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(連載小説)「影の総理~官房長官の政治人生~」第3話「策略」(全5話)

花田が閣僚会見を行うために、記者会見室に入り壇上に上がった。

「えぇ初閣議の概要について申し上げます。まず谷岡総理談話及び基本方針一件、人事が決定されました。内閣総理大臣談話及び基本方針はお手元にお配りしている通りでございます。大臣発言として谷岡総理大臣から内閣総理大臣の臨時代理指定についてご発言がありました。私官房長官からは4年後の国際科学技術閲覧会関係閣僚会議の開催について申し上げた所存でございます。私からは以上です」

そのまま質疑応答へと入った。一人の男性記者がマイクを持ち話始める。

「えぇ日本夕方新聞の伊藤です。私からは2点、今回の内閣基本方針についてと笹谷内閣の継承内閣として、政治資金パーティーでの暴力団組織会員参加ということを隠すための内閣だと言われていますが、花田官房長官はどう思われてますか?お願いいたします」

「えぇそれにつきましては、まず内閣の基本方針として「国民をために守る内閣」ということです。安全保障関連法案を改正し、自衛隊を維持しながらやむを得ないミサイル武器の保有、そして新たに医療支援年金の対象に介護福祉も加入することが決定いたしました。そして笹谷内閣の継承内閣につきましては、一切継承など考えたことはなく、この谷岡内閣では笹谷内閣で議論すらしなかった部分を議論という形で変えていき、そして笹谷内閣で行った不必要な法案を廃案することをお約束いたします」

その頃、総理執務室で男性秘書官からあることを聞いていた。

「え?笹谷さんが国会議員を辞めた?!」

秘書官が少し重めの顔をして

「そうなんです。どうやら花田官房長官付けで、辞職勧告を送ったみたいなんです」

「花田君が?それは何故」

秘書官が首を横に振る。実は谷岡や副総理である橋本はこのことを一切知らなかった。そう、全ては口実で官房長官である花田の独断の行動だった。それを知らされた谷岡はただ驚くしかなかった。

「花田君は一体何を企んでいるんだ」

15分後に閣僚会見が終わり、廊下を歩いていると橋本とすれ違った。すると橋本が少し声のトーンを重めにして

「どういうことだ」

少し微笑みながら橋本を見ながら

「何がですか?」

「笹谷さんの件だ。先ほど国会議員を辞職したらしい」

「そうみたいですね」

少し微笑んでいった。花田にしてみればどうでもいいことだ。辞めた人間の事など気にしている暇はなかったからだ。すると見る感じ少し不機嫌になっている橋本が

「どうやら、君が僕が了承していると言って、笹谷さんに辞職をそそのかしたとか」

「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ、そんなの噂でしょ。笹谷さんは議員辞職レベルの事をしたんですよ。当然のことをしたまでです。人の事を気にするより、ご自分の身を守ったらどうですか」

「どういうことだ」

「あなただって、別の贈賄に関わってるんですよね。いつか切られますよ」

そのまま花田は笑いながらその場を後にした。一体この男は何を考えているんだ、橋本は少し目をきつくしながら花田を見つめていた。
夜中・花田が官房長官室に入ろうとしたとき、総理大臣男性秘書官が

「花田長官」

花田が振り返り

「どうしました?」

「谷岡総理がお呼びです」

少し苦い顔をしながら、総理大臣執務室に向かった。一人で中に入ると谷岡が少し重い顔をしながら

「そこに座りたまえ」

話の内容は少し察していた。どうせ笹谷の事だろうと、面倒だなと思いながらも近くの長椅子に座る。前に谷岡が座り、まず口を開いたのは谷岡だった。

「一体、どういうことなんだ」

「橋本さんから聞きましたよ。笹本さんのことですよね」

「どうやら、君付けで辞職勧告をしたみたいじゃないか」

花田は少し重い顔をしながら

「谷岡さん、知らないんですか」

「な、何が」

少し動揺した顔になり言う谷岡。すると花田は少し表情を暗くして

「これは友人の記者から聞いたのですが、どうやら笹谷さんが例の政治資金パーティーの件で、新事実が分かりまして」

「新事実というのは?」

「実は笹谷さんは、暴力団組織の会員にお金を渡してたんです。それは先ほど連絡で知りまして」

谷岡はそれを聞いて、少し動揺した顔になった。実は谷岡は副総理時代、その贈賄に見て見ぬふりをして、過ごしていたからだ。まさかこの事がバレるなんて思いもしなかった。すると花田が

