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「私どもはいつからでも新しくなることが出来ます。朝に道をきいたら、夕をまたずに実行すればよいわけです。」

 今回は、羽仁もと子が家事と家計を中心に身近な家庭経営の問題に熱心にとりくみ、著作集としてまとめ上げた『家事家計篇』より、巻頭の言葉「人生の朝の中に」の引用をご紹介します。
「今、この篇を書き終わり編み終わって、ほっとしました。身辺に雑然と積み重ねてあったものを整理した時の心地よさです」という書き出しで始まるこの文章は、羽仁もと子にとって「家事と家計」が暮らしの中でいかに大切であるかということを物語る一文です。

人生の朝の中(うち)に

 私はまたこの篇の中に、一日のおもな仕事は、朝のうちに、午前のうちに、一週間のおもな仕事は週間のはじめのうちにということを書きました。

 人一代のうちで、新家庭時代は、ちょうど働く人の朝のようなものです。規律正しい生活をして、よい健康を保ちつつ、夫も妻も精出して働きましょう。賢い心をこめてつくった家の規律は、赤ん坊に働いて、そのよい笑顔になり、幼児の笑顔はやがて叡智(えいち)にかわっていきます。

 早くも忍耐と勤労の上に建てられつつある整然たる家計は、ひとりでに働いて、子供たちの強い筋骨と意志をつくります。貯金は早くから始めるほど利に利を生んでいくように、私たちのよい家事と家計も、出来ただけずつそれ自身働いて、その日その日の私たちを助けてくれます。私は心から若い方々のご奮発を祈ります。 
 考えてみると、私どもはいつからでも新しくなることが出来ます。朝(あした)に道をきいたら、夕をまたずに実行すればよいわけです。一人一人真剣な主婦になりましょう。私たちの家は私たちの城です。一つの城をあずかっている自分たちは、楽しんで自分の城の中を立派にしましょう。

 まず一つの部屋をきれいにしても、すぐと目に見えるから愉快です。目に見える家事にばかり興味を持って、精神的方面の経営をおろそかにするのは、あぶない崖の上に大きな家を建てるようなものですが、目に見えることからはじめて、目に見えないことにおよぼしていくのは順序です。

 不景気の問題も、家々の事務から経済から筋道をたてていったら、その力で半分はらくになっていくでしょう。そうしてめいめいの一城をあずかる私たちが、この篇の終わりに提案してある主婦の会などによって手をつなぎ、この国の生活によい規律を与え、経済にむだをはぶいていったなら、世界の市場はすぐと賑わってこなくても、豊かな気持ちで暮らせるようになるでしょう。

 この『家事家計篇』がみなさまをそうした興味にまで導いていくことが出来るかどうか。はじめから終わりまでどうか読んでいただきたいと思います。

羽仁もと子著作集 第9巻『家事家計編』-巻頭の言葉-昭和二年十月十四日


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