寸劇「2人の会話+1」

本稿は「note 創作大賞2023」の「イラストストーリー部門」への応募作になります。
以下が告知記事のリンクです。
お題イラストは、こちらでご覧ください。


「▼目次」ってトコロをクリックすると畳めます。
『目次って邪魔!』と思う方は是非

あらすじ

手に入れた極秘情報で、少女は世界に羽ばたく(予定)
世界を守るため、エージェントが動く!
視界の外から現れる第三者
今、世界を震撼させる(かもしれない)物語が開幕する・・・

最大限に膨らませても、内容はここまで。
あとは、ジャンプへの愛だけで突き進みます。

ところで、お題イラストって、誰の視点だと思います?


第一幕

舞台は教室。
照明は全体に暗く、背景が赤く照らされている。
中央に教卓。
教卓をはさんで対峙する二人。
二人を囲むように大きくにスポットライトが当たっている。

教卓の黒板側には金髪のストレートロングに碧眼、左手にリボルバーを携えた痩身の女性。やや前のめりで、焦っているような表情。
教卓をはさんで対峙するのは黒髪でセーラー服。教卓に肘をついて掌に顎を乗せて金髪を見上げている。こちらは対照的に、表情に余裕がある。

金髪「あなた、自分が何をしたのか分かってるの?」
黒髪「もちろん、分かってやったに決まってるじゃない。
あれ●●で私は天下を取るのよ!」
(ちょっとかぶせ気味に)金髪「全然分かってない! あの情報を公にしたら、世間は大混乱に陥るわ。
(手元のリボルバーに銃弾を込め始めながら)まだ間に合うから、おとなしく返しなさい」

銃を目の前にしたこの状況でも、黒髪は余裕の笑みを浮かべている。
黒髪「分かってないのは、あなたの方よ。ここで私を撃っても情報の拡散は止まらないわ」
黒髪を睨みながら、指先の感覚だけで弾丸を装填していた金髪は、その言葉で動きを止める。
金髪「どういうこと?」
黒髪「私が一定期間ログインしないと、既定の宛先に予め決めた文面のメールが送信される仕組みよ。一種のデッドマンスイッチね」

解説しよう!
一般的に『デッドマンスイッチ』とは、人間の操作者が死亡・意識不明などの事態に陥ったときに、自動的に停止して事故を防止する装置のことを指すんだ。
でも、今回は逆の意味で使われているね。
つまり、本人からの操作が途切れた時に作動を開始●●する仕掛けのことを指しているんだ。
ちなみに、自爆装置のスイッチを本人が握っていて、手を離すと爆発する仕組みなんかも、これにあたるよ。

(二人同時に黒板の上のスピーカーを見上げて、なに?今の?という顔をする)
金髪「(振り返り、気を取り直してつぶやく)厄介なことを…」

その時、二人の足元、舞台ツラから声がする。
「ううーん。ここは一体…」
同時に、舞台全体が明転
教卓の手前には、学生服の男子が倒れていた。
(倒れたままで、話し始める)男子「色々と思い出せないけど、とりあえず女性に見下ろされるのは良いなぁ。
(舞台下手のセーラー服の方に目をやる)あ、よく見たら黒上くろかみさんじゃないか」
黒上「(男子を見下ろしながら)目が覚めたのね只野ただのくん」
只野「(相変わらず倒れたまま)うん。なんだかボーッとしてる。
それにしても、逆光でスカートが透けてシルエットが判るのって、なんかエロいよね」
黒上「(慌ててスカートのすそを押さえて、教卓の後ろに隠れながら)相変わらず、思ったことが口から洩れ出てしまうひとね。
目が覚めたのなら、起き上がったらどう?」

只野は身体を起こして胡座あぐらをかく。
特段、特徴のある風貌では無い。
只野「(改めて周囲を見回して)ここは、、、学校だね。
僕はなんでこんなところで寝てたんだろ?
確か、黒上さんに呼び出されて…」
(ハッとなる只野、後ずさるように黒上から離れて距離を取る)

(突然、金髪が割って入る)「爆殺されそうになったんでしょ?
よく普通に喋ってるな~と思って見てたのよ」
只野「(初めて気が付いたように金髪をみて)ああっ!あなたは!!
その節は助けて頂いて、ありがとうございます」
(只野、素早く土下座)
金髪「(自分の左脚を指して)おかげで、この状態ザマだけどね」
只野「(土下座状態からフッと顔を上げて、また素早く低頭)見ず知らずの私のために、おみ足にケガまで!
本当にありがとうございました。
(頭を上げてから、金髪に向かって)お名前を教えていただけますか?」


金髪、腕組みして仁王立ち。
舞台暗転して、同時に天からスポットライトがドン「私はエージェント。名乗るような名は持ってないわ」(キメ顔)
(明転と同時に、かぶせるように)只野「いやでも、それだと不便ですから、何か名乗っていただかないと」
金髪「いや、だからね。今、無いって言ったとこでしょ…」
只野「えーと、困ったな。じゃあ、勝手に呼びますね」
金髪「え?」
只野「早速ですけど、呼び名の候補を考えますね。
(指折り数えながら)うーんと、金髪だから…
①きんぱっつぁん
②キンちゃん
③ぱっつぁん
あとは、碧眼ってことで、
④ヘッキー
⑤ヘキガンナー(←鉄砲も持ってるし
⑥ブルーアイズ・ブロンド・ドラゴン(←金髪と合わせ技で
あとは~、服装から
⑦シロナガシャツ・クジラ
:」
金髪「(かぶせ気味に)どれもダサい!
壊滅的にダサいわ
ネーミングセンス、ゼロね」
(頭を掻きながら)只野「いやあ」
キンちゃん「褒めてない!
↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ っていうか、ト書きもノルな!」
(ぶつぶつ言いながら考え込み始める)「も~、仕方ないわね。
②キンちゃんは思い浮かぶキャラが多すぎるわ。
④は響きがちょっとアレよね。なんかアレよ。
⑤は論外。
⑥は攻撃力次第。
⑦は何言ってるのかわからない
そうすると、①か③?? ダサいわ。語尾がダサい。『つぁん』って何?天下の大泥棒が警部を呼ぶときのアレとか、B組の長髪熱血教師みたいじゃない。こちとら女子なのよ。やっぱり②かなぁ(ぶつぶつぶつ)
それにしてもなんで、直接の見た目由来ゆらいばっかりなの?何かもうちょっとたとえとかあっても良くない?その、、、モンローとかさ」

黒上「ちょっと!聞こえてるわよ。
流石にモンローは図々しくない?」
モンロー?「(赤面して)分かってるわよ。
↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ってト書き! 追い打ちかけないでよ!!分ってるってば
ちょっと凹凸がね、足りないかも、ちょっとだけ」

