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【初心者向けミリタリー】戦車の歴史あらかると/Panzer029【メルカバ戦車】

(全4,444文字)
皆さんこんにちは。

毎週木曜日の昼は、かけうどんの趣味の軍事・ミリタリーに関連する記事を投稿する時間にしております。

この『歴代戦車あらかると』シリーズでは、世界各国の歴代戦車を”単品”で取り上げてみたいと思います。

今回はイスラエル国防軍の主力戦車『メルカバ』について書きたいと思います。

過去のミリタリー関連記事はこちらのマガジンにまとめています。

【メルカバ戦車】


1.概要

メルカバ戦車は、イスラエルが独自に開発した主力戦車で、第2.5~3.5世代の各区分にあたる、Mk-1からMk-4までの複数の車種が存在しています。(Mk-1は現在退役)

建国にまつわる複雑な歴史的事情から、簡単に戦車を輸入できない状況に置かれたイスラエル国防軍は、英国製センチュリオン戦車を参考に、この戦車を開発しました。

第二次世界大戦後は、戦車の開発・製造を複数の企業で行うことが普通で、一部の特殊な部品などは他国の専門企業から輸入しなければ戦車を作れない国がほとんどでした。

外国の支援を安易に期待できないと言う事情をかかえていたことから、生産に必要な部品の製造・供給がほぼ自国内で出来ると言う、世界稀に見る戦車としてメルカバは誕生します。

地形の大半を砂漠が占める環境的な特性から、イスラエルでは『オールタンクドクトリン』と言う考え方のもとに陸上戦闘力を整備してきたことから、その運用思想を色濃く設計に反映した戦車でもあります。

2.開発経緯

1963年、イスラエルとイギリスの間で、英国製『チーフテン戦車』をベースとした主力戦車の共同開発計画がスタートしようとしましたが、第3次中東戦争(1967年)の勃発によって、本計画は白紙に戻されます。

新戦車開発計画が暗礁に乗り上げたイスラエル国防軍は、仕方なく西側各国から中古の戦車を大量に購入し、改修や修理をしまくって4回の中東戦争を何とか戦い抜きます。

そこで得た、古い戦車の修理・整備・改修等で培われた技術的な経験値が、メルカバ戦車誕生の基礎にもなりました。

多くの戦死者を出した第3次中東戦争(1967年)~第4次中東戦争(1973年)から得た教訓をもとに、タル将軍が指揮する開発チームが出した新型戦車の設計上のコンセプトは、『乗員の保護を重視すること』でした。

3.構造・機能など

(1)構造機能

この戦車の最大の特徴は、乗員の安全を最優先に考えていることです。

通常、戦車はリアエンジンのレイアウトを採用する国が多いのですが、本車はフロントエンジン方式を採用しており、これは戦車としては大変珍しい設計です。(『エンジンも装甲の一部』と言う考え方による。)

フロントエンジンとしたことで、車体後部にかなり広い空間が確保され、歩兵数名が乗車できるスペースと後方への脱出用ハッチを設けています。この機能を活用して、戦場で孤立した歩兵をメルカバ戦車が収容したと言う戦例も存在しています。

余談になりますが、メルカバには、砂漠地帯には欠かせない飲料水を積み込むための飲料タンク(240リットル分)が車内に常備されています。

(2)火力など

Mk1~Mk2までの主砲は105mm戦車砲を採用。実戦での成果から、旧ソ連製戦車に105mm砲でも十分対抗可能と言うことが分かり、イスラエルでは戦車砲を120mmに換装することは考えられていませんでした。(105mmのままの方が積める砲弾の数が多いと言うメリットもあった。)

しかしながら、世界の軍事科学技術の向上に伴って、メルカバもMk3以降ではラインメタル社製L44/120mm滑腔砲を参考に独自に開発した120mm砲を採用しています。

【豊富な近接防護機能】
メルカバ独自のものとして、砲塔に60mm迫撃砲が内臓されており、このほかにも、各種小火器を搭載するための機能などが諸外国戦車に比較して非常に充実しています。戦車は敵戦車との殴り合いは得意ですが、近距離から不意に襲ってくる敵歩兵の対戦車火器には意外と脆く、乗員の残存性を重視した結果、このような機能が充実していると考えられます。

余談になりますが、最新型となるMk4まで自動装てん装置は採用されていません。乗員の生存率を最優先に考えると、自動装てん装置を導入して、乗員を4人から3人に減らした方が良いような気もしますが、戦場で戦車兵が生き残るためには『眼に見えないタスクの所要』が大量にあることから、最低4名の乗員が必要と言う考えを反映しています。

(3)機動力

米国製M48/M60パットン戦車や、英国製センチュリオン戦車に搭載されているディーゼルエンジンの改良型を搭載しており、車体重量に比してややパワー不足なカタログスペックなのですが、優秀な足回りのおかげもあって機動力は十分と言われています。

余談ですが、センチュリオンのサスペンション形式を参考にしたことから、スプリングなどの構造材が車体外部に装着されるレイアウトになっていますので整備性が良い。また、それらの部品が、意外にも防弾機能の一部として作用することが実戦データで証明されています。

(4)防護力

世界でも指折りの『重装甲な戦車』として有名なメルカバですが、要約すると以下のような特徴があります。いずれも、『メルカバと言えば?』と言う質問に対して出てくるキーワードかなと思います。

