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あらゆる角度から光を当てる舞台『十二人の怒れる男』

文化も考え方も違う人々が同じ社会で生きていくって、本当に面倒くさくてしんどくて。それでいて、とっても素晴らしい。

『十二人の怒れる男』は無作為に選ばれた12人の陪審員たちが、父殺しの罪に問われる少年を死刑にするか否かで激しく討論する過程を描いた法廷劇の傑作です。

次々に真実が解き明かされていくサスペンス要素を持った密室会話劇であり、様々な文化に所属する考え方の全く異なる12人を描いた群像劇であり、差別による分断、多数決による民主主義を描いた社会劇であり、12人分のあらゆるスーツ姿が堪能出来るスーツ劇(※個人の見解です)といった多面的な楽しみ方の出来る作品となっています。

集まった12人は、アメリカでそれぞれの生活を営む平凡な男たちで、傑物やヒーローは誰ひとりとして出てきません。

話し合うって、思ったよりしんどくて時間がかかる

12人の陪審員たちは当初、めいめい好き勝手に話し始めます。その様子は、まるで色も強さもバラバラな光が一斉に放たれるかのよう真実は白飛びし、何も見えないまま陪審員たちが少年の死刑に票を投じようとした時、堤真一さん演じる陪審員8番がただ一人無罪を主張し、静かに口を開きます。

「話し合いましょう」

そこから喧々諤々の議論に。時には激しい衝突もありながら、粘り強く対話を重ね、少しずつ互いの話に耳を傾けることで、一人ひとりの視点から事件の真相に光が当てられ、徐々に真実の輪郭が明らかになっていきます。

それは議論に参加する陪審員たちも同じで、事件の証拠に光を当てたつもりが、言葉の裏に隠されたそれぞれの持つ差別意識や誠実さといった、その人の本質も浮かび上がることに。

そしてスーツ

Yes、スーツ。

大事なことなので2回言いました

言い忘れてたんですけど、今回四方から客席でセンターステージを囲む形なんですよ…つまり、12人のおじさまたちの様々なスーツが360度あらゆる角度からご堪能いただけます…これ公式サイトの見どころに書いておかなくて大丈夫ですか。

しかも舞台写真をご覧いただければ分かるようにジャケットを脱ぐ所まであるんですよ…腕まくり、四分袖、サスペンダー・・・\最高/

役によってもスーツが違って、それぞれが各々を引き出す最・適・解。。。。仕立ての良い高級なスーツもあれば、着古した身体に合っていないスーツ、着る人の趣味を反映した洒落たスーツに、誰かに好感を持って貰うのを目的とした無難でこざっぱりとしたスーツ…など、着用されているスーツにもそれぞれの性格の違いや貧富の差までが見事に反映されています。

名優たちの熱く冴えた芝居をとにかく観て!!

『十二人の怒れる男たち』が好き過ぎるが故、完全にタイトル買いで、実はどなたが出演するのか知らないまま劇場に向かったのですがナイスドリームメンバー大正解。

陪審員8番役に堤真一さんという時点でもう優勝なのですが、様々なドラマ・映画・舞台でご活躍の名優たちが集まって、息を呑む緊迫の会話劇が繰り広げられています。

特に、山崎一さん演じる陪審員3番が本当に人間くさくて素晴らしくて。最後のシーンは圧巻で「何か別のものに個人的な思いを重ねてしまう人間の性を誰が責められようか…」とちょっと泣いちゃいましたよね…これを書いている私自身、無意識に何かに何かを託したり重ねてしまう時がありますし。

作中で、別の角度から光に照らされたのは紛れもなく陪審員3番さん自身でもあったと思うんです。

そんな人の持つ見えぬ"何か"を照らしてくれたり、ゆるやかに溶かしてくれるのもまた、他者の厳しくもあたたかな眼差しであると信じられる舞台でした。

コロナ禍でさまざまな分断があらわになる2020年のいま。同じ社会を生きるみんなでひとつの結論を出すことの面倒くささと意義、そして客席にいる私たち自身に改めて光を当ててくれる『十二人の怒れる男』。

Bunkamuraシアターコクーン(渋谷)にて2020/10/4まで上演中ですので、お時間の合う方はぜひ!とりあえず、スーツも最高だからみて!!


・・・2018年個人的みんなに見てもらいたいエンタメNo1だった舞台『魔界転生』で天草四郎を演じていた溝端淳平さんが陪審員12番役として登場し、調子よく立ち回りながらも本音が分かりやすく見え隠れする広告マンを非常にリアルに演じられていて、広告屋ってこう見えてる時も多いんだろうな…!と笑ってました😂(←広告界隈の人)みんな素直で輪を重んじる良い人です笑

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