只野「あ、でもエマ・ワトソンとか似てません?若いころの」
黒上「(目を細めて)ん~? あ~。わからなくもない」
むくれていたエマ金髪の顔に笑みが広がる
黒上「じゃあ、何て呼ぶ?役名は版権が面倒だからダメよ」
只野「モジってもダメですか?」
黒上「ダメダメ。連想できるってだけでもアウトよ。面倒くさいんだから」
只野「え~。若いころのエマ・ワトソンっていえば、あの役ですよね。
役名がダメだと、無理っすね~」
ワトソン金髪ガッカリと肩を落とす

只野「あ!バッチリ似てるキャラを思いつきましたよ」
黒上「なになに?大丈夫なやつ?」
只野「大丈夫かどうか分かんないんで、ちょっとヒント出しますね。
・車いすにに乗ってて歩けないんだけど、ホントは歩けて
・アルプスの上の方で、立てちゃったりする
っていうキャラなんですけど」
黒上「うん。すごくよくわかるヒントだけど、絶対アウトなヤツだね。
間違ってもキャラの名前出すなよ」
只野「でも、似てませんか?」
黒上「うーん。特徴は一致してるんだけど・・・なんか」
只野「そうなんすよ・・・なんか」
黒上・只野「(声をそろえて)画風が違う?」
アルプスで立った金髪「(つぶやき)それは、どうしようもないでしょ…」

黒上「ちょっと楽しくなってきちゃった。
私は?私。私に似てる人とか思いつかない?」
只野「黒上さんは黒上さんでしょ、名前判ってるじゃないですか」
黒上「良いじゃないの。余興よ余興」
ブルーアイズ金髪「ちょっと!私の呼び方も決まってないのに、なんでここで余興がはさまるのよ!
真面目にやりなさいよ『滅びの爆裂疾風弾バーストストリーム撃つわよ」
黒上「きゃーこわーい」
只野「(聞いてない)黒髪ロングでセーラー服となると、やっぱり日本人になっちゃいますよね」
ブルーアイズ・金髪・ドラゴン「ちょっと、聞きなさいってば」
只野「(聞いてない)橋本環奈さんとか、どうっすか。
セーラーカラーの形とかいろいろ違うけど、『かぐや様』の実写化でセーラー服着てましたよね。髪型もなんとなく近いし」
黒上「(満面の笑み)いいね~いきなり、超・可愛いトコ来たね~文句なしだわ」
只野「でも、『四宮さん』とか『かぐや様』とか呼びませんよ?」
B・金髪・D「(こっそりと)ねえ、役名は版権とかヤバいんじゃないの?
気使いなさいよ、面倒はごめんよ?
(只野、ウィンクしてOKサイン)
・・・あ!(何かに気づいて、ポンと手を打つ)
ジャンプ系は大丈夫なのね!!
じゃあじゃあ、私、『ニセコイ』の千棘ちゃんとかアリじゃないの?ねえ
ちょっと、聞きなさいよ!」
只野「え~でも。千棘ちゃんは、たしかに金髪碧眼ですけど、あの赤いリボンのイメージが強いんですよね~」
こっちの金髪「ううっ。言われてみれば、そうよね。
(ショボンとして)でも、私も可愛いキャラのがいいな~(ぶつぶつ)」



只野「(突然、思い出したように)でも、そういえば、どうして僕は助けてもらえたんでしょう?」
命名のくだりでちょっと機嫌の良い黒上も乗ってくる「そうよ、それ。私も気になってたの。あなた達、初対面でしょ?」
(さっきまで『ぶつぶつ』言っていたキンちゃん金髪が、『え?』と、顔を上げる)
黒上「私は、只野くんの爆死騒ぎのスキに逃げるつもりだったんだけど、結果的にそれが阻止されたわ。
でも、この状況を目指して只野くんを助けたんじゃないみたいに見えた。
ぱっつぁん、何の意図があったの?」
「誰が、ぱっつぁん よ」
しかし、あの瞬間に別の意図があったことも確かだ。


キンちゃんの傍白ぼうはく

「ついに見出しでもやったわね。もうキンで良いわ」

解説しよう!
見出しにある『傍白』とは、その場に複数の人物がいても、その人たちには聞こえないセリフのことだよ。
マンガだと形を変えたフキダシなんかで、よく見るよね。
語っている人の内心の考えだとか、企みとかを読者だけに伝えるというていでよく使われるよ。
今回は暗転して独白って形だけど、本人もしゃべらないでセリフだけが流れるって形もある。その場合は人物名の後ろに『~の声』って付くよ。
後で出てくるかもしれないから、覚えておこう。

再び暗転、キンにスポットが当たる「結果的に先を越されてしまったけど、黒上の内偵は以前から進めていたし、
いずれは、私自身が乗り込んで黒上を押さえる予定だった」

「その準備のために、この学校には先行して潜行する協力者が送り込まれていた。
でも、協力者の素性は私にも知らされていない。
私が潜入した際に、協力者の方から接触してくる手筈だった」

「あの時、私は考えた『もしかして、この男の子が協力者なのかも』
『もしかして黒上は内通者に気が付いて、消そうとしているのかも』
そうだとすると、このまま爆殺されるのは困る。
今後のためにも、味方は多い方が有利。
それにもし、この子が協力者じゃなかったとしても、命を救ったとあればなにかと利用し易くなるはず」

「問題は協力者を見分ける手段が、符丁ふちょうしかないってこと。
黒上が目の前にいるこの状況だと、それと分かる形で符丁を問う訳にはいかない。
というか、符丁が存在していること自体が、協力者の存在を示してしまう。それとなく前後の会話に違和感なく織り交ぜないと黒上に感づかれてしまうから、気を付けないと…」

「でも、使いにくい符丁なんだよな~」

解説しよう!
『符丁』っていうのは、当事者にしか判らない合言葉のことだよ。
それなら、はじめから合言葉って言えばいいのにね。

明転。
キン「(ちょっと誤魔化す感じで)別に意図なんかないわ。目の前の人を助けるのに理由なんか必要ないでしょ?」
黒上、ホントかな~という感じで見ている。
只野「(崇拝するように勢いで這いつくばって)キンちゃん様。本当にありがとうございます~」
只野「(膝立ちになって祈るように)僕、なんかもう、特別な感情をいだいてしまいそうです」
キン「それは良いんだけど、『ちゃん』と『様』両方使うのは変じゃない?キン・チャン様みたいに聞こえちゃうわ」
只野「え、じゃあ、キンちゃん」
キン「あ~、じゃあ、もう、それで良い良い」

