読書感想文「コンテナ物語」

本の内容

20世紀後半に現れた「コンテナ」により産業全体がどのように変わったのかを解説した本。

「コンテナ」出現による物流革命は産業に以下のような変化をもたらした。


コンテナ輸送が普及する以前、消費者は自国の賃金水準で製造された商品を購入していたため、賃金水準の高い国では高い値段の物を買わざるを得なかった。
しかし、コンテナ輸送の普及により物流コストは激減し、生産したものを遠隔地に送ることが容易になる。
先進国の企業は賃金の高い自国の工場で商品や部品を製造するよりも、賃金の安い国の工場で製造し、商品を販売するようになる。それにより商品の価格は下がり、消費者は簡単に安い商品を購入できるようになった。
一方、先進国で製造業に携わる労働者は自分よりはるかに安い賃金で働く海外の労働者と競争する羽目になり、多くの者が失業することになった。

「コンテナ」がなぜ物流に革命をもたらしたのか

そもそも「コンテナ」はどのようにして物流を変えるにいたったのか。
本書で議題に上がっている海上コンテナとは長さ20フィートから40フィートほどの金属製の箱である。その箱に貨物を詰めて輸送するのがコンテナ輸送というものだ。今日、洋上輸送では当たり前の手段だが、1950年代ごろでは事情が異なる。
コンテナが普及する以前、貨物はすべてバラバラの状態で人力で船に積み下ろしされていた。物によって形も異なるため、船への積み方も考えなくては効率よく輸送することができない。
こうした船への積み下ろしを行う人のことを沖仲仕と言う。洋上輸送を行うには大量の沖仲仕を雇い、人海戦術で積み下ろしをする必要があった。沖仲仕への賃金というのは洋上輸送をする際、大きなコストとなっていた。
しかし、コンテナに貨物を詰めて輸送するとどうだろう。
船には同一規格のコンテナのみを積むことになるので、貨物ごとに積み方を変える必要がない。大型のクレーンを使ってどんな貨物でも同じような積み下ろしをすればいい。それも今ではコンピューターを使って自動的に積み下ろしを行っている。
更に、コンテナはそのままトラックや鉄道に積み込むことができるので、陸から海、海から陸への積み替えのコストも削減することができる。
今日では20フィートコンテナを20,000個も積むことのできる巨大船を使って輸送することでコンテナ一つあたりの輸送コストを極限まで削減している。
人力より圧倒的に安く、圧倒的に早く物を遠隔地に送れるようになったのである。

感想

本書の前半部はコンテナを発案した人物、マルコム・マクリーンがいかにしてコンテナ輸送を実現していったかが書かれている。
コンテナ輸送のためには専用船の造船、港の改造、そもそもコンテナの製造ととかくお金がかかる。コンテナを導入する際、物流会社は資金調達のためM&Aや政府への補助金申請を行ったりするのだが、その部分が難しかった。
私は金融知識に乏しいため、知らない用語や理解できない部分が出てきて、何度か検索しながら読み進めることになった。金融知識、特にM&Aについての知識を付けたうえでもう一度前半部分を読みたい。
コンテナ輸送実現により確かに多くの人が安くて品質のいいものを手に入れられるようになった。しかしその過渡期でそれまで積み下ろしを仕事としていた沖仲仕が職を失うことになる(沖仲仕たちにも問題はあるのだが)。また、物流が安く早くなったことで製造業を中心にブルーカラーの労働者の多くが職を失うこととなった。
コンテナが導入された当初、コンテナ輸送により産業がこうも変わってしまうとは、誰も予想していなかったという。積み荷を箱に入れて運ぶようにしただけで、世界中の産業が熾烈な競争を繰り広げることになってしまったのだ。単純な一つの変更が世界規模の影響を及ぼしていたという点は面白いと同時に恐ろしかった。


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