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(連載小説)「殺人一首~岡部警部補シリーズ~」最終話(全3話)

自分は自宅のリビングで一人、悩んでいた。あの岡部の一言が頭に残って離れず、何をしても楽しくない。
でも自信は少しだけあったため、こんな私が捕まるわけがないと思っていた。だって殺人は完璧なはずだったから。
するとインターホンが鳴り、玄関に出ると

「どうも」

岡部が笑顔で言った。自分はどうぜ捕まえに来たんでしょと思い込みながらも、笑顔で

「どうも。あなたが来たと言うことは、事件は解決?」

「そういうことになりますね」

どうも自信満々に言い切った岡部の目は、まるで敵視というより、解決の安堵した様子とも見受けられた。
でも自分はあまり大事にしたくないために

「ここじゃなんですから、どうぞ」

「いえ、実は来てほしいところがあるんです」

「はい?」

突然何を言い出すかと思いきや、来てほしいところってまさか警察署?もしそうなら、いきなり連れて行かれることになるために、少し不満を覚えていると、岡部が

「ちょっといいでしょうか?」

「まぁいいですけど」

そのまま岡部に連れられて向かったのは、あろうことか佐山の自宅だった。自分はここに来るのは2回目は、当然1回目は殺したときで、2回目は現在だ。
まさか2回目にここに来るなんて誰が予想していただろうか、自分は少し想像もしていなかったが、現実を受け入れるために、少し平常心を維持しながらも、リビングまで案内されると、自分は初めて来た感じで

「あの、ここは?」

「はい。ここは佐山さんの自宅です」

「へぇ、そうなんだ」

すると岡部は気になりそうな顔をしながら

「珍しいですね。親友同士なのに家に来たことないなんて」

「そんなに仲がいいわけじゃないですから」

それもそうだ。自分と佐山はあまり仲がさほど良いわけではなく、たまに話したりするくらいだ。でもかるたになると熱く語るくらいだ。
もはやそれが親友なのか、ただの友人なのかもう区別が付けにくいが、とりあえずそう言うと、岡部は納得いく顔をしながら

「なるほど。これはご存知ですか?」

岡部が立ち止まった隣には、鳥小屋があった。そこには文鳥が大人しくいる。自分は何食わぬ顔で

「文鳥でしょ」

すると岡部が微笑みだして

「あなたよく、文鳥だって分かりましたね」

「そのくらい分かるわよ。私だってインコ飼ってるから、鳥くらい覚えるわ」

「ですが、あなた最初に会った時、佐山さんの飼っている鳥を私が思い出せなかったとき、あなたはすぐ文鳥だと言った。部屋も来たことない、仲もさほどよくないあなたが、よく佐山さんが飼っている鳥が文鳥だって分かりましたよね」

そんなこと言った覚えがなかった。でもこんな時に嘘を言う人ではないと言うことは知っていた。
ということは、完全に言った以外無い。完全に余計なことを言ってしまったと、心の中で後悔の念が起きたが、岡部は続けて

「それと、あなたのアリバイは崩れました」

「え?」

「実は、先ほど白田さんにこの文鳥の鳴き声を、電話で聞いてもらいました。そしたら間違いなくその鳴き声だったと証言してくれました。でもこの鳥は文鳥です。インコとは違います」

一気に何かが崩れ去る音がした。とっさに考えたアリバイ工作がこんな簡単に崩れ去るとは思っても無かったからだ。
でもそれは単なるアリバイ崩しのだけだと思い

「でも、それは単なるアリバイが崩れただけでしょ?それで私を犯人だって決めつけるのもどうかと思うけど」

すると岡部が微笑みながら

「これを見てください」

すると岡部が手袋をはめて、一つの束を自分に見せてきた。
それは小倉百人一首の束であり、自分は震えた。それが決定的証拠を意味するからだ。
最初は写真で見たことあったが、まさか目の前に実物があるなんて想像もしていなかったからだ。
岡部は微笑みながら続けて

「実はこれ、この現場にあったものなんですけど、少しおかしな点がありまして」

「な、なによ」

自分は少し唇を震わせながら言った。岡部は続けて

「実はですね。この百人一首の札一枚一枚に血痕が付いているのはご存知ですよね。しかし、たった一枚だけ血痕がついてないものがありました」

岡部がその一枚を自分に見せてきた。それは「千早振る神代もきかず竜田川 から紅に水くくるとは」の札だった。
岡部は続けて

「あなたは、これには一切触れられなかった。血で汚れた手でこの札はだめだった。何故なら」

「大切な句だからよ」

自分は負けを感じていた。もしその札を血で汚れた手で触っていれば、自分は勝ててたかもしれない。でもそれは出来なかった。
一番大事な句だったから。岡部は少し重い顔をしながら

「あなたは殺人というとんでもない過ちを犯した。ちゃんと償ってください。それにこれを渡します」

岡部は一枚の手紙を自分に渡してきた。
それは佐山から自分宛の手紙であり、内容を見ると、佐山は引退を考えており、一番の親友と書いてあった。八百長ではなく、自力で頑張ってほしいと書いてあり、それを見て号泣をしてしまった。
自分はなんて大変なことをしてしまったのだろうって、佐山は恐らく自分を悪人にしてまで、自分に更生してほしかったのだろうと思い、後悔の念が襲った。
すると岡部が

「大丈夫です。あなたはきっとやり直せます。人生は長いですから」

~最終話終わり~

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