黒上、一連のやり取りを一歩引きで静観している。

キン「(黒上の方に向き直って)それなら、こっちにも聞きたいことがあるわ。
どうして逃亡のきっかけづくりに、この子を爆殺するわけ?
あなた達こそ、知り合いでしょ?
どういう関係なの?」


二人の関係~ジャン研

只野「(立ち上がり、黒上に向かって)あ、そうですよ。どうしてですか。同じジャン研のメンバーじゃないですか!」
黒上「二人だけだけどね」
キン「(只野にむかって)ジャン研って?」
只野「それは……(説明しようとするが、黒上の方をチラ見してやめる)詳しくは、会長から説明いただいた方が良いと思います。
(黒上に向かって)会長、お願いいたします」
黒上会長「(只野に向かって大仰に頷いて続ける)うん、任せたまえ。
(キンの方に向き直って)キンちゃん。
ジャン研とは……(たっぷりためて)正式名称を『ジャンプ研究会』という。その名の通り、ジャンプと名の付くもの全てを研究する、文化的、創造的、かつ有意義な活動なのだ!!!
会員数が若干足りなかったため、今年度の部への昇格は叶わなかったが、「部長」より「会長」の方がエラそうなので、個人的には結果オーライ。
本会の研究範囲は多岐にわたるので、すべては説明しきれない。
よって、ごく軽くさわりだけ説明しよう。
まず本誌は言わずもがな。最強ジャンプ、Vジャンプ、ジャンプSQ.←ちなみにSQ.の最後のピリオドは忘れちゃダメよ
ウチは青年誌は対象外なんだけど、ジョジョとか血界戦線とか作品指定での出張は容認している。
それから、映像化作品も外せない。テレビアニメだけじゃなくて、劇場版、最近はサブスク先行なんかも増えてきたよね。
あとは、舞台化とか、歌舞伎化とかも気になるジャンルよ。
ちなみに私の研究テーマは、王道の本誌『週刊少年ジャンプ』!
ここのところの推しは「ウィッチウォッチ」。
もはや本誌の看板と言っても良いのではないだろうか?
作品も素晴らしいのだが、私の場合は篠原先生推しでもあるので、本誌に戻ってきてくれて本当にうれしいっ。」
キン「(圧倒されつつも納得という感じ)ジャン研ね。なるほど、趣味が高じてってとこかしら?」
只野「??」
黒上「(ニッと笑う)まあまあ、その話は後で」

只野「ところで会長」
黒上「うん?」
只野「ジャン研の話題になったので、ついでに連絡です。
会誌『ジャジャンケン』の原稿ですけど、締め切りは昨日ですよ?」
(黒上、しまった。という感じで首をすくめる)
只野「(掛けてないメガネをクイッと上げる仕草)困りますよ~。共有の提出フォルダには、『言い訳みたいなものが書き足された書きかけの原稿』しか上がってないし。
文化祭も近いんですから、会誌出して活動をアピールしておかないと部に昇格どころか、共有フォルダも取り上げられちゃいますよ」
黒上「(ちょっと後ずさりながら)しかしだな只野クン、ウィッチウォッチが緊迫のシリアス編に突入して、今、大きな転換点なんだよ。
せめて今後の方向性を見極めてからだね…」
只野「あっ。それ本誌の話ですよね?
学内には単行本派もいるんだから、最新話の話題にはなるべく触れないようにってルールにしましたよね?
前に盛大なネタバレかまして、めちゃめちゃ怒られたの忘れたんですか?」
黒上「もちろん覚えてるよ。でも『この先に最新話に関するネタバレがあります』って書けばいいんでしょ?」
只野「(腕を組む)ん~。感心しませんね。読者層を制限するのは良くないですよ。」
黒上「(唇を尖らせて)わかった、わかった。気を付けるよ。
原稿もこのあとがんばるから、この場は勘弁しておくれよ」
キン「ん?このあと??」
只野「ホント、お願いします。
会長、自分のPC持ってないから、共有端末からじゃないと書けないんですよね。時間ありますか?」
黒上「(ボソッと)個人のPCは、あとから調べられて足が付くとメンドウだからね」
只野「ん?足が付く??」
黒上「(咳払い)あ~、ゲフンゲフン」
只野「あ、あと共有フォルダに『パスワードの掛かった圧縮ファイル』置いたの会長ですか?共有フォルダには個人ファイル置かないのもルールにしましたよね?守ってくれないと困りますよ~」
黒上「(二人から視線を外して、明後日の方を向き)わかった、わかった。消しとくよ」
キンは、黒上をじっとみている

黒上「(慌てて話題を変える)
ところで、キンちゃんも参加しない?次回発行予定の会誌の特集
『どのスタンド能力が欲しいか論争』~今回のお題は『第四部しばり』!
ちなみに私はハーヴェスト、しげちーのやつが推しなの。
戦っても強いし、日常生活でも色々と便利だわ。
只野くんはなんだっけ?」
只野「パール・ジャムとレッド・ホット・チリペッパーで悩んでたんですが、やっぱりパール・ジャムですね。
トニオ・トラサルディーのスタンドです。食と体調は大事ですよ」
キンの声「ふーん、面白そう。四部か、杜王町の最初のやつね」
キン「ん~~(ちょっと考えて)私はね。エニグマ、かな」
黒上「あの紙にするやつ?」
キン「そうそう。物語としては、恐怖のサインで人間を閉じ込めるくだりが強調されたてけど、人間以外は自在に紙にできるみたいじゃない?
九州のトンコツラーメンが、いつでもホカホカとか素晴らしいわ」
黒上「(満面の笑みで)あなた良いわね。お友達になれそう」


キン「(ハッと我に返って)すっかり楽しく語らってしまった。
(黒上に向かって)ジャン研の活動内容はもういいから、あなたと只野くんの関係について聞かせなさいよ」
黒上「(まだまだあるのに、という感じでしぶしぶ)分かったわよ。
(思い出すように)あれは去年の春くらいだったと思うけど、私が一人でジャン活していたら、只野くんが声を掛けてきたのよ」
キン「ジャン活っていう単語にも突っ込みたいけど、なんとなく解ってしまうし、まあいいわ」
キンの声「それにしても、只野くんから接近したってこと?やっぱり協力者なんじゃないの?

