お題忘れ(即興小説トレーニング)

 所属していた隊での木剣の稽古で、初めて私があいつに勝った時の話だ。
 負けた、と言って地面に倒れたあいつに、私は怒った。
「本気でやってないだろ、お前が俺に負ける筈ない。俺はこんな勝利認めない」
 今まで好敵手と定めたあいつに勝つために鍛錬に励んで来たのに、その日は全くもって手応えがなく、俺を勝たせる為に手加減したとしか思えなかった。こんな勝利は全く喜ばしくない。
 あいつは困ったように笑っていたが、どこか嬉しそうにも見え、それがまた俺の神経を逆撫でした。
次の日、あいつは姿を消した。国に逆らう反乱団に入ったのだと風の噂で聞いた。
 そしてまたあいつに会った時、噂通り反乱団におり、互いに、人を殺す事の出来る本物の剣を構えて向き合っていた。
 「お前とは、あんなつまらないおままごとではなく、本気で殺し合ってみたかったんだ」
 だから反乱団に入ったのだと、あいつはあの日のように笑って言った。私も全く同意見だった。
 どちらが勝ったのかって?
 それは私を見ればわかる事だ。

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