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(連載小説)「代表選挙~党内戦争~」第3話(全4話)

畠山の口から出た島田幹事長という名前に、自分は少し驚きを隠せなかった。
島田幹事長というのは、長年民主日本党を支えている重鎮であり、元官房長官・防衛大臣・厚生労働大臣・副総理を経験している最強の人物であり、年金制度改革・医療従事者年金を設立した貢献者である。
現在は民主日本党の幹事長として5年間の長期にわたり、党を支えている。
でも自分は少し気になることがあったため、畠山に

「でも、確か島田幹事長が所属している派閥って」

「そうだ。品川派の副会長をしている」

確かにそうだ。でも当然品川派のリーダーは副代表の品川だし、またどうせ裏切られると思いながらも

「大丈夫なんですか?敵の派閥のナンバー2ですよ」

「まぁ見とけって、後でそっちに行く。そしたら党本部に行こう」

「分かりました」

と言って電話を切る。
でもやっぱり正直不安だった。畠山が大丈夫と言うことに少しの安心材料を感じるが、でも派閥のナンバー2であることが、最大の壁になっている。
しばらくしてから、執務室に畠山が入ってきた。

「よっ」

自分は立ち上がり

「あっお疲れ様です」

「よし、行くか」

少し重めの顔で言う畠山。でも自分は少し不安要素を感じていたため、少し心配そうな顔をすると、畠山が

「どうしたんだ?」

「あっいや。やっぱり不安で、たとえ畠山さんが大丈夫って言っても、幹事長は品川派のナンバー2です。例え支持を獲得しても、品川副代表に言いくるめられたらおしまいです」

すると畠山が冷静な顔で

「そうだな。でも例えば、派閥の副リーダーであっても、リーダーのことが嫌いだったらどうする?」

「え?」

「どこもそうだ。会社に所属していても、たとえその人が副社長であっても、社長を100%好きと言うということは限らない。それは国会でも一緒ということだ」

つまり島田幹事長は品川副代表のことをよく思っていない。
確かにそれもそうかもしれない。こう見えても品川副代表はあまり国会内でも好かれている存在ではない。威張ったり、口調も荒い時もある。何度発言で炎上したほどか、逆に言えば、嫌われ者と言ってもおかしくないほどだ。
自分は納得の表情をしながら

「なるほど。分かりました」

「分かったのなら行くぞ」

2人はそのまま民主日本党本部まで向かった。そこの幹事長室では島田が男性幹事長代行と話をしていた。

「いや、まさかな。品川君が立候補するなんてな」

島田は品川より2期も先輩であり、政策など品川にアドバイスをした経験があるため、たとえナンバー2だったとしても、実質島田が影の会長の役割をしている。

「そうですよね。それもあの水田大臣も立候補しましたから、そのおかげで他の議員も負けを意識し、誰も立候補しませんからね」

島田は少し微笑みながら

「まぁ、せいぜい頑張ることだな。品川君は」

すると男性秘書が入ってきて

「幹事長。畠山官房長官がお見えです」

島田は少し驚いた顔をしながら

「え?畠山君が!?すぐに通しなさい」

「分かりました」

島田はもしかしたら大事な話かもしれないと思い、幹事長代行に

「君、もしかしたら大事な話かもしれない。外してくれないか」

「分かりました」

幹事長代行が部屋を出ていくすれ違いに、畠山と自分が中に入る。すると島田は自分の顔を見てすぐに

「あっ水田君じゃないか。久しぶりじゃないか」

自分は少し微笑みながら

「お久しぶりです」

と言って頭を下げた。確かに島田とはよく一緒に会食するほどの仲で、最近は仕事が忙しすぎてあまり会っていなかった。すると島田が笑顔で

「最近忙しいみたいだね。滅多に顔を出さなかったから、心配しちゃったよ。ということは、もしかして代表選挙の件か?」

畠山が少し微笑みながら

「分かっちゃいましたか?」

「あぁ、丁度さっき下山君と話をしていたところなんだ。まぁとりあえず座りたまえ。話をしようじゃないか」

3人が長椅子に座り、まず口を開いたのは畠山だった。

「実は先ほど、稲川副総理から支持を獲得したのですが、残念な結果になりまして」

「聞いたぞ。裏切られたみたいだな。まぁ稲川さんはダメだよ、自分が犯した汚職を今でも隠し通そうしても、すぐにばれるわな」

畠山が驚きの顔をして

「ご存じだったんですか?」

「あぁちょっとな、とあるところから聞いてな。でもマスコミもそろそろ動き出そうとしている。もし品川君が総理になったら、短命で終わるな」

確かに、品川が総理になれば稲川は重要なポジションに就くのは確実だ。もしかしたら副総理は続投かもしれない。そうなると、この汚職がバレれば、すぐに総辞職するかもしれない。そう思い、自分は

