見出し画像

#1 寝る前に開ける冷蔵庫

夜。歯を磨いて後は寝るだけ。でも何だかこのまま1日を終えるのは物足りない。時。無意識に冷蔵庫を開けている事に気が付いた。
開けた冷蔵庫の中はライトアップされた野菜や果物やチョコレートや飲み物などがあり賑やかで、このまま冷蔵庫に入って盛り上がっちゃいますか!となるのを抑えて冷蔵庫の中身と明日のミーティングをする。明日はこれを食べよう。明日は久々にお酒でも飲もう。とささやかな楽しみを噛み締めながら布団に入る。

一人暮らしをしていた頃、それなりに自炊をしていた。料理をするのは苦痛では無かったし、どんなに仕事に追い込まれてもご飯は美味しかった。頭が真っ白になるくらい疲れた日も料理本を見ながら「これはどんな味がするのだろう?」とわくわくしながら料理をして、答え合わせをするかのように真っ白な頭に塗り絵をしていくみたいに食べた。
しかしあまりにも仕事が重なり、しばらくまともに冷蔵庫を開ける事が出来なくなり、ついに冷蔵庫に入っている人参を腐らせてしまった。その腐った人参を見た瞬間に心が完全に折れ、料理が出来なくなってしまった。友人が遊びに来た時も冷蔵庫を開けて「なんてつまらない冷蔵庫なんだ!」と叫ぶくらい冷蔵庫にはほぼ何も無い時期が続いていた。

冷蔵庫の中が再度賑やかになり始めたのはそれから半年後くらい、当時の彼女(現在の妻)が体調を崩した時に何か栄養のあるもの……と冷蔵庫を開けたときに何も無くて「命と関係の危機だ!」と目が覚めて急いでスーパーに向かった。

今は冷蔵庫の管理はほとんど妻に任せてしまっている。だからこそのアトラクション感もあるが、ずっと入っているちらし寿司の素、冷やすのが仕事なのに冷やされ続けている冷えピタ、いつも賞味期限内に飲み切れない牛乳、食べるタイミングが分からないナタデココの缶、確実に減っていっている妻から貰ったチョコ、しぶとく残っているケチャップ、などを眺めるのが好き。
あと、冷蔵庫はパッと開けて、パッと見て、パッと物を取ってパッと閉じる。という動作が好き。中から冷気を筆頭に中身が逃げ出そうとしているのを阻止しているみたいで楽しい。「させるか!」と思いながら閉じるのが楽しい。

そんな風に、夜、寝る前に開ける冷蔵庫みたいにちょっとしたタイミングでちょっとした楽しみを感じた事を書いていきたい。人間は過去とか未来の事を考えると憂鬱になりやすいらしい。だけど、ほんの少しだけの明日ならば想像してもにんまりして過ごしていける気がする。
僕はこの細かい楽しみのおかげで元気にやれている気がする。これと言って何かが起こるわけではないけれど、このマガジンではこぼれているような些細な事を書いていきたい。
僕がたまに描くイラストもそういうコンセプトがあるから、そのイラストの解説もしていきたいな。

今日は帰ったら冷蔵庫に何が入っているだろう。