黒上「(気にせず)それから、なんやかんやあって、ジャン研を設立して、今に至る感じ」
キン「ずいぶん、項目の少ない年表ね」
黒上「余計なお世話」
キン「でもさっき、『ジャン研は二人だけ』って言ってなかった?」
黒上「そうよ」
キン「もしかして、唯一の知り合いなんじゃない?」
黒上「あ~、学内で言うとそうかもね」
キン「学内唯一の知り合いを爆殺しようとしたの?」
黒上「何言ってるの? 見ず知らずの人を爆殺したらヤバいでしょ」
キン「いや、知ってる人なら、さらにヤバいでしょ!!」
黒上「価値観の相違ね」
キン「いや、倫理観でしょ?」
黒上「(無視して)それに、他に知り合いがいたとしても、やっぱり只野くんを爆殺したと思うな」

只野「締め切りが過ぎても原稿が上がっていないからですか?」
黒上「違うわよ!」
只野「(黒上をみつめて真面目なトーンで)じゃあ、どうしてですか?」
黒上「(只野を見つめ返し)只野くんが、私のことを一番理解してくれているからよ」
キンの声「それって証拠隠滅?自分の痕跡を消そうとして…」
只野「(急にテンション高く)それって『黒上さんの胸の中で永遠に生き続ける』ってやつですよね!
(さらにテンション上げて)いや、最高の愛情表現じゃないっすか!!」
キン「え? ちょっと待って。
普通その前に『死んじゃって残念だけど』とか、今更どうしようもないって気持ちがあって、それでも前を向いていくって意味でしょ。
なんで色々すっ飛ばして『永遠に生きていく』ところを目指すのよ!
なにより、それは残された側のセリフで、『永遠に生き続ける』側のセリフじゃないわよ!!
っていうか、まだ生きてる人のセリフじゃないのよ!!」
只野「(まったく聞いてない)いやあ、黒上さんがそんな風に思っていてくれたなんて感激です。
僕、頑張って●●●●永遠に生き続けますね」
キンの声「これは演技なの?もしかして、このひと本当にアホなの?」


君の正体を確かめる

黒上「……っていう関係よ」
キン「(頭を抱える)理解できない。。。」
キンの声「関係性は全然理解できないけど、只野くんが黒上に一番近い存在なのは間違いないわ。
彼が敵なのか味方なのかで、この場の状況は大きく変わってしまう。
何とかして彼の正体を確かめなくては…
会話の前後関係とか言ってる場合じゃない、気が進まないけど符丁を使おう(ヤだなあ)」

キン「(身体は只野の方を向いているが、視線は下)あのっ!
(顔が火照るのが自分でわかる)パッッ」
只野「パ?」
キン「(意を決したように息をふ~と吐いて、只野をまっすぐ見る)
あなた、パンツ何色?
只野「パ!?」
キンの声「も~~! 何なの?この符丁!!
どういう状況だったら、違和感なくこの質問ができるっていうのよ?
もう決めた。無事に帰ったら、この符丁を決めたヤツを絶対絶対ぶっ飛ばす!」

只野「(無表情で)パンツの色はむらさきです」
キンの声「(おどろいて)合ってる!」

キン「じゃあ柄は?」
只野「(無表情で)ヒヨコです」
キンの声「ええっ!合ってる!!」

キン「ヒヨコの色は?」
只野「(無表情で)黄みどりです」
キンの声「うわ~、合ってる~~!!!」

只野「キンちゃん、なんで僕のパンツの色柄聞いて興奮しているんだろ?そういう趣味のヒトなのかな?」
キンの声「完全に一致してる」
キン「(思わず声に出してしまう)同じだわ」
只野「ええっ?(キンの、そのあたりを凝視してしまう)同じなんですか?」
キンの声「(気づいていない)そう、同じ。ここまで合ってるなら、もう偶然じゃないよね。
この子は協力者だわ!」
キン「只野くん、ありがとう」
只野「えっ? 
僕、お礼言われるようなことしました?」
キン「そりゃあ、もう。
色々と理解できたわ。これから、よろしくね」
只野「えっ? 」
只野「これから?よろしく?
これは、どういう状況?」
只野の声「(キンの方をチラッと見て、何かを思いつく)はっ!!これはっ!
『パンツの色柄が同じ=趣味が同じ=運命の人』的な感じで、僕に惚れてしまったのか!?
(もう一度、キンの方をチラッと見て)はじめの頃より明らかに距離を詰めてきている!それになんか興奮している!●●●●●●●●●
間違いない!
スゴイぞ、こんな可愛くてカッコいい人と、僕がお付き合いできるなんて!!」
只野「はい!こちらこそ、よろしくお願いします。
力を合わせて、二人の未来を切り開きましょう」
キンの声「ん?二人の未来?ナンカ、チョット違うような…」

只野「(舞台正面を向いて、独り言気味に)まずは、お友達から?
お互いを知るところから始めるよね。
そういえばキンちゃんって、あの見た目だけど日本語上手だよな~。
ルーツはどこなんだろう?
僕のことも色々と知ってもらわないと。
これからは二人で……

(急に思い出す)あっ、でも僕は黒上さんの胸の中で永遠に生き続けるために爆死するんだったっけ。
あれ?永遠に生き続けるために僕が死んじゃったら、僕とキンちゃんとで切り拓く明るい未来がやってこないんじゃないか?
困ったな~
『(急に芝居掛かった風に)生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ』ってやつだね。
いやこれ、二人のヒロインの間で悩む主人公みたいじゃない?
この場合、死ぬか死なないかの二択だから、ハーレムエンドは無さそうだな。
うーん……」


一方、この二人のやり取りの間、黒上はスカートのすそを押さえて、そーっと教卓の後ろに隠れる。
黒上の声「完全に同じだわ。
只野くん、どうして私と同じ色柄のパンツ履いてるの?
っていうか、ホントなのかしら?
さっき倒れてるときに、私のパンツ覗いたとか?
いやいや、スカートは短くしてる方だけど、さすがに角度的にあり得ないわ。
じゃあ、スカートが日で透けてるって言ってた時?
でも、分かってもシルエットくらいよね…色柄まではさすがに…
やっぱり偶然…」
黒上の声「ええっ!キンちゃんも同じって言ってる!!!
なに?ここにいる全員、同じ色柄のパンツ履いてるの!?
どういう状況~~!?」
一旦、暗転


第二幕

明転
黒上はスカートのすそを押さえてながら、気まずそうに佇んでいる。
只野は、キンに微笑みかけている
キンは、只野がナンカヘンダナ~と思いつつ、仕切り直して黒上に相対たいじする。
キン「(スッと背筋を伸ばし、正面から黒上を見据える)そろそろ本題に入りましょうか」

