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旅の二周目の景色は、少し違って見える

最近、旅が続いている。これまでは取材前提の旅が99%だったけれど、取材を考えず、撮れ高を意識せず、ありのままの土地の姿を捉えようとその土地に馴染むような時間を過ごしている。

例えば、旅先で髪を切る。これがすこぶる気持ちがいい。その土地の友人が通っている美容室を紹介してもらって、共通の話題を探りながら、旅情から日常へと想いを馳せる。もはや旅といっても、少し遠い距離に住んでいる友人を訪ねる感覚に近い。

SNSの情報流通のおかげで再会を懐かしむというよりも、バカ話を中心に移動をして、店をまわって、酒を飲んで朽ち果てる。その連続の中には「普段抱えている日常」はあまり持ち寄らず、目の前の特別な時間を楽しんでいるようにも感じるからこそ、美容室で見聞きする友人の日常の片鱗を垣間見るのはおもしろい。

京都で7泊したときは、滞在中に三度も整体に通った。河原町近くで飲食店『ILL LAGO』を経営する堀田くんが通う整体だ。いかんせん旅と移動はワンセット。深酒と運動不足が招く、身体の痛みや歪みは蓄積疲労となってバグが出てくる。立ち仕事で身体がバッキバキの堀田くんがおすすめするなら間違いないのだろうと、試しに人生初の鍼灸セットの施術をしてもらったら、これがもうすごいのなんのって。

押したり揉んだりする一般的なマッサージの限界と共に、身体の歪みをしっかり矯正し、日々の身体の使い方から椅子の座り方まで、骨盤、背中、首に至るまでのアプローチに感動しきりの体験だった。

「一週間滞在する中で、なんとか身体の歪みを矯正しますので」

この一言を信頼して通った三度の整体は、一ヶ月近く経った今でもポジティブに効いている。肩こりがエクスプロジョーンし、肩甲骨が縄文土器ぐらい埋まっていた悲惨な症状が緩和。サウナに入る度、教えてもらった骨盤の動きと首の位置を意識した秘技を実践しているおかげなんだろう。

ほかにも旅の二週目ならではの変化は枚挙にいとまがない。日帰り旅行から2泊3日の旅行が基本なのかもしれないが、5泊以上がざらの海外旅行体験との差は純粋な滞在時間なんじゃないかと思っているほどだ。いつでも帰れる距離だからこそ、あえて安心してその土地に7泊してみる。ワーケーションやテレワークやなんやと世の中は騒いでいるが、最終的には旅の意識を自ら捨てて、日常とともに過ごす訓練が必要となるはずだ。

その一番の近道は「なにもしない」を選び取ること。もったいない精神の結晶として生きている自分が言うのは説得力皆無なんだけれど、ただ単純に長く滞在すればおのずと「なにもしない」時間が生まれる。

この延長に「ただ仕事をする」「ただ読書をする」といった、旅先でせっかくホテル代を支払っているのに日常と同じことに価値を見出す世界があるのではないだろうか。こんなもんは贅沢の極みだと思う。ワーケーションはその贅沢を極めろと言ってるようなもんなので、わたしはいつもパソコンを閉じて目の前の自然に五感を放り投げている。それが一番いい。

1982年生まれ。全国47都道府県のローカル領域を編集している株式会社Huuuuの代表取締役。「ジモコロ」編集長、「Gyoppy!」監修、「Dooo」司会とかやってます。わからないことに編集で立ち向かうぞ!