#6 えび天を抜いたあなたは今日から勇者です

【かにぱんを野生にかえす】
かにぱんはファンタジー
コンビニやスーパーの惣菜パンコーナーで色々なパンが味や食感を思い出させるように表現している中でひときわ異質を放っているのがかにぱん。パンにかに！？かに味なの？と最初思った。ガリガリ君のたまにでる変な味シリーズみたいに期間限定物かと思ったらどうやら長寿商品らしい。味もカニ関係なくミルクパンのような風味でほんのり甘い。
どういう経緯で出来たのだろう。カニが先なのかパンが先なのか。カニを食べたいけど高くて買えないからパンでカニを作ろう。と思ったのだろうか。カニがなければパンを食べればいいじゃないの。納得できるか。
とにかく、なぜカニなのか。人の頭からカニでパン？パンでカニ？を作るという発想が出るなんて信じられない。出ても引っ込めるはず。パッケージを見てみるとカニを分解して繋ぎ合わせて、もぐらやうさぎなど他の生き物にできるよ。と書いてあったから、カニにそこまでこだわりはないのかも知れない。
安直な発想かも知れないけど、カニが魔法使いにパンにされたのでは。
思えばカニは他にも魔法をかけられている。横にしか歩けない身体にされたり、じゃんけんでチョキしか出せない身体にされたり、何をしたらそんなに魔法使いを怒らせる事が出来るのだろう。魔法使いが買った新品の服のタグを勝手に切って返品出来ない様にしてしまったのだろうか。魔法使いの後ろを歩く時に、魔法使いの靴のかかとを何度も踏んでしまったのだろうか。とにかくかにぱんはファンタジー。かにぱんが店に並び続けるのは他のカニへの見せしめなのか。店からかにぱんが消えた時は、魔法使いとカニが和解した時だ。

【パフェを打ち上げる】
パフェというパフェを初めて食べたのは初めて付き合った恋人とパフェを食べるという目的だけで行った洋食屋だった。他に使いみちが無さそうな器にドーン！！と甘いものが積み重なっていて、ここでしか見られない、味わえない甘さがここにある！と気持ちが跳ね上がった。口に入れると目の前にそびえ立つパフェにこれから入り込んで、この甘さをどんどん味わえるのか！という感動と期待で頭の中に多幸感が広がった。
その後は甘いね、美味しいねと話しながらパクパク食べていたけど段々と言葉が無くなっていった。味の感想のバリエーションが無くなるほど長い間、気がついたら黙々とパフェを食べていた。パフェの非現実感を前に早く食べないとロケットみたいに打ち上がって居なくなってしまいそうな気がした。
食べ終わった後は頭に糖分が行き過ぎてボーッとしていた。パフェは日常とかけ離れた暴力だ。余韻に浸ってもう抜け出せないかとさえ思った。温かいお茶を飲んだ時にホッとして我に返って「助かった」と思った。恋人は「次来る時はどのパフェ食べたい？」とメニューを広げて涼しい顔で言っていた。女性は甘いものが好きと言うけど、甘いものに対する許容、宇宙かよ。と思った。
その人とはそれから2度目の来店は叶わずして別れてしまったけど、パフェのアイスを食べ過ぎて凍えていたら店員さんに「冷房弱くして貰えませんか？」と言ってくれたのが嬉しかったな。優しいなと感動したのと、パフェを食べながらそんなに冷静で居られるなんて逞しいな。と思って、甘いものに対する許容、宇宙かよ。とも思った。

パフェの話は細々と何度かしたいな。

【勇者の剣が天むすみたいでやる気が出ない】
天むすをもう何度も見ているはずなのに「噂では聞いていたけど本当におにぎりにえび天が刺さっている！」と毎回二度見をしてしまう。だから食べ物としてまだ認識できていなくて食べた事がない。
天むすの形って面白い。具を収める気が無い。持ち運びに不便だし、そもそもどうやって食べるのだろう。上から尻尾ごと？いやいや尻尾は最後食べるか食べないかで悩むのがえび天を食べる楽しみの一つじゃないか。それに尻尾を美味しいと思った事がない。食べるとパサパサで痛くて決まってテンションが下がる。尻尾はえび天との別れを引きずらないようにする為の部分である。まるで恋人と別れる時にわざと冷たくする人みたいに。あんな奴、別れて良かったよ。でも、良い思い出も沢山あるな。みたいな。
食べ方の話に戻るけど、一度天むすを抜くのだろうか。尻尾を掴んで天むすを抜いて下からえび天を口に入れて、それをおかずにもう片方にあるおにぎりを食べるのだろうか。ワイルドな食べ方だな。でもそれならば持ち運びにも便利に感じるし、食べやすくもある。しかし、抜いた人いるのだろうか。想像がつかない。おにぎりを食べる人のビジュアルからは離れてしまう気がする。抜くのは勇気がいるぞ、一度抜いてから食べるのも更に勇気がいるぞ。
各世代の老若男女を集めて、天むすを与えてどう食べるのか見てみたい。えび天を抜いたあなたは今日から勇者です。冒険に出て貰います。