黒上「(場の空気が変わったのを察知して、真面目モード)本題も何も、さっき言ったでしょ。
デッドマンスイッチが仕掛けてあるから、私を確保しても無駄。
むしろ、期限までに私を自由にしないと、無制御で拡散されるわよ。そっちの方が困るんじゃないの?」
キン「もちろん困るわ。っていうか、制御下だとしても拡散とかめて欲しいんだけど?」
黒上「苦労して手に入れたのよ?私だって、ダダ流しとか意味の無いことに使いたくないわ。でも、身の安全が最優先。『私に干渉しないこと。さもなければ』ってやつよ。わかるでしょ?」
キン「その論理は解る。
(改めてリボルバーを構えて)けど、そこを解ったうえで、あなたを拉致してチョット強引な手段にでるとか、想像しなかった?」
黒上「(手を振って、無い無いという仕草)タイムリミットが判ってるならあるかもだけど、私、起動時間を明かしてないでしょ?
期限が判っていない場合には、強硬な手段は使わないものでしょ。
やっぱり、切り札は私が握っているのよ」
キン「(リボルバーを下ろして)あなた、面倒くさいわ」
黒上「(チョット嬉しそう)ふふっ」

只野「(二人の間に割って入る)ちょっと、ちょっと。何なんですか二人とも!
僕のことで争わないでください!
大丈夫ですよ。僕は、どこにも行きませんから安心してください」
キン・黒上「は?」
黒上「ちょっと只野くん?何を言っているのか解らないんだけど?」
只野「え?キンちゃんは、黒上さんの持っているものを寄越せって言っているんですよね?
ここにきて、キンちゃんが急に欲しくなったのって
(正面に向かって高らかに)『』じゃないですか!」
(只野の後ろで、黒上がキンを指さし『え~ホントに~?』というアクション。応じてキンは、『違う、違う』というリアクション)
只野「(気づかず正面を向いたままで続ける)で、黒上さんも僕を手放しがたくてゴネてるんでしょ?」
(只野の後ろで、今度はキンが黒上を指さし『え~ホントに~?』というアクション。黒上は冷静に、『違う、違う。あげる、あげる』というリアクション)

黒上「只野くん?」
只野「(勢い良く黒上の方に向き直る)はい!」
黒上「君は思考がダダ洩れの人だから、なんとなく原因もわかる気がするけど、色々と誤解がありそうなのよね」
(後ろでキンが、『うんうん』と同意のリアクションを取っている)
黒上「色々あるけど、まず最初に指摘しておきたいのは…
(只野をビシッと指さして)自分のこと、ヒロイン多めラブコメ作品の主人公みたいとか思ってるでしょ」
只野「(ギクッ)」
黒上「(構わず続ける)それ、勘違いだから。
ハーレム展開を期待してるなら、大間違いよ!」
効果音、ガガーーン。
フラッシュの点滅にご注意下さい~
只野「(膝から崩れ落ちる)そ、そんな…ニセコイ、ぼく勉、ゆらぎ荘の幽奈さん、、ダ、ダークネス…」


只野「(なんとか立ち直り)じゃあ、黒上さんが持ってて、キンちゃんが要求しているものって何なんですか?」
キン「(只野に向かって)あなたは知ってても良いんじゃないの?」
黒上「私は単独犯よ。只野くんは何も知らないわ」
キン「(黒上の方を見ながら)そういう意味じゃないんだけど、、、まあいいわ。
(黒上を指さして)この子は『ある重要な書類』を盗み出したの
私はそれを回収に来たエージェントというわけ」
只野「ええっ!?黒上さん、スパイだったんですか?」
黒上「(ちょっと自慢気)スパイっていうのとは、チョット違うかな~
ほら、スパイって依頼主がいたり、自国の為に働いたりするものでしょう?
私は、純粋に私自身のために盗んだの」
只野「とか言って『手術を受ける勇気が出ない男の子のため』とかじゃないんですか?」
黒上「それは、プロ野球選手がホームラン打つやつ」
キン「それに、スパイっぽいって話なら私の方が近いんじゃない?」
只野「そうか、そうですね。鉄砲持ってますもんね」
一同、笑

只野「(黒上に向かって)で結局、どこから何を盗んだんですか?」
黒上「『どこから』は聞かない方が良いわ。入手経路にもつながる情報だし、模倣犯は居ない方が良いしね。」
只野「そういうものですか?
じゃあ何を盗んだのかは、教えてもらえます?」
黒上「そうね。それくらいなら良いかな(キンをチラッと見る)」
(キン、勝手にしなさいのアクション)
黒上「私が手に入れたのは、『ワンピース最終話のネーム』よ!!!」
只野「(一瞬、間があって)ええーーーーーーーーーーーー!!!!
そそそ、そんなものが実在するんですか!?
確かに尾田先生が『最終話もラストカットも決まっている』と公言されてるのは有名ですけど『世間の考察もチェックしていて、ラストも変えちゃうかも』みたいなこともおっしゃってるじゃないですか。
それ、本物なんですか?」
黒上「(目を伏せて)そうね。そういう意味では、いくつかある選択肢の一つ、訪れるかもしれない未来の可能性の一つなのかもしれないわ。」
黒上「尾田先生の原稿がフルデジタルなのは有名だし、真贋の判定は難しいでしょうね。
でも、ひとつだけ言えるのは、
私がこれを手にしたことで(キンを指さす)キンちゃんこの子が現れたっていう事実よ。
これって、何かを示していると思わない?」
キンは、忌々しそうに横を向く
只野「(黒上とキンを交互に見て呟く)それっぽい。なんか、それっぽいぞ!!」

只野「(黒上に向き直る)仮に本物だと仮定して、黒上さんはそれをどうするつもりなんですか?
さっきのキンちゃんとのやり取り、拡散がなんとかってのも、やっと分かりましたよ。そんなもの世間に流したら、大混乱じゃないですか!!」
キンの声「理解、おそっ!
この子、ホントに協力者なのかな?
なんだかアヤシイ気がしてきたわ」
黒上「当然、ただ拡散するだけなら混乱の元でしかないわ。
でも、だからこそキンちゃんへの牽制になっているのよ」
只野「そうですけど。じゃあ、黒上さんには、ちゃんと別の目的があるってことですよね?」
キンの声「お?良いじゃない。良い感じの誘導だわ。」
黒上「もちろん。聞きたい?」
只野「聞かせてください」


