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#2 振り向くとカステラ

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カステラは特別な食べ物。立ち位置も特別で主食としてのパンなのか、お菓子なのか、デザートとしてのケーキなのか未だに分からない。カステラが出てくると今日は特別な日か?と少し周りをキョロキョロする。

小学生の頃、友達が住んでいたマンションが四角くて屋根が茶色で壁が黄色で「カステラマンション」と名付けて呼んでいた。そのマンションは特別中が凄いという訳では無かったけど、カステラマンションに遊びに行く。という行為が無性に気持ちをワクワクさせた。今はそのマンションは取り壊されて、友達が今どこにいるのかすらわからないけど、カステラマンションに無条件でワクワクしていた記憶は鮮明にあって、食べ物の中に住む。という現実が肥大して非現実になる光景が、友達がまるでテーマパークに住んでいるかのようで羨ましかった。

今でもカステラに対しての特別感はある。コンビニやスーパーでカステラを見かけるとずっと気になってしまう。カステラに見つめられているような気がしてしまう。カステラを買わずに買い物を終えて店の外に出ても付いてきているんじゃないかと期待してつい振り向いてしまう。
振り向くとカステラは動きを止める。どうやらカステラは人間にすり寄ったり媚を売るのはポリシーに反するみたいで、こちらから拾いにいかないといけないらしい。どこまで付いて来るんだろうと小まめに振り向きながら歩いていたが、店の屋根から先へは来なかった。そこからジッとこちらを見てくる。「ごめんね」と思いながら帰宅する。居間のソファーに座りながらあのカステラ、誰かに買って貰えたかな。と思いを馳せていたら、妻が帰宅し、腕にはさっきのカステラが抱えられていた。「スーパーで美味しそうだったからつい」
ここまで来ると嬉しさよりも恐怖が勝つ。

カステラは基本買うものと言うよりも貰うもの。というイメージがある。いざ貰った時はそりゃ嬉しいのだけど、家にあると、いつ食べよう?と困る。結局、朝寝ぼけている隙に食べて、いつ食べても正解だね。と目が覚める。その日は「朝にカステラを食べた人」になる。ついつい自慢したくなる気持ちを抑えて、カステラを食べた記憶がこぼれないように抱え込む。抱え込んでいる間、きっと優しい顔をしている。