○エンジンも装甲の一部:自走不能になっても乗員は助かる可能性が高い。
○サイドスカートの装着:採用当時は珍しかった。車体側面への対戦車火器(成形炸薬弾)に対する効果が認められている。
○車体底部のV字装甲:地雷からの防護に有効
○モジュール装甲の採用:Mk3以降はこのタイプ。簡単に装甲を交換可能
○砲塔後部のチェーンカーテン:PG7のような対戦車火器に有効

4.バリエーション

(1)メルカバMk1

1979年以降運用開始された初期型。フロントエンジンや後部ハッチを含めた戦闘室などの設計はこのタイプから既に採用されています。

1982年、レバノン内戦関連の戦闘で、当時最新鋭だった旧ソ連製T72と交戦し、多数を撃破した実績があり、その戦例から世界中に知られることになります。

尚、サイドスカートの追加改修など一部Mk2型へのアップグレードが行われたましが、現在は退役しています。

(2)メルカバMk2

1983年から配備開始された、シリーズ2番目のメルカバ戦車。初代の運用実績にプラスアルファされた機能は、『市街地戦闘の環境への対応』でした。1982年のベイルートでの戦例から得た教訓が大きく影響しています。
基本的にMk1と共通していますが、砲塔への増加装甲の装着や、Mk1では外装式だった60mm迫撃砲の砲塔内部への装着(車内から操作が可能)などでした。

Mk2には、FCSを更新したMk2A、地雷原処理装置を装着したMk2B、大幅に防護力を向上したMk2/ドルダレッド等が存在します。

(3)メルカバMk3

1990年に実戦配備されたタイプ。車体と砲塔が新規設計されたもので、このタイプから主砲が国産型の120mm戦車砲を採用しています。また、火力の強化に伴い、機動力も大幅な強化が図られており、新型サスペンションや新しい変速機への更新、エンジン出力が1,200馬力に強化されました。

1990年の実戦配備以降、2000年までの間に防護力の向上や火器管制装置の更新など複数のアップデートされたタイプが存在しています。

(4)メルカバMk4

2004年から実戦配備が進んでいる現在の主力戦車。(総数約400両)強固な装甲防護力と実戦で洗練された火器管制機能や高度な情報処理システムを搭載しています。

従来型のメルカバとの外観上の違いは、砲塔が大幅に大型化し、角ばったホタテ貝のような形状をしています。

従来のメルカバは、つとめて正面から見える面積を小さくすることで被弾率を低下させようとしていましたが、対戦車火器の性能向上に伴って増加装甲の装着が余儀なくされたことから、最初から砲塔を最適化した結果、このようなデザインになったものと思われます。

Mk4の砲塔は、外装式のモジュール装甲方式なので、万が一被弾してダメージを受けても破損部位を簡単に脱着できると言う仕組みになっています。

あちこちに増加装甲や新型装甲が…といったことを言いだすとキリが無いほど防護力が強化されています。(詳しくは割愛します。)特記すべきは、車体内に搭載している砲弾を徹底して誘爆しないよう防護していることです。諸外国の戦車と比較すると破格の防護措置がとられています。(誘爆防止のため砲塔の駆動は油圧式から電気式に変更)

120mm主砲は、レーザー誘導方式の砲発射型ATMを発射可能で、これは敵ヘリコプターにも有効とされます。

メルカバMk4ではエンジンをドイツ製MTU883ディーゼルエンジン(世界最高水準の戦車用エンジン)の米国ライセンス生産品を搭載しており、これでやっと世界列強各国の主力戦車とエンジン出力が同等のスペックを有することになりました。

2007年、トロフィー/アクティブ防護システムを導入。この種類のシステムはいまだ開発途上にあるものの、イスラエル製のものは一定の効果が実戦で確認されているとされます。

戦車の周囲をミリ波レーダーで警戒し、敵から対戦車ミサイルやロケットを発射された場合、それを空中で察知し、グレネード弾を発射してこれを物理的に迎撃するシステムです。

2012年、実戦配備中のメルカバMk4全車両にトロフィーシステムが導入されています。

その後も、Mk4は逐次近代化改修を重ねつつ実戦で運用中です。最新型のものはAIによる情報処理サポート機能や、VR技術を応用した乗員用センサー・モニター機能等も充実しているとされ、乗員の負担軽減が期待されているようです。

(5)メルカバMk5

2020年を予定していたMk4の改修型導入が予算面の問題などから延期していたところ、本タイプを更に強化した、実質Mk5が近く採用されるとの情報もありますが、細部は不明です。

某近代戦の教訓から、今後の戦車設計には多くの新しい課題が残されており、それらへの対応を含めた検討が今もなされていることが予想されます。

5.最後に…

戦車は、その開発から製造までのハードルが非常に高い物であり、『国が持っている工業技術の結晶』とも言えます。

4回にわたる大規模な戦争を、西側諸国から購入した中古戦車を改修し、旧ソ連軍の最新戦車と戦った経験があったからこそ、イスラエルの戦車開発・製造技術は向上したのかも知れません。歴史的背景などを考えますと、特殊な環境下に置かれた国だから作れた戦車だったのかも知れません。

毎度のことながら、なにしろ素人が書いている記事です。諸所分かりにくいところもあるかと思いますがどうかご容赦ください。

最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。

付録:メルカバとはヘブライ語で騎馬戦車を意味する言葉。

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