「別にええか」2024年4月11日の日記

 朝起きて仕事行くっちゅう生活がだんだんと当たり前になってきた。ただ単に環境に慣れてきたんか、それとも感覚が麻痺してきとるんか、もう私には分からへん。でも、これはこれでええなって思っとるから、別にええんやと思う。
 窓には水滴がついとって、でも空は晴れてたから、昨日の夜に雨が降ったんかも知れんかった。トラックの人らは大丈夫やろか。雨やったら荷物運ぶんも大変やねんって赤坂さんが言っとったから、ちょっとだけ心配した。荷物持っとったら傘もさせへんやろうし、カッパを着るわけにもいかんやろうから、多分濡れっぱや。濡れっぱのまま運転して、濡れっぱのまま荷物運んで、そのまま八時間以上も作業するんやろう。大変な仕事や。トラックの運転手はみんな筋肉質やったけど、だんだんと筋肉がついていくのか、それとも筋肉質な人間以外が淘汰されていくのか、どっちなんやろう。後者なんやとしたら、私は同期の中で二番目くらいに淘汰される人間なんやと思う。一番じゃないだけマシかも知れん。
 そんなことを考えとったら時間は過ぎて、あっという間に出勤時間になった。今日も一昨日とおんなじ場所で、おんなじ作業の繰り返しや。飽きたししんどいけど、別にこれが一生続くわけやないって思うとまだマシや。工場に配属されてるべーやんとかは、多分こういうことをずっとやっていくんやろう。ずっとやないかも知れんけど、最初の二年くらいはやるんとちゃう?そう考えるとしんどそうやし、私やったらやってられへん。
 担当したレーンには怖い人もおって、今日も少し間違えただけで「言ってる意味分かってる?」って強めに言われた。言ってる意味は分かっとるけど、そんなん急に言われたってできへんやん。そうやって言い返すことも私にはできたはずやけど、うまく口が動かんかった。私は弱虫で、普通の人間なんやと思う。
 たくさん生きていると、人にも何パターンかあるなっていうのが分かってくる。今日会った怖い人だって、似たような人を何回も見たことがある。だから、慣れるってことはないけど、驚きはせん。でも、こういう人を見てると、この人は毎回こうやって周りと壁を作っていってるんやなって思う。自分の態度や言動が周りとの軋轢を生んでるってことを、自分では気付かんのやろか。自分の人生に敵が多いのは、自分のせいかもしれんって思うんやろうか。多分思わんのやろう。そう考えると可哀相やなって思う。
 作業で手を動かしてる間も、頭の中は自由や。頭の中やったら、別に何考えててもええ。でも、作業の間に考えてたことは、終わる頃にはもうほとんど頭の中には残ってへん。メモを取る時間なんてないし、次のこと考えてたらもう忘れてまう。考えてたことが全部記憶できるようになったらええのに。そしたら、日記だってもっと楽に書けるやろう。もっと色々なことが書けるやろう。
 午後からは作業内容が変わって、全然楽やった。余裕があったけどやる気は無かったから、ちょっと暇な時間があっても突っ立ってた。時間が過ぎるのを待つだけなんってこんなに虚しいんやな。
 新入社員には、一時間の休憩の他に十五分の休憩が与えられてる。「新入社員は甘やかされてるからな」って木谷さんが水本さんに言ってたけど、私が近くにいることを知っとって言ったんやろか。なんでわざわざそんな嫌みを言うんか、私にはよく分からんかった。そんな嫌なことを言ってもなんもええことないと思うのに。
 そのあともしばらく作業して、気いついたら仕事も終わっとった。新入社員は、時間が過ぎたら強制的に終わるからまだ楽や。残業とかもせんでええ。その分給料は低いけど、私は別にそれでええ。
 寮に帰ってすぐに風呂に行ったら、石川が先入っとったから、ちょっとだけ喋った。風呂から出て部屋におったら、べーやんが部屋に来て、一緒に食堂に行った。寮に戻ってきて寮母さんとも喋った。疲れた時に、人と喋ったら楽になる時とそうじゃない時があるけど、今日は人と喋った方が良い日やった。今日は精神的に疲れとったけど、人と喋ったら楽なった。こうやって日々は回っていくんかもしれん。嫌なことも、なんとなくなあなあになって、後回しにしていって、そうしているうちに嫌なこととか、悩みとか、そんなん全部どうでも良くなる。それって良いことやと思うけど、でもちょっと怖い。           
 辛いこととか、苦しいこととか、結局全部時間が解決すんのちゃう?って思ったら今の苦しみとかが意味のないものに思えてくる。悩んだり、死にたくなったりしても、時間が経ったらもう忘れとる。あの子が自殺したのを知った時、あんなにみんな泣いてて、苦しんでたのに、もうみんな忘れとる気がする。私はそれが嫌で、たまに思い出しては一人で勝手に傷ついとる。意味のない自傷行為やなって思うけど、やめられへん。当時に比べたらもう苦しみは薄れてて、そのまま消えていってしまうんが怖い。たまに思い出さへんと、無かったことになるような気がする。


 今日はいつもとちょっと違った書き方をしたけど、文章の中には創作した部分が入ってるってことを最後に言っとかなあかん。日記やからって、思ったことを全部書いてるわけやないし、書いてることが全部思っとることとは限らへん。明日からは普通に書くと思うけど、それだけは忘れんといてな。


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