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コインゲームの思い出。

母親はかねてより、勉強よりもスポーツを頑張りなさい的な教育方針だったので、私が小学生の頃はサッカーの他にも色々なスポーツの大会に友人達と参加した。
大会に出た後は、大会に出たメンバーやその親たちと昼にイオンのフードコートに行ってご飯を食べることがよくあった。

イオンのフードコートの横には小さいゲームセンターがあって、親たちがフードコートで喋っている時にそこで友人たちと一緒にコインゲームをするのが好きだった。私の家はそんなに裕福ではなかったから、コインゲームをしたいとはなかなか頼めず、ゲームセンターの中に落ちているコインや、取り忘れているコインなどを拾って、それを徐々に増やしていくというのをよくやっていた。
私や他の親が厳しい友人が親に頼めなかったため、他の人たちも親に頼めない雰囲気になり、次第にみんなで一緒にコインを探すようになった。
恥を投げ捨ててゲーム機の下に手を伸ばす友人の背中は、なぜか大きく見えた。


一人が落ちているコインを見つけるとその一人はみんなからもてはやされた。その一枚にみんなのこれからの遊び時間がかかっているからだ。もしその一枚が無くなれば、またコインを探し回らなければならない。見つけた人は慎重にやるゲームを選び、みんなの分のコインを稼がなければならない。拾ったコインでゲームをしている時、そいつはグループの中で主人公になったし、周りはそいつの勝ちを輪になってじっと見守っていた。
私は落ちているコインを見つけ、さりげなく拾うのが得意であったため、一番手でプレイすることがよくあった。
長く遊ぶには、コインを増やしていかなければならなかったので、必ず勝てそうなゲームを慎重に選ぶ必要がある。
そこで私がよくやっていたのが、金魚すくいのコインゲームだ。
コインを一枚入れるとポイが動かせるようになり、すくった金魚の数や種類によってもらえるコインが変わるというものだった。黒色の出目金が一匹でコインが二枚貰え、すくうのも比較的簡単であったため、まずは黒色の出目金のみを狙って辛抱強く待つ。
金色に輝いているの金魚や、素早く動くカニ、大きい亀なども出てくるが、それに気を取られてはいけない。地味で動きの遅い黒い出目金が画面上に現れるのを待ち、確実に二枚のコインをゲットしていく。
コインが増えていくと、少しずつハイリスクのものも狙っていく。次に狙うのが、金色に輝く金魚である。
金色の金魚を五匹すくうとポイが金色になり、より大きな獲物をすくうことができるようになる。何回か失敗しながら金魚をすくっていき、無事に金色のポイになれば、そこからはカメなどの大きな獲物を狙っていく。
そういう遊び方をしていると時間は無限に過ぎていって、私は夢中でプレイしていた。

思えば、コインゲームのコインの使い方にもいろいろ個性が出ていた。
私は慎重な性格だから、できるだけ長く遊ぶためにリスクの低いゲームを続けて遊んでいた。ある友人は、親に買ってもらった十枚のコインを全て使って大きな賭けに出ていて、私にはそんな賭け方はできないし、羨ましいと思った。
案の定その友人はすぐにコインがなくなり、一枚だけくれと私の元にくる。私も笑いながら、渋々一枚だけコインを渡すのだが、三分後くらいにまた一枚だけくれと私の元にくる。そういうやりとりも、今思えばなんだか面白くて、好きだった。

コインが無事に増えていくと、ほかのゲームも試してみたくなる。金魚すくいのゲームは確実性があるが、そればかりでは退屈してしまう。
そこで私がよくやっていたのが、ポケモンのコインゲームだ。
コインを一枚入れるとモンスターボール、二枚だとスーパーボール、三枚だとハイパーボールが与えられ、画面に次々と流れていくポケモンに投げることができるようになる。どのポケモンを捕まえるのかを慎重に見極めて、投げる。ボタンを連打すればするほど捕まえられる確率が高くなるため、ボールがポケモンに当たった瞬間にあり得ないほど強く、そして早くボタンを連打する。
「ダンダンダン」とゲームセンターに謎の連打音が響くが、お構いなしだ。そうして無事にポケモンを捕まえ、コインが手に入るという仕組みだった。みんながボタンを連打するからか、ボタンの周りはボロボロになっていて、私が中学生になるとその機械は無くなっていた。その頃になると徐々にゲームセンターの内装も変わっていった。
イオンの横には今でもコインゲームがあるが、置いているゲームの種類はすっかり変わってしまった。コインゲームは少なくなり、端に追いやられるようにしてひっそりと置かれていて、UFOキャッチャーのように現金を入れるタイプのゲーム機が増え、中央に陣取っている。

あの頃は不自由の中に自由を見つけて、その中で楽しむのが上手かったなと思う。
今はもうその金魚すくいのゲームをすることは無くなってしまった。落ちているコインを拾うのなんてみっともないと思うようになってしまったし、ゲーム機の下に落ちているコインなんて見る気にもなれない。 

靴紐を結ぶふりをして見たゲーム機の下の光景を、私は今でも覚えている。絡まった黒いコードの連なりを、溜まったホコリの塊を、その中で銀色に煌めく一枚の輝きを、私は忘れることはないだろう。

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