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その月その月だけの考えでなく、一年間の予算をつくらなくてはなりません。

 『羽仁もと子案 家計簿』では、月ごとに予算を立てるのではなく、その年に予定される収入も支出も盛り込んだ年予算を12で割って月予算を立てます。この予算について、羽仁もと子は次のように書いています。 

 一年のあいだには、途中で人数が減ったり、ふえたりすることもあり、そのほかいろいろのやむを得ない事情のために、出来ている予算の一部分を取り換えなくてはならない場合はあっても、一家の予算というものは、決してその月その月だけの考えでなく、一年間の予算をつくらなくてはなりません。

 なぜそんな手数をするのだろう、月々の収入から貯金や準備金をひいて、何でも彼でも残りでもってその月々を始末していったら、それでよさそうなものだと思う方もありますが、それはまちがいです。実際について考えてみると、米代や副食物こそ、月々ほとんど一定していますが、親戚友人のあいだに不幸があるとか、慶びがあるとかいうので、交際費が意外に多くいるときもあり、衣服を新調しなければならないこともあり、また少しもそのようなことのない月もあり、暮れだの正月だのとどうしても費用の多くいる月もありますゆえ、人の家の月々の費用というものは、決していつでも何十円よりは費わないなどときめることのできないものです。

 月々八十円の生活費のある家で、ときどきはどう繰りまわしても、それだけで足らないことが起こってきます。予算はいつでも、一年分を考えて、それを十二分したものを、各月の分として、衣服費の全くいらない月があっても、家具費を少しも使わなかった月でも、ぜひとも予算額だけは使ったもの同様に考えてのけていくことにしていると、月々の全生活費が八十円しかない家で、ある時は九十円の支払いをでも安んじてすることができ、実際には費用のいらなかった月でも、衣服や家具を買った月と同じようにしまって暮らすことができるのです。

羽仁もと子著作集 第9巻『家事家計篇』第三章「生活費とその予算」より

 加えて、「どんなに合理的なよい予算ができても、実際の支出を、各費目とも一目で明白にわかるように記帳していかなければ、予算はたしかに実行されているかどうかわからないものです。それがわからなければ、普通にはつい予算超過をしてしまいます。」(著作集・同上)と書いています。

 その月だけでやりくりするより、もっと長い期間を見ることで、その場しのぎの家計ではなく、先を見越した安心できる家計になっていく。これが羽仁もと子の考える「予算」です。


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