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「買わないとおきめなさい」

 羽仁もと子著作集『家事家計篇』の初版が出た昭和2年(1927年)は、「昭和金融恐慌」が起こり、銀行への「預金の取り付け騒ぎ」が起きています。「1920年恐慌」以降の不況に、1923年の関東大震災と、昭和の始まりは非常に厳しい経済状況でした。『家事家計篇』(羽仁もと子著作集 第9巻)には、「買いものについて」という章があります。そこに出てくる4つお話を、順次ご紹介していきます。
 初回は「買わない」と決めること。今にも通じる「買いものの心得」ではないでしょうか。(次回は、9月15日公開予定)

買わないとおきめなさい
 年の暮れのことでした。ある経験ある老人は、新年の家庭をできるだけにぎやかにしたいために暮れには特にさまざまの欲望が起こるものです。しかし誰にしても、実力の欲望にそわないのが普通です。こういう時にあれをよそうかこれをよそうかと、数ある欲望の中から選択しようとすれば、あれもこれもよしたくない。その時にすべてをあきらめてごらんなさい。するとかえって安心に愉快な新年をむかえることができるものです。さて本気であきらめてしまってから、どうしてもこうしても必要になって買ったものは、必ず有用なものですといいました。さまざまの場合にこの言葉を思い出して益を得たことでした。

羽仁もと子著作集 第9巻『家事家計篇』(1927年発行)より抜粋

羽仁もと子とは、どんな人?
 1873年、青森県生まれ。1897年、報知新聞社に校正係として入社。その後、日本初の女性記者として、洞察力と情感にあるれる記事を書く。同じ新聞社で、新進気鋭の記者だった吉一と結婚。1903年4月3日、2人は「婦人之友」の前身、「家庭之友」を創刊。創刊号の発売前日には長女が誕生し、自分たちの家庭が直面する疑問や課題を誌面に取り上げ、読者に呼びかけ響き合っていった。

月刊誌「婦人之友」では、2021年1月号より「羽仁もと子とその時代」森まゆみ著を連載中です。9月12日発売の10月号は、「日露戦争と家計簿」です。


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