黒上「ずは、その筋の●●●●ワンピースマニアに売るわ」
キンと只野、盛大にずっこける
只野「え~~~。結局、カネっすか~。なんか、もうちょっと『高尚な何か』だと思っちゃってましたよ~」
キン「そっ、そうよ。お金だけ●●が目的なら、こちらは用意する準備があるわ。金銭での解決はむしろウェルカムよ」
黒上「(キンの提案には取り合わない)ふふっ。金銭の授受でそのまま無罪放免になるとは思えないけど、そこは まあいいわ。
わかって貰えてるみたいだけど、当然、私の目的はお金だけじゃない」
只野「(改めて)聞かせてください」
黒上「名誉。それから地位よ」
キン「う~わ~。俗っぽい」
黒上、キンの方に詰め寄りかける
只野「(不思議そうに)え、でも、モノは凄いですけど、盗品ですよね?
盗品を持ってても、いわゆる名誉には繋がらないような気がするんですが・・・」
黒上「(フフンという感じで得意げに)まあ、世間一般ではそうでしょうね」
キン「あっ、そうか!裏オタク界!!
黒上「あら?ご存じだった?」
只野「なんです?その、クリア後の追加ダンジョンみたいな名前。
難易度高めで、やり込み要素たっぷりって感じですか?」
黒上「失礼だな、只野クン」
キン「裏オタク界。ダークウェブかどっかに存在するという、ディープなオタクだけが参加できるいたのようなものだといわれているわ」
只野「板?」
キン「掲示板みたいなものだと思ってればOKよ」
黒上「まあ、おおむねそんな理解で問題ないでしょ。
でも、参加者の間では、もっぱら『裏オタク界』ではなく『真オタク界』と自称しているの。個人的には『シン・オタク界』もアリだと思ってるわ。
良い?よく聞いて。
(ビシッとキンを指さして)光の当たっている側が常に表だと思わないことよ!!
只野「すっごい悪役っぽいセリフですね~。なんか、黒上さんって闇属性だったんだ」
黒上「うふ。『ブラック・マジシャン・ガール』的な?
(杖を持っているていで、振る仕草)
黒・魔・導・爆・裂・破ブラック・バーニング』っっ」
只野「ノリノリですね」
キン「(ハッと気付く)ちょっと、ちょっと。ブラック・マジシャン・ガールだったら、ビジュアル的には私の方が近いんじゃないの?金髪だし。
ねえ、聞きなさいよ。どうしてこの話題になると話を聞かなくなるの?
ねぇってば」

黒上「ちょっと話がよれたわね。
裏オタク界って、キンちゃんの言う通りの場なんだけど、やっぱり裏は裏ってとこがあって、犯罪そのものや犯罪者への拒否感は割と薄いの。
もちろん、持っていき方を間違えると大炎上だけど、
上手くやれば、私は一躍 時の人、いや『時のオタク』!
なんてたって、ワンピース最終話よ?
もう、これは名誉以外のなにものでもないって感じなのよ」
只野「は~、なるほど。
なんか、ちょっと、僕には理解できない世界ですけど、本人が名誉だと思うんならそれは名誉ですよね~(実際にはやってないけど、鼻ホジホジというテンション)」
黒上「ちょっと只野クン、その反応は心外ね。
いまやジャンプは世界を相手にするエンターテインメント。中でもワンピースは別格よ。
裏オタク界に来るようなオタクが真贋に納得したら、もうそれは本物。
つまり、私の名誉は保証されたようなものなのよ(腕を組んでウンウンとうなずいている)」
キンと只野は、顔を見合わせる
只野「(頭ポリポリしながら)まあ、黒上さん本人が望んでるって話なので…」
キン「そおねぇ…」


キン「で、あとは地位も手に入れるって言ってた?」
黒上「あ、そうそう、そうなのよ」
只野「でも、地位っていうなら、さすがに表の話ですよね?
やっぱり、裏ナントカでの地位を手にする的な話なんですか?」
黒上「只野クン、なんか裏に関する話にだけ、妙にアタリ強くないか?」
只野「そうですか?そんなつもりはないんですが、なんとなく漂ううさん臭さがそうさせているのかもしれません」
黒上「(ボソッと)やっぱり、なんか強火なんだよな~」

黒上「(気を取り直して)じゃあ、地位の話ね。
さっき『ワンピースは世界に発信されるエンタメだ』って話したでしょ?
実際GAFMAを始め大企業で重役張っているような人が、ファンを公言してはばからなかったりするの。
で、例の『裏オタク界』なんだけど、そういう表でも力を持っている人も出入りしてて~」
只野「そこに取り入って、表社会での地位も手に入れる。と」
黒上「そう♪」
キン「なんかセコッ」
黒上、キンを睨む
只野「でもなんか、表社会の地位ってメンドくさそうですけど、大丈夫ですか?
ちょっと黒上さんのキャラじゃない感じですよ」
黒上「(口の端でフッと笑って)闇に生を受けたものは、光にあこがれ続けるものなのさ」
只野「よくわかんないけど、そうっすか」

黒上「さあ、これが私の計画のすべてだよ。
私はこれで、お金と名誉と地位の全てを手に入れる!
まさに、ひとつなぎの大秘宝ワンピース!!
『ワンピース最終話のネーム』がひとつなぎの大秘宝ワンピースだったんだ!!!」
只野「(冷静に)いや、そんな訳ないでしょ。
なに、良い感じに まとめようとしてるんですか。
大体、本家は『富と名声と力』ですよ?」
黒上「良いじゃないのそのくらい。ノリよノリ
只野クン、いつもはボーっとしてるのに、時々細かいよね」
只野「いや、そこはちゃんとしとかないと。
(掛けてないメガネをクイッと上げる仕草)ジャン研ですから」

突然、黒上の背中のミニリュックから音がする。
キン「これは!?」
♪アスファ~ルト タイヤを切りつけぇなぁがら~
只野「『Get Wild』だ」
黒上「(リュックからスマホを出して確認。Get Wild停止)時間よ」


タイムリミット

キン「時間?」
黒上「なに、とぼけてるの?
最初に言ったでしょ、デッドマンスイッチよ。
タイムリミットがこんなに早く設定されてるとは、思わなかったかしら?
私に対して強硬手段に出ないで、本当によかったわね。
踏み切ってたら、大混乱の引き金が引かれるところだったわよ。正解、正解」
キン「(悔しそうに)ご機嫌ね」
黒上「そりゃそうよ。ここまでほとんど、私の想定通りの展開なんだもの。もうすぐ私は、望むものをすべて手に入れられる。機嫌も良くなるってものでしょ」

黒上「(舞台下手にじりじりと下がりながら)それじゃ、私は行くわ。
(キンに向かって手をヒラヒラさせる)キンちゃん、短い時間だったけど楽しかった」
キン「(横を向いて)くっ」
黒上「(只野の方をチラッとみて)只野クン、もう会うこともないと思うけど、元気でね。さよなら」
只野「さよならなんですか?寂しいですね。
えーと。その、なんとかスイッチを、ここで解除するわけにはいかないんですか?多分、そのスマホからできるんですよね?」
黒上「そうね、このスマホからできるわ。でも
(再びキンを見て)キンちゃんが見ている目の前で、やってあげたりはしないわね。その瞬間に確保されちゃうじゃないの。
ブツがどこに、どういう形で存在しているのか、私だけ知っているってことが一番のアドバンテージなのよ」
只野「あ~そうか。じゃあ、ホントにお別れなんですね」
黒上「そうね。さよなら」
黒上、最後に一瞬だけ只野をみてから、下手に去る。

