見出し画像

1ヶ月で身体が倍になる「黒ラブ」を飼ったら、”旅と酒の螺旋”から降りることができた

生活のなかに予定が立ち行かなくなるような”用事”を取り込みたい。

自由に拍車がかかるような仕事の大きな流れに”錨”をおろしたい。

新たな好奇心が芽吹いて自分自身が変わるような”生き物”と暮らしたい。

柿次郎、いきなり犬を飼う

生後2ヶ月のラブラドール・レトリーバー

2023年5月2日。社会の動きがコロナ禍明け初の「自由なゴールデンウィーク」を迎えていたが、私は衝動ともいえる決断でいきなり子犬を我が家に迎え入れていた。カナダ生まれのデカくなるやつ。選んだのはゴールデンではなく、ラブラドールのレトリーバーだ。

まさかの大型犬。自然豊かな信濃町に居を構えて、広大な空間を脳がポジティブな認識エラーを起こしたのかもしれない。相手はこれまでの自分なら絶対に選ばないであろう、いずれ25キロ以上に成長する好奇心モンスター。

人間と違って1年で成犬になるため、細胞分裂のスピードが異常だ。「今日はやけに眠るな?」と思ったら大型アップデートのお知らせ。たった一ヶ月で4キロから倍の8キロになった姿を見て、「見事な生存戦略!」と膝を打つ。

買い揃えた家具や絨毯、民芸品や電化製品がズタズタのボロボロにされるかもしれないし、うんちやおしっこで己の衛生観念は足元から粉々に砕け散ること間違いなし。そんなイメージしかなかったし、実際暴れん坊であることは事実なのだろう。

だがしかし、目の前の子犬は”未来を感じさせないぐらいの愛くるしさ”で心をがぶりと掴んで離さない。猫派より、犬派だと小学校で流行ったプロフィール帳にも書いてきたし、実家で弟がシーズーを飼い始めたこともあって抵抗はないし、そのすべてを受け入れる器量として1982年生まれの戌年(いぬどし)であることは関係なくはないだろう。無意識化に刷り込まれている。

生活のなかに予定が立ち行かなくなるような”用事”を取り込みたい。
自由に拍車がかかるような仕事の大きな流れに”錨”をおろしたい。
新たな好奇心が芽吹いて自分自身が変わるような”生き物”と暮らしたい。

冒頭のモチベーションは素直に湧き出たものだ。果てのない好奇心、全国各地の動きを見届けることの途方のなさ、一言でいえば”ポジティブな行動制限”だろうか。

40歳の節目に合わせて主体的な変化を日常に取り入れている。外に飛び出る生活から、内の暮らしを充実させる生活へ。ダイナミックなガーデン計画、家庭菜園を超えたスモール農家、自然をフィールドにした遊びの開拓など、インターネットに25年間費やしてきたが、いい加減かつ、いい塩梅に、パソコンやスマホから離れる時間を大事にしたくなってきたのである。

そこに現れたのが犬。約1万2000年前~3万5000年前には、犬と人類がともに暮らしてきた歴史的背景がある。狩猟の相棒、外敵から身を守る番犬、暮らしを豊かにするペットとしてなど、時代とともに役割は変わりつつあるのだろうが、人間と犬の文化人類学的なモノサシが自分に増えるのはとてもおもしろいんじゃないかと思う。

ラブラドールレトリバーの先祖である「セント・ジョンズ・レトリーバー」のWikipediaがおもしろい。種レベルでの世代交代じゃないか。


カナダに他地域からの移民が入り始めた頃、ウォータードッグタイプの犬とニューファンドランドを交配させて作られた犬種である。凍て付く寒さの中でもリトリービングを行い、丈夫な体と扱いやすい気性を持っていたため猟師漁師に重宝されていた。後にもっと能力の高いレトリーバーを作り出すという試みが行われ、数頭がイギリス輸出されて改良されてラブラドール・レトリーバーが誕生した。
しかし、カナダ国内のセント・ジョンズ・レトリーバーは逆輸入されたラブラドールに押され、活躍の場を徐々に奪われていった。更にむやみに行われた異種交配による雑種化が進んだ事も有り、純血の犬の数は極端に減ってしまい、絶滅寸前となってしまった。あまりにも頭数の激減が深刻であったため、本種は既に絶滅してしまったと見る専門家も多かった。

Wikipediaより引用


酒の螺旋から降りて、健康的な生活に矯正チェンジ

子犬の世話はとにかく手がかかる。基本的にはおしっことうんこの処理に尽きる。日の出とともに活動をはじめて、本能として動き回るのはもちろん、「ここでトイレをしてくれませんかぁぁああああ!!」というサンボマスター級の叫び声は届かない。フローリング、ペット用の絨毯を毎日何回も洗うタスクはなかなかに堪える。そしてうんこは臭い。ペットフードのサプリ臭と動物臭が入り混じったような塩梅で、慣れるまでに時間がかかった。

また子犬初期段階の軟便は掃除の労力を跳ね上げる。倍満、いや役満かも。朝起きたらトイレを掃除するわけだが、目を離したその隙に違う場所でドロップ。大型犬のポテンシャルでひねりだすソレはもう人間と大差がないのも驚きだ。うんこの連鎖はどこまでも続くもので、散歩と合わせて毎日午前中の2時間ぐらいが子犬に振り回される時間になった。だが、それも自分が求めた偉大なる用事だと思うようにしている。仕事は残念ながらできない。

