日焼けした話など。
気候や音さえも想像できるような伝え方で、私に思い出を話してくれた。

「何用に作ってるんですか?」

「あ、これね仕事なの」
「え!プライベートじゃないんですか!?」
「もう一回見る?ほら」

指刺してくれた先をみると、キャンプを楽しむ若手俳優の姿が。

ビックリしたけど、名前をここで出すまいと思わず口を覆った。

「なんかユーチューブで流すんだって」
「先に見れちゃいましたね」
「全然大丈夫、もうこれ締め切り迫っててこの後すぐ公開されるから!」
「でも、出来たのならよかったですね」
「いや〜本人のこだわり強くて大変だったけどね」
「なんか、、、分かるような気がします」

若手俳優を浮かべながら、そう伝えた。

笑いと話が同時に静寂に変わったころ、
頭にハテナが流れた。
とりあえずストローを口に運んでみた。
ほのかにしか味のしない水になったチャイだった。不味かった。

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