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「介護と死の気配」2023年8月29日の日記

深夜に母親から電話がかかってきた。
叔母の容態がかなり悪いということで、昨日のうちに広島の祖母を連れて会ってきたらしい。もう駄目かもしれないから、会っておいた方が良いという旨を医者に言われたそうだ。会ったといっても、叔母の方は意識が全くない状態だ。
叔母は心筋梗塞で倒れたのだと兄から聞いた。今は低体温治療をしているが、数値が良くないということだった。
いきなりのことで頭が追いついておらず、現実味が全くない。本当に最近会ったばかりだったし、普通に元気そうにしていたのに。


祖母は少しの間家にいるらしかったので、とりあえず母親たちが帰ってくるまで起きて、寝る場所を作ったり、部屋を片付けるなどをした。

2時くらいに母親たちが帰ってきたので急いで階段を降りて車に向かった。祖母は普段車椅子で生活しているが、私の家は階段が多く、兄がおぶって運ぶことにした。私はその後ろをついて歩き、万が一に備えた。

祖母が寝る場所を確保し、私たちも一度寝ることになった。


起きると、祖母と母親が談笑していた。思っていたよりも明るい様子だったのでひとまずは安心した。


兄は用事があるため一度家に帰り、私と母親で祖母の世話などをすることになった。


私の住む家はバリアフリーとは程遠く、トイレに行くのにもおんぶをする必要がある。
昨日までは兄がおんぶ係をしていたが、兄は帰ってしまったので私がすることになった。私は兄よりも力が無いので大丈夫かと思ったが、驚くほどに祖母は軽かった。やはり痩せているのだろう、背負っただけで角ばった骨の感触が体に伝わった。前に回した腕を見ると、骨と皮だけのようになっており、血管が大きく浮き出ていた。もう自分で体を起こす筋肉も残っていない。


爪を切りたいらしく、爪切りを渡したのだが、足や手が震えて上手く出来なさそうだったので代わりに私がやった。
普段は自分が切っているのか、やけに歪な形で伸びている爪を整えていく。ただでさえ人の爪を切るのは難しいのに、祖母の爪はひどい巻き爪だった。
ある程度切り終えたのでこれで大丈夫かと聞くと、満足いかないようで、また自分で切り始めた。私は近くでじっと見ていた。震える手と硬直する足を押さえようとしながら、爪切りが良い位置に来るまで待っているような、そんな爪の切り方だった。

こういう時、どこまで手出しをすれば良いのかが分からない。全てを「やってあげる」ことは簡単だし、その方が早いことは確かなのだが、そうやって本人の意思を聞かずにすることが正しいのか、私にはよく分からない。どこか尊厳を踏みにじっているのではないかという不安がある。
頑張って、床を這いずってトイレに自力で向かおうとしている祖母を助けることは容易だけれども、自分の力だけで生活できるように頑張ることは、たとえこの先1人で生きていくことが不可能だとしても悪いことではないはずだ。


家の中は車椅子で移動するスペースなどないから、抱き抱えるか、おんぶでの移動となる。椅子に座っている状態からおんぶして運ぶのは容易だが、床に座っている状態から運ぶのはかなり難しかった。お姫様だっこの要領でトイレまで運び、座らせようとしたのだが、祖母を座らせようとすると自分が横向きになる必要があり、余計な力を必要とした。


祖母がぼそっと「〇〇ちゃん(叔母の名前)、もう駄目かもしれん」と呟いて、何と返したらいいかわからなかった。現実のことだと考えることがどうしても出来ない。昨日からずっと。まだ分からない。




今日は時間の流れがやけにゆっくりだった。

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