床やテーブルのものを届かない場所に置くようになって、部屋のルールが大きく変わった。置き型のゲージ、無印良品のストレージボックスを何個追加注文しただろうか。皿やグラス、ケーブル、ゴミ箱、家具の足、SDカード、犬の本、ソファなどなど、被害にあったモノを振り返ると目眩がしてくる。人間が捉えた価値など関係ないし、そこにモノがあったら口に入れて噛みまくる。純粋すぎるその行動は美しくも恐ろしい。

対策のために取り入れたペットグッズや予防グッズが毎日家に届く。5月の間はホームセンターやペットショップに通う日々だった。ひとついえるのは、まずカインズに行けである。そしてAmazonで「うんちが臭わない袋」を速攻で買え。驚異の大発明すぎるぞ。ドッグフードはタンパク質豊富な肉由来の高めの餌がおすすめ。食いつきも毛艶もぜんぜん変わる。ドラッグストアやホームセンターの穀物由来のリーズナブルな商品は、おやつやしつけ用に使い分けるようにしている。

近所が散歩天国

一方で、生活サイクルは激変した。これまで深夜3時ごろに就寝して、翌日の10時過ぎに起きるような怠惰な日々が一変し、0時ごろには自然と眠たくなって、朝8時前には起床。全国出張は極力控えて、信濃町で子犬の世話と畑づくりに勤しむ毎日。気づけば週5回ぐらい飲んでいた飲酒頻度(=外食)は激減し、ほぼ自炊で健康的すぎる暮らしに矯正チェンジ! 

驚くほどに身体が軽い。

「おれの背中は羽毛布団なのか? いや、これまでの背中がただの鉛だったのか?」とワケがわからなくなるぐらいに調子がいい。すでに人間と犬が互いの健康を慮る関係性を育んでくれているのである。外へ外へ飛び出た好奇心は丸くなり、目の前の抗えない現実に対して脳のリソースを奪われる。これがいい。

ツイッターで他者の行いに対して文字を打ち込んでいる暇なんてないし、そもそも思いつきもしなくなる。いかに脳を暇にしないか。デジタル悪魔の脊髄反射の要求に距離を置くことの健全さはもっと語られていいと思う。

毎日2〜3時間は子犬の世話に充てているため、映画やゲーム、読書の時間はめっきり減った気もするが、成長とともにしつけが追いつけばきっと落ち着いてくるだろう。Youtubeのドッグトレーナーチャンネルが参考になるので、便利な時代に犬を飼い始めたものだなと感動している。

最初はこんな小さかったのに…(体重4キロ)
一ヶ月後には8キロ超え

人間でも入ってんのか? 第9地区のエビに乗っ取られたのか?


暮らしの復権運動はつづく

目の情報量がディズニーのアニメぐらい多い

真面目な話、犬を飼い始めてから生きるスピードが落ち着いたと思う。信濃町の環境を手にして、じっくり家を整いながら一年が過ぎたタイミングで大きな変化を自ら招いたわけなんだけど、脳の成功報酬「ドーパミン」に依存しないような感覚になってきたのは喜ばしい。

もちろん、一時的な状態かもしれない。社会からの要求に対してどれだけ応えられるか。今年はもうゆっくり過ごして、次に生まれる追い風を掴むための準備期間だと割り切っているものの、2024年以降は規模の大きい仕事が生まれる予感大。自然豊かな環境+犬付きのスローダウンした暮らしを軸足にしつつ、片足のピボット運動がどれだけ大きな円を描けるのか? 

これこそ私自身が常々意識している中道の在り方であり、自分自身で決めすぎなくとも心と身体のバランス次第で変容するんじゃないかな。

もしこの生き方自体を「隠居した田舎暮らし」と捉える人がいるなら、考えを改めたほうがいいと思っているし、「タワマンの定磯でも舐めとけ」と耳元で囁きたい。戦争、気候変動にネガティブすぎる影響を受けた日本の食料安全保障のことを調べたら分かる。土と水を確保して、自分のメシは極力自分で作る時代に必ずなる。

百姓のBack to the Basicは近い。

本能が赴くままに、遊びながら生活の知恵、技術を身につける。いま目先のお金に変わりにくいものこそ、10年後の経済的な価値を生むと信じている。同時に株式会社としても一定の売上と利益を稼ぎ出し、無理のない範囲での雇用と人の教育にも力を費やしてきたし、これからもやることは変わりない。たまたま犬を飼い始めたことが、軸足の入れ替えに影響を与えた。それだけのことが、これからのことにつながる。

今年で41歳。一連の体験で厄年をなかったことにしたい。健康は犬が連れてくる説に1票。春は草原を走り回って、夏は野尻湖で一緒に泳いで、秋は山の登り降り、冬は雪山ではしゃぎまわる。春夏秋冬の遊びを思い描かせてくれたのは「信濃町」×「ラブラドールレトリバー」だからだろうな。


いいなと思ったら応援しよう!

徳谷 柿次郎
1982年生まれ。全国47都道府県のローカル領域を編集している株式会社Huuuuの代表取締役。「ジモコロ」編集長、「Gyoppy!」監修、「Dooo」司会とかやってます。わからないことに編集で立ち向かうぞ!