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「買い置きの利益」

  2020年2月に、新型コロナウイルス感染拡大で、スーパーなど「トイレットペーパー・ティッシュペーパー完売」になったことがありました。今使っているものがなくなった時のことを考えて、安心のために「買い置き」することは多いようです。
 羽仁もと子著作集 第9巻『家事家計篇』には、「買いものについて」という章があり、大正から昭和初期にかけて羽仁もと子が「買いものの心得」について記しています。シリーズでお送りしている「羽仁もと子のことば-買いものについて」3回目は、「買い置きの利益」をご紹介します。次回は最終回!「買い置きの不利益」です。 

買い置きの利益

 まず買い置きの損得ということは、人によっていろいろにいうようでございますが、やはりごぼうやにんじんの一本買いや、ねぎを五銭十銭と買うというようなことは、小人数の家にしても非常に損だと思います。かなり小人数でも、にんじん、ごぼうの一把ぐらいは、置き場所をきめて買い置きにするほうがよさそうです。都合のよいときに主婦自身買いものに出かけて、あらかじめ書きつけてある品書きにしたがって、日数がたっても悪くなる気づかいのない必要品を、品物のたくさんある勉強する店に行って、まとめて買っておくほうが利益だと思います。

 時間にしても、毎日の買いものはなるべく数の少ない方が都合がよいのです。八百屋にも寄り乾物屋にも寄り、肉やにも砂糖屋にも寄るというようでは、たださえ長くかかるのに、買い落ちもたびたびあって、またもう一度使いを出さなくてはならないようなことも起こりがちです。かつ、その日その日の買いものばかりしていると、雨風にかかわらず買いものにいかなくてはならないのです。

 買い置きはよくないとか、または不経済だとかいうことをきくのは、味のかわりやすいものなどを買い置きするとか、あるいは買い置きにしてあるものを、つい価のないもののように思って粗末にするために、場所ふさげをした上に、結局高いものについてしまうというようなところからでしょう。買い置きに適するものを、一時に買うのは決して損になりません。と買い置きを主張する人はいいます。

 また野菜の置き場所に、里芋が五つ六つ乾きついていたり、三つ葉が少しばかり赤くなって残っているというようなことのないために、夕方料理のすんだあとで、必ず残りの野菜などをしらべることが大切です。しらべるといえば大変ですが一日に一度ちょっと目を通せばよいのです。そうしてそのあるものを心に入れて、夜『主婦日記』に向かって献立をこしらえると、一つ二つのじゃがいも大根の切りはしでも、巧みに利用することができます。その他砂糖かつおぶし海苔などでもすべてたくさんに買い置いてあるものは、大きな入れ物ごと置くことがないように、相当の器に小出ししておきます。

 切れ間を待たずにたたみかけて物を買うことが不経済であるように、やはりこの小出しでもちょっと切れ間をおいて、またその一とくぎり一とくぎりに責任を持つようにすると、買い置きがあってもむだにならないと思います。

羽仁もと子著作集 第9巻『家事家計篇』第九章「買いものについて」より

 電気冷蔵庫のなかった時代、食品の「買い置き」といっても「まとめ買い」は難しかったことと思います。現在、話題となる「食品ロス」を減らしたいという思いは、ここでも見られますね。

羽仁もと子とは、どんな人?
 1873年、青森県八戸生まれ。1897年、報知新聞社に校正係として入社。その後、日本初の女性記者として、洞察力と情感にあるれる記事を書く。同じ新聞社で、新進気鋭の記者だった吉一と結婚。1903年4月3日、2人は「婦人之友」の前身、「家庭之友」を創刊。創刊号の発売前日には長女が誕生し、自分たちの家庭が直面する疑問や課題を誌面に取り上げ、読者に呼びかけ響き合っていった。1930年に読者の集まり「全国友の会」が誕生した。最晩年まで婦人之友巻頭に友への手紙を書きつづけ、そのほとんどが著作集全21巻に収録されている。

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