「では、お願いしたいんです。私が絶対に勝ちますので、どうか支持をお願いしたいんです」

思い切り頭を下げた。これ以上支持を失いたくないと思ったからの行動である。すると島田が微笑みながら

「私は、品川君のことはあまり好きではない。でも品川派の副会長を長年やっていただけで、少しだけ尊敬の念はある。でもな、だからと言ってずっと尽くしたままだと、下が詰まってしまう。そのためには、どこかしら変えていかなければいけない」

自分は島田が一体何が言いたいか分からずに、少し困った顔をすると

「意味が分かるか?」

「い、いえ」

「君のことを支持すると言うことだよ」

「え?」

島田は微笑みだし、上に飾ってある歴代の幹事長写真を見ながら

「私の父も、初代民主日本党幹事長としてこの党を支えた。私もそろそろ歳だ、限界がある。そのため、私は今年限りで幹事長の職を降りるつもりだ」

急な言葉のため、畠山と自分は少し驚きの顔をしていると、島田は続けて

「だから、最後に良い思いをさせてくれ。君が勝ったら私はそれだけでも十分だ」

自分は少し笑顔になりながら

「分かりました。必ずご期待に応えられるよう頑張ります」

「頑張れ」

と言って自分の肩を叩く島田。
これで構図は出来上がった。品川には松尾総理と稲川副総理が支持。自分には畠山官房長官と島田幹事長が支持している。
これで徹底抗戦が出来ると思い、準備をしているうちに告示の日を迎えた。朝のニュース番組では、その様子を女性キャスターが伝えていた。

「民主日本党の代表選挙が今日告示を迎えます。気になる立候補者は品川副代表と水田防衛大臣となります。これについてどう思われますか?」

女性キャスターが男性政治評論家に尋ねる。

「そうですね。一応支持を表明しているのは品川副代表には総理と副総理が、水田大臣には官房長官と幹事長です。これは見た範囲では水田大臣が不利に思われるんですが、官房長官と幹事長は共に派閥のナンバー2を務めており、島田幹事長に至っては、実質トップですからね。これは目が離せませんね」

自分はその光景をテレビで見ながら微笑んでいた。あの幹事長が支持してくれたのがデカい。
聞いた話だと、品川副代表も少し脅威を感じているらしく、これは接戦になるぞと思いながら、何故か心がワクワクしていた。
しかし、とあることを思い出した。今回は党員投票を行う予定だが、そうなると総理・副総理支持の品川が若干有利になる。そう思い、会見前の畠山に電話を掛けた。

「もしもし、私です。少しお話が」

その頃、首相官邸では松尾・稲川・品川の3人で話をしていた。まず口を開いたのは松尾だった。

「必ず勝てる。私と稲川さんがいる限り、君は圧勝だ。まぁ島田幹事長があっち側に行ったのは計算外だったがな」

「そうですね。一時期背筋が凍りましたが、私と総理がいれば大丈夫ですよ。品川さん」

品川が少し苦い顔をしながら頷く。すると、総理秘書官の男性が入ってくる。

「大変です」

松尾が少し驚きながら

「ノックもしないで何事だ」

秘書官はかなり慌てた表情をしながら

「大変です。テレビ見てください!」

テレビを付けると、そこには畠山がいつもの定例会見を行っており、そこでは

「えぇ、今日民主日本党代表選挙の告示が行われます。本来は党員投票で選ばれるんですが、今回は少し変更点があります。それは党員投票を行わず、国民投票にするということです」

周りがざわつき始める。もちろん首相官邸で見ている3人も驚きの表情を浮かべる。
記者会見では男性記者の一人が

「どういうことですか?」

「簡単なことです。国民に次の代表及び内閣総理大臣を選んでもらうと言うことです」

それは3人にとっては予想外のことだった。国民投票になれば、負ける確率が高くなるからだ。
実は品川はあまり国民的知名度はなく、それこそ水田の方が大臣として人気も高く、国民投票となればあまり勝つ見込みは無くなる。
防衛省で見ていた自分は微笑みだした。時間を1時間前に遡る。畠山が驚きの声を上げながら

「え?!国民投票をする!?」

「はい。その方が勝てる見込みがあります」

「でも告示の日だぞ」

「分かってます。だから後で選挙管理委員会に行き、話をしてきます」

電話の向こうで畠山が少し戸惑いの声を出しながら

「でも急に何故?」

「自分にも計画がありますから」

~第3話終わり~

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