只野「(下手方向を見ながら)あ~あ。行っちゃいましたね」
キン「(同じく下手を見ながら)そうね」
只野「あれ?ということは、僕は死ななくてもよくなったんでしょうか?」
キン「そうね。元々、死ぬ必要●●はなかったんじゃないかな?と思うけど」
只野「そうか!ということは、これはキンちゃんルート!!
(キンの両手を取って)これから、二人のラブラブな日常が始まるわけですね!」
キン「(手を振りほどいて)どうしてそうなるの!」
只野「え?だって、パンツの柄が同じで運命を感じてしまった。とかじゃないんですか??
(制服のズボンのベルトに手を掛けながら)見ます?
むらさき地に黄みどりのヒヨコ柄。
これが、意外に可愛くて。僕、洗い替えで三枚持ってるんですけど…」
キン「見ないし、そんな柄のパンツは穿いてません!」
只野「あれ?聞き違いだったのかな?『同じだ』って聞いた気がするんですけど…それに『これからよろしく』って」
キン「(手近の椅子を引いて腰掛ける)ああ。それは、あなたの回答が符丁と一致したって意味よ。
あなたが『先行して潜行している協力者』だと勘違いしたの。
それにしても、ヒドイ符丁だったわ。策定したやつを見つけたらぶっ飛ばしてやる」

僕の正体

只野「あ、僕、協力者ですよ?」
キン「へ?」
只野「気付いてなかったんですか?
符丁が通じた時点で、理解されてたと思ってました。
あんな符丁、偶然で一致するわけ無いじゃないですか~」
キン「いや、そうだけど。
そんな素振そぶり、見せなかったじゃないの!」
只野「そりゃあ、正体隠して潜入している身ですから。
あの場には黒上さんも居ましたし。わざわざ身分を明かすようなことはしませんよ~
大体、そのための符丁じゃないですか」
キン「それは、そうなんだけど…」
只野「あ、それと、あの符丁決めたの僕です」
キン「(椅子から立ち上がり)ぶっ飛ばす!
もう『オラオラオラァ』ってやる!!」
只野「(両手で身を守りながら)ちょっと待ってください。
理由があるんです。
あの符丁は、黒上さんの趣味です」
キン「ええ?(ビックリ!)むらさき地に黄みどりのヒヨコ柄のパンツが?」
只野「ええ。今日のパンツもその柄だったはずですよ」
キン「任務とはいえ、あなた、キモいわね」
只野「ヒドイなぁ。高度な潜入術じゃないですか」

キン「どちらにしても、黒上には逃げられたし、任務は失敗ね」
只野「そうでしょうか?
一発目のデッドマンスイッチは解除してもらえたようですし、情報の拡散をめて世間の混乱を回避するという意味では、一応の成果を上げたのでは?」
キン「そんなものは成果には数えられないわ。
相変わらず、ネームブツは黒上が握っているのよ」
只野「それなんですけど、キンちゃんが直接乗り込んできたのは、『ネームの隠し場所が学内』だと想定したからですよね?」
キン「その通りよ。黒上が利用している商用サービスは全て確認したけど、盗まれたネームは見つからなかった。だから、隠しておけるとしたら個人所有の機器か、学内ネットワークしかないの。
協力者あなたにそれを伝える手段もなかったから、私が潜入して聞き出すしか方法がなかったというわけ」
只野「ですよね。そんなところだろうな~と思ってました」
キン「なに?隠し場所に心当たりあるの?」
只野「実は、あります。
さっき、ジャン研の共有フォルダに黒上さんが圧縮ファイルを置いたって話したじゃないですか。あれ、アヤシイと思うんですよね」
キン「確かに。学内ネットワークが調べられるようになったら、最初に調べるのは個人環境だわ。部活の共有フォルダなんかは二の次よね。
っていうか、共有フォルダに置くとかセキュリティ概念ガバガバじゃない?」
只野「まあまあ。パスワードは掛かってましたし、共有フォルダと言いつつアクセスできるユーザは、黒上さんと私だけです。割と閉じた領域ですよ?」
キン「う~ん。言われてみれば、良い感じの隠し場所のような気もしてきたわ。
でも、パスワード掛かってるんでしょ?」
只野「実はそれも、ちょっと心当たりがありまして」
キン「まあ、パンツの色柄知ってるのよりは、引かないわ」
只野「(自分のスマホと、ジャンプ本誌を取り出す)僕の優秀さを認めてくれる人はどこかに居ないのだろうか…」

キン「ジャンプ?パスワードがジャンプに書いてあるわけないよね?」
只野「そのものずばりじゃないですけど、ヒントとか、思い出すきっかけなんじゃないですかね。(ジャンプをひっくり返して裏表紙を見ながら、スマホを操作する)黒上さんはよく、このあたりを見ながらログインしてました
えーと。『千代田区一ツ橋2-5-10』だから
『1001-2-5-10』とか?
『1001-2510』とか?
あ、開いた」
キン「え?うそ!
(只野からスマホを受け取って確認する)コレだわ
今のなに?」
只野「ジャンプ編集部の住所です」
キン「なるほど、一途ね。このファイル、削除できる?」
只野「できます。もったいないですけど」
キン「いいから消して!」
只野「は~い(スマホを操作する)」
暗転


第三幕(最終幕)

舞台中央にスポットライト。
ライトの中心では、キンが最初の位置、教卓の後ろに立っている。
黒上、下手からライトの下に息せき切って駆け込んでくる。

黒上「キンちゃん!!なにをしたの?」
キン「どうしたの?そんなに慌てて。
折角、かわいいのに台無しよ?」

黒上は右手にスマホを握りしめ、やや前のめりで、焦っているような表情。
教卓をはさんで対峙するキンは、教卓に肘をついて掌に顎を乗せ、黒上を見上げている。こちらは対照的に、表情に余裕がある。

