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9・11あれから〜セルフレス(無私)という行動

学生の時、当時ボストンに住んでいた従姉妹と叔母さんとでNYへ遊びに行った。

いわゆる観光バスに乗って、いろんな観光地を周った。

その時登ったツインタワービル、つまりワールドトレードセンター。

長い長いエレベーターに乗る。最上階は110階。
観光客のために屋上からマンハッタンが見渡せる展望デッキがある。

展望デッキへ行くためには、ガラス窓や鉄柵など安全を保証された日本とは違い、無骨な骨組みの階段を登って屋上へ行く。
屋外は風が強く、とにかく展望デッキは105階で完全に屋上ではないけれど、とにかく高い。
高所恐怖症の私は、安全柵が朧げで、足を踏み外さないよう気をつけるのに集中し過ぎて、あまりマンハッタンの景色を満喫できなかった記憶がある。
その時は幼すぎてよくその光景が楽しめなかったことが、今思うと後悔している。

4年前に今度は仕事でNYに行くことがあり、帰りの飛行機まで空き時間があったので、以前観光客として訪れた場所にまた行くことにした。
しかしその場所はもう名前が変わっていた。

グラウンド・ゼロだ。

全てが違っていた。観光客はたくさんいたけれどなんとなくモノ悲しいような、楽しめるような雰囲気の場所ではなかった。

今日で9・11から20年経った。あの事件を知らない人たちもいるだろう。

改めて読んだ「ニューヨークの英雄/9・11の消防士たち」。事件当時の消防士、生存者などニューヨーカーの取材をした本だ。

自分が生き残った事、助けられなかった事への後悔、その思いの中で、現場では無心になってまだ救助を続ける消防士たち。それでもNYという街を愛している人々の声が綴られている。

その中で気になった一節がある。

「互いにもっと寛容になるべきではないか。理解しようとすればできるはずだ。なぜ今までできなかったのだろう」

「今現在を充実させて、毎日精一杯生きる。家族や友人を大切にする。隣人を助ける。日常茶飯事に感謝する。そんな当たり前のことに気づくのに、あんな大惨事が必要だったなんて。なんと皮肉なことだろう」

「地球上に生きる僕たち全員の問題だし、僕たち全員に責任があると思う」

「宗教価値観違いを乗り越えて互いに尊敬できるようになることが大切だ。そのためには教育ももちろん必要だ。だが双方の努力がなければ実を結ばない」

一見大惨事に見える事でも、そこから人々は学び、さらに人としての向上を目指す。

とても悲しいことで、2度とあってはならない。
だからといって復讐したとしても悲しみと苦しみしか生まれない。

8月31日にアフガニスタンでの米国の軍事駐留を正式に終了した。9・11をきっかけに始まった駐留だが、それから20年経った今もまだテロで人命が失われており、内政が安定しているとはいえないのが現状だ。

もう一度同じ過ちを繰り返すのか、学んだことを糧に前に進むのかが問われていく。

9.11での消防士たちは自分の身の安全を第一に考えない。
自己は常に二の次にある。非常事態に対してまず考えるのは人の救出である。

このビルに入って行ったならば自分は命を落とすだろうとは1秒たりとも考えない、そんな時間もないと言っていた。
そんな消防士たちのセルフレス(無私)の行動がアメリカ人の心に大きな感銘を与えた。

自分の事しか考えない人もいる中、消防士のように他人の事を第一に考える人もいる。

炎と煙の中、逃げる途中警備員がスピーカーで避難する人を誘導する。
その時ゴッドブレスアメリカを歌っていた。その歌声は決して上手とは言えないが、タイタニック号の沈没の時の演奏家のように、避難する人々の心に希望を与えた。

消防士であった夫を9.11でなくし、未亡人となってしまったキキがこういう。

「人々は本当に大切なことを分かっていない。どこに住み、どんな車を運転し、年収がどれだけあって、どんな家に住んでいるか、貯蓄がいくらあるかが問題ではない。

何が大切か私たちが考えて、本当に大切なものを大事にすべきなの。そうでなければこの社会は良くならないわ」

「出来事には必ず意味がある。あり過ぎるわ。でもそれが分からなければ体験した意義がない。人間としての成長はない。」

「私は完全でいい人間になりたい。成熟し、思慮深く、全てを受け入れることができる人間に。
それには感謝の気持ちがとても大切だと思うわ。心から全てのことに感謝の念が持てるかどうか。それができれば何が起こっても気持ちは乱れないわ」

今年になって世界で未曾有の洪水、熱波による森林火災などが起こっている。
そんな時に自分はどんなことができるだろうか。家も流されて今まで大事だと思っていた、持っていた物が全く役に立たなくなって、大切な人がいなくなったとしたら。

私はその時には消防士のようにセルフレス(無私)になれるだろうか。

キキのように強い人間になれるだろうか。

いや、今後はどうなるかは分からないけれど、その時までに後悔しない生き方を、本当に大切なものを日々大事にしていくことが必要なんだなあ。

そんなことを考えたい今日だ。

つづく

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