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(連載小説)「影の総理~官房長官の政治人生~」第2話「裏切り」(全5話)

午後2時、首相官邸の記者会見室では、予定通り花田新官房長官による「閣僚名簿発表記者会見」を行うことにした。
会場に入り、壇上に上がる花田。カメラのフラッシュが炊かれる中

「えぇ、この度内閣官房長官を担うことになりました。花田健太郎です。誠心誠意持って仕事に取り組みますので、どうかよろしくお願いいたします。まずは官房副長官をご紹介したいと思います。谷原正幸副長官・枝山良人副長官・三里克之副長官であります」

副長官の面々が一斉に頭を下げる。そしていよいよ閣僚名簿読み上げに入った。

「それでは、閣僚名簿を読み上げさせていただきます」

その頃笹谷は秘書と共にテレビの生中継を笑顔で見ていた。一体自分は次の谷岡内閣でどのポストに入れるか、楽しみになったのか笑顔で見ており、彼は自信しか持っていなかった。
花田が名簿を見ながら喋り始めた。

「内閣総理大臣・谷岡義秀
内閣法第9条の第一順位指定大臣副総理兼外務大臣・橋本幸雄
総務大臣・緒方成夫(再任)
法務大臣・安倍川雅子(引き続き入閣)
財務大臣・江戸川秀樹(再任)
文部科学大臣兼教育改革担当・鈴木利光(再任)
厚生労働大臣兼医療支援担当・大久保正弘
農林水産大臣兼漁港安全担当・渋谷静雄(引き続き入閣)
経済産業大臣・影山頼久(再任)
国土交通大臣兼交通改革担当・岡山次郎(引き続き入閣)
環境大臣兼森林破壊防止担当・和田恵
防衛大臣兼安全保障関連法案担当・川田啓介(再任)
内閣官房長官は私、花田健太郎(再任)
国家公安委員会委員長・岡田陽太
内閣府特命担当大臣(原発)・川浪信二(再任)以上であります。なお宮中における親任式及び認証式は本日午後4時30分を、総理の記者会見は午後8時半を、初閣議は午後9時35分をそれぞれ予定しております。よろしくお願いいたします」

この長い発表が終わり、しばらくしてから花田は会見場を後にした。それをテレビで見ていた笹谷は少し怒りの表情をして

「どういうことだ!あの小僧」

すると男性秘書が少し驚いた顔で

「どうかされたんですか?」

笹谷はようやく気付いたのだ。花田にそそのかされて簡単に内閣総辞職を決定し、花田の思うがままに信じ込んで動いてしまった、そして簡単に裏切られた。笹谷は完全にブチギレながら

「どうしたもこうしたもあるか!!あの野郎裏切りやがったな」

笹谷がキレているその間。親任式・認証式を皇居で行われ、その後はすぐに谷岡総理就任会見を始めることにした。記者会見室に花田が先に入り、しばらくしてから谷岡が少し堂々とした笑顔で入ってきた。少し谷岡は微笑みながら花田を見たが、花田も少し微笑み返した。そして壇上に谷岡が立ち、女性司会者が

「えぇそれではただ今より、谷岡内閣総理大臣の就任記者会見を行います。初めに総理からご発言がございます。その後皆様よりご質問を承ります。それでは総理よろしくお願いいたします」

谷岡が一礼をしてから、口を開き

「えぇ、第119代内閣総理大臣に指名をされました、谷岡義秀であります。これまで笹谷内閣でナンバー2である副総理を務めて、今やっとの思いで、そして総理という立場で、この記者会見に臨んでいるのは大変嬉しく思いますし、応援してくれた日本平和党議員や支援者の皆様に感謝申し上げます。私からは2点、今回の内閣が務めます政策や抱負などを説明させてください。まず1点目は経済復興会議を設立し、経済を1980年代から1990年代のバブル景気にまで戻すことをお約束し、これを政策に取り入れます」