「1ヵ月後まで時間を上げます。そしたら内閣総辞職を決定してください」

谷岡は目を見開いて

「何を言ってるんだ!!今総理になったばっかりなんだぞ!」

すると花田は言語を強めて

「じゃあ、友人に頼んでこの情報を記事にしてもいいんですよ。そしたらこの党は終わりですね」

谷岡はその時薄っすら察した。この男、まさか最初から自分や笹谷を陥れるためにわざと笹谷内閣を総辞職させてから、自分を総理大臣に就任させて潰す計画を立てていたのかと、しかし、この男の指示に従わなければ、自分の議員生活はおしまいだ。そう思い少し重い表情になりながら

「内容は分かった。でも総辞職は勘弁してくれ。やっとの思いで総理になったばかりなんだ」

「ルール違反をした人間には、内閣を担う資格はない。確かに今は早すぎます。ですからまず少しだけ仕事をしてもらいます。そしたら内閣総辞職を決定してください。期待してますよ。新総理」

少し不気味な笑顔をしてから、その部屋を後にした。しかし実は谷岡は無派閥なため、誰も頼れる人間はいなかった。唯一頼れる笹谷が国会議員を辞職して以降、何か力が抜けるほどの絶望感があった。
官房長官室の中に入ると、信頼しており、同じ内田派閥の官房副長官の枝山が中にいた。枝山は立ち上がり

「あっ花田長官」

「何だいたのか」

少し笑顔で言った花田は続けて

「ちょっといいか?」

「あっはい」

二人が対面で椅子に座る。最初に口を開いたのは花田だった。

「枝山君は、将来俺のポストになりたいか?」

「えぇ、もしその時期が来たのならなりたいですけど」

少し動揺した顔になって言う枝山。花田は少し重い顔になって

「実はな。大変なことになった」

「え?」

「谷岡総理が突然内閣総辞職を決意された」

枝山が、驚いたのか目を見開いて

「はぁ?だって、今日内閣発足したばかりですよ」

「理由は分からない。急に呼び出されて、何事かと思いきや突然そう仰られた。俺は当然止めたけど、決意は固いそうだ」

当然これも全部嘘だ。この花田という男はかなりの悪人だ。確かにルール違反をしたものに成敗を加えるのは分かる。しかし、この男はその成敗という言葉を利用して、内閣総理大臣の席を奪うという、かなりの卑劣な男だ。
少し戸惑った顔をしながら枝山が

「いつお辞めになられるんですか?」

「どうやら1か月後みたいだ。今は発足したばかりだ、何が何でも早すぎると総理に俺が言った。そしたら1か月後まで引き延ばす、それ以上は限界みたいだ」

「そうですか」

少しため息をついた枝山。

「それでな、枝山君。ここからが極秘事項なんだが」

「なんですか?」

気になった様子で花田を見る。すると花田が笑顔で

「実はな。辞めた後の次期総理に自分が選ばれることになった」

「え?!花田長官がですか?!」

「あぁ、どうやら内田さんと約束をして、自分が次の総理にしてくれるよう頼み込んだそうだ」

でも少し疑問だったのか、少し顔を斜めにしてから

「でも、橋本さんはどうなるんですか?このままの流れだと、副総理である橋本さんが総理になる率は高いです。確かに花田長官はナンバー3ですが、そうじゃないとバランスが取れませんよ」

すると花田が微笑んで

「いいか。官房長官が総理になる率は低いわけじゃない。逆に副総理と一緒の確率と言っても、過言ではない。それだったら、自分が総理になったあかつきには次期総理に、君を指名するよ。そのためには君を内閣官房長官になれるようにする」

枝山は少し動揺した顔になった。それもそうだ。いきなり今の総理が辞め、上司である花田が総理になり、次は自分。確かに嬉しい以外言葉はないが、頭の中は少しこんがらがっていた。花田はそれを見て笑顔で

「大丈夫だ。君の才能は、政治には大切な存在だ。君が総理にならなくちゃいけないんだ、分かってくれ」

花田は枝山の肩を叩いた。少し笑顔になる枝山。外はもうそろそろ朝になるところだった。

この男の笑顔はまさに悪の代表みたいだった。

~第3話終わり~

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