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「買い置きの不利益」

 みなさんは、「買い置き」をされていますか? どうしても今使っているものがなくなった時のことを考えて、安心のために余分に買っておくことはないでしょうか。食品や消耗品は特に「買い置き」してしまうモノです。
 羽仁もと子著作集 第9巻『家事家計篇』には、「買いものについて」という章があり、大正から昭和初期にかけて羽仁もと子が「買いものの心得」について記しています。
 シリーズでお送りしている「羽仁もと子のことば-買いものについて」最終回は、「買い置きの不利益」をご紹介します。買い置きは不経済? 羽仁もと子はのどのような視点で家庭経済を見ているか、とても興味深いお話です。

買い置きの不利益
 買い置きが不経済だということを主張する経験のある主婦がまた多くあります。何でも買い置きが得のように思うのはまちがいで、これは買い置きにすべきもの、これは割高でも今いるだけ買っておくほうがよいものと、見分けが必要のようでございます。
 私はいまこう考えています。ちょいちょい財布の口をあけすぎると思う人は、ちょいちょい買いはしないようにと、ネルの一巻でも買っておくように。また買い置き好きの人は、自分の身のまわりに、あんまり物がありすぎるのではないかということを、折々かえりみる必要があるように思います。
 戸棚の中にも古い新しい布類が一ぱいにしまってある。縁の下には、炭薪がぎっしりつまっているというようなのは――私はそれを物持ち主義といっています――ごくの僻地は別として、なるべく身のまわりを簡素に軽快にしたいという感じにはあわないやり方です。人おのおのの性質にもよることですが、研究を要します。大人数の家では、魚でも切り身で買うよりは、大きく買った方が、どうしても徳ですけれど。
 物価も主婦の会というようなものがあり、寄りあうたびに話しあって、お互いに高い買いものをしないようにすることが大切でしょう。

羽仁もと子著作集 第9巻『家事家計篇』第九章「買いものについて」より抜粋

「なるべく身のまわりを簡素に」の背景に、関東大震災!!

 1923(大正 12)年、関東大震災は、首都圏の暮らしを一変させました。震災後の『婦人之友』 10 月号で、羽仁もと子は「めいめいに一身一家の安全ばかりを念として、自分の持ち物をふやそうふやそうとする生活は、冷たい利己的な社会をつくるのです」と書き、 11 月号 では、「生活は簡易なほど、真の楽しみ多きものであります」と書いています。習慣の因習から脱することのできなかった人々も、震災を機会に「こんどこそは、簡易生活に復らねばならぬのであります。」と、簡素な暮らしを勧めていることを付け加えます。


羽仁もと子とは、どんな人? 

1873年、青森県八戸生まれ。1897年、報知新聞社に校正係として入社。その後、日本初の女性記者として、洞察力と情感にあるれる記事を書く。同じ新聞社で、新進気鋭の記者だった吉一と結婚。1903年4月3日、2人は「婦人之友」の前身、「家庭之友」を創刊。創刊号の発売前日には長女が誕生し、自分たちの家庭が直面する疑問や課題を誌面に取り上げ、読者に呼びかけ響き合っていった。1930年に読者の集まり「全国友の会」が誕生した。最晩年まで婦人之友巻頭に友への手紙を書きつづけ、そのほとんどが著作集全21巻に収録されている。

婦人之友では、2021年1月号より、森まゆみ氏による「羽仁もと子とその時代」を連載中です。10月号では、家計簿のことにも触れています。


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