その頃、笹谷はまだ怒りを鎮められておらず、どこかに行く支度を議員宿舎でしていた。男性秘書が少し戸惑いながら

「どちらにいかれるんですか?」

「決まってるだろ!!初閣議があるから、官邸だよ!!」

そのまま秘書が止める暇もなく、笹谷は部屋を後にした。30分後谷岡の記者会見が終わり、しばらくしてから初閣議まで時間があるため、花田は官房長官執務室でしばしの休憩を行うことにした。すると扉の向こうで確かに、男性秘書が大きな声で

「ちょっと、今は困ります」

扉を思いきり開き、完全に怒りの表情をしていた笹谷が入ってきた。男性秘書が困り果てた顔をしている。花田もやはりかと内心思っていた。何故なら簡単な話、この男を裏切ったからだ。花田は秘書を外に出るようジェスチャーをし、2人きりになったところで

「どうかされたんですか?笹谷前総理」

「何だその言い方は。貴様、裏切りやがったな」

少し重めにトーンで言う笹谷。すると花田は笑い始める。笹谷は少し動揺した顔になり

「何笑ってるんだ」

「あなた何を勘違いされてるんですか?あなたを再び内閣に入れたら、谷岡さんがすぐに総辞職をする羽目になります。谷岡さんは笹谷前総理が一番頼りにしている親友ですよね。苦しめたいんですか?」

「な、なんだと。もしかして貴様、最初から俺の総辞職を狙って」

花田が微笑んで

「今頃気づいたのですか、遅すぎますよ。あんたが総辞職しないと、野党である国民共和党との政権交代ですよ。そうなると俺が総理になる道が遠くなる。それを阻止するために、あんたが一番邪魔だっただけ」

「上司に向かって」

「もう上司じゃない。あんたはただの衆議院議員、俺は官房長官、国のナンバー3なんだよ。もう上司じゃなくて、俺の部下なんだよ」

これがこの花田健太郎の本性。総理になれるんだったらなんだって汚い手を使う。花田は総理になり、自分なりの日本を築くことが目標だ。そのためなら邪魔者は徹底的に潰す。それがモットーだった。
怒りからなのか黙り始める笹谷に、花田は続けて

「それと、官房長官付けであなたに国会議員辞職勧告の書類を送りましたので、これは谷岡さんや橋本さんからは承認済みなので」

「なんだと!!貴様!!」

大声で怒鳴った。総理大臣だけではなくこの40年間捧げてきた国会議員生活を、この小僧のせいで全てを終わらせられたのだ。すると花田は笑顔で

「あなたに、国会議員としている価値も資格もない。暴力団組織に金を渡したんだから。あっ金を渡したことはまだマスコミに流してなかったか」

「花田、お前まさか!!」

「安心してください。このまま辞職勧告に応じてくれて辞めてくれたら、なんとかあなたの汚職は、簡単に済ませますので」

悔しさのあまりただ顔が真っ赤になるほどキレそうだったが、なんとか堪えて

「貴様、覚えとけよ」

そのまま部屋から笹谷は後にして行った。その後すぐに花田は初閣議があるために閣議応接室に向かい、しばらく待機することにした。
その頃、笹谷は辞職勧告の書類を目に通しながら、怒りで溢れていた。

「では閣議を始めます」

谷岡の一言で始まった初閣議。約2時間の論議の後にいよいよ閣僚会見の時間が始まった。トップバッターである花田は少し予定の時間より押していたため、手短に済ませるためにすぐに記者会見室に向かっていた。すると官房副長官であり、花田と信頼関係を結んでいる枝山が急いでいたのか、走ってきて

「花田長官」

「どうした?」

すると枝山が耳打ちをして、どうやら笹山が国会議員を辞職したという知らせを聞いて、驚いた顔をしたが、心の中では微笑みながらホッとしていた。これで自分が思う邪魔者は一人に絞られた。

それは谷岡新内閣総理大臣だった。

~第2話終わり~

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