黒上「どうもこうもないわ。私の●●ネームが消えているのよ!」
キン「『私の』とはよく言ったものね。『私が盗んだ』でしょ?」
黒上「そんなことは どっちでもいいのよ!
こんなことができるのは、キンちゃんあなたくらいだわ。
どうやったの?」
キン「秘密よ。こんなタイミングでエージェントがネタ明かしすると思う?」
黒上「くっ」
キン「あえて一つだけ明かすなら、『あなた達とのおしゃべりの中でヒントを得た』ってとこかしら?
思い当たること、あるでしょ?(黒上、悔しそうに横を向く)」
黒上「(辺りを見回す)只野クンはどうしたの?」
キン「帰したわ。
また爆殺を試みて、逃走のチャンスを作られても困っちゃうし」

キン「(教卓に頬杖をついていた上半身を起こし、背筋を伸ばして黒上を見据える)黒上さん。
大事なネームが消え失せて、慌てたのも分かる。
私がどうやって隠し場所を探し当てて削除したのか、気になるのも分かる。
(左手でロングシャツの裾を跳ね上げ、その手でそのままヒップホルスターからリボルバーを抜く。銃口を下に向けて撃鉄ハンマーを上げながら)でも、ここに戻ってきたのは失策だわ。
あなたを自由にさせておく理由デッドマンスイッチは、もう無いのよ?」
(黒上、ハッと気づいて身をひるがえし、走り出そうとする)
その刹那。『タァーーン』と想像よりはるかに軽い、そして短い発射音。
(黒上、キンに背を向けた体勢で固まる)
天井の石膏材の欠片がパラパラと降ってくる軽い音。追いかけて漂ってくる火薬の匂い。
キン「(視線は黒上を見据えたまま。リボルバーは上に向けたまま)言ったでしょ。チョット強引な手段もある。って(もう一度撃鉄ハンマーを上げる)」
黒上「(キンに背を向けたまま両手を上げる)想像以上に強引ね」
キン「(黒上の右手に握られているスマホを取りながら)あなただって想像以上にしたたかだったわ」

キン「(手にした黒上のスマホを振る)本当に、この中にあるのがオリジナルなの?」
黒上「(手近な椅子に座って、目の前の机に頬杖をついてムクれている)
流石に、この段になって嘘ついてもしょうがないでしょ。
消されたの以外には、コピーもしてないわ」
キン「(肩をすくめる)そう。
念のために、その背中のミニリュックの中身もあらためていいかしら?」
黒上「(ギクッとなって)無いって言ってるじゃないの!
何でもかんでも取り上げるのは、横暴だわ」
キン「(リボルバーを構えながら、右手で『さっさとよこしなさい』のアクション)何言ってるの、そんな権利とか主張できる立場だと思ってる訳?」
黒上「(しぶしぶリュックを渡しながら)私はこれからどうなるの?」
キン「(リュックを受け取って、中身を確認しながら)そうね。
とりあえず直近でいうと、いま身に着けているものとか、あなたの自宅とか、学内のロッカーとか部室とか、全部にチェックが入る」
黒上「(突然、目を輝かせる)え?鬼殺隊のかくしみたな人が来るの?」
キン「あんなにあからさまな恰好じゃないけど、役目としては、あんな感じの人たちよ」
黒上「(ボソッと)それは、アリ!
キン「ブレないわね~」

黒上「要するに私の身辺はもう丸裸ってわけね。そのあと私はどうなるの?」
キン「そうね。日本の現行法を厳密に適用しちゃうと、たくらんでいたことの割に刑が軽すぎるのよ。
そういう意味で、日本の司法には委ねないわ」
黒上「え?法で裁けない巨悪に鉄槌を下す的な?闇から闇へと葬り去られる的な?」
キン「(苦笑)さすがに無いわ。っていうか、なにワクワクしてるのよ!
最終的には上の判断だけど、結果としては未遂だったし、なによりあなたは未成年だし?
しばらく監視下に置かれて、そのあとは『おとがめなし』ってオチになるんじゃないかしら?」
黒上「あら、意外と温情ある裁きね。それに、思ったより普通だわ」
キン「ご不満かしら?」
黒上「いや、こういうのって『罪滅ぼしに、キンちゃんとこでエージェントとして、働きなさい』とかいう流れなんじゃないのかな~って期待してたんだけど?」
キン「あ~、よくあるパターンね。
それで先輩わたしと反目しつつも成長して、ルーキーながら大活躍!みたいなやつでしょ。
(想像してフッと笑う)個人的には、あなたみたいなタイプ嫌いじゃないわ
(黒上に背を向けて上手かみてを向きながら、肩越しに)でも残念。ウチは人手足りてるみたい。
一回、大博打に出て、負けたんだから、しばらく大人しくしときなさい。
上手かみてに歩き去る)」
黒上「(上手に向かうキンを目で追ったあと、肩をすくめる)それもそうか。仕方ないわね(きびすを返して下手にはける)」
舞台暗転

エピローグ

明転
教卓は無く、生徒用の机椅子が、向かい合わせで2セット
下手にある方に只野が座っている。
扉の開閉音と共に、上手から黒上が登場。
何事も無いように、上手側の椅子に座る

只野「あ、黒上さん、おはようございます」
黒上「おはよう。只野クン」
只野「・・」
黒上「・・・」
只野「・・・・」
黒上「・・・・・」
只野「あのぉ~」
黒上「なによ?」
只野「もう会えないとか、啖呵切ってませんでしたっけ?」
黒上「(机に突っ伏す)やっぱり覚えてた~
(どこともなく上を向いて)かくしの人! 仕事が甘いんじゃないの?」
只野「隠?」
黒上「(涙目)こっちの話よ。
それより只野クン。なんだかすっとぼけてるけど、私が来たときもそんなに驚いてなかったでしょ?ある程度この状況を、予想してたんじゃないの?」
只野「実はその通りです」
黒上「(目を細めて只野を見る)何を根拠に?」
只野「キンちゃんが『任せとけっ!』って感じでした」
黒上「(再び机に突っ伏す)参考にならない!!」

只野「ところで結局、今回の件。黒上さんは、無罪放免なんですか?」
黒上「ん?(首をかしげる)ん~。キンちゃんの話では『しばらく監視下に置かれる』らしいんだけど、どうにもそれっぽい人間が来なくてね。
そのうち、だれか編入してくるんじゃないかと思ってるんだけど」
只野「このタイミングで編入してきたら、自分で宣言してるようなものですよね~」
黒上「そうだよね。
でもまあ、この場合はバレても大した問題じゃないよ。
なにしろ、監視される側が承知してるんだからね」
只野「なるほど~、それもそうですね。
じゃあ、その件は編入生が来たら考えましょうか」

只野「じゃあ結局、黒上さんは割と『元の生活』に戻れる感じなんでしょうか?」
黒上「どうも、そのようだよ。
いまいち、現実感が薄いんだけどね」
只野「そうですか~。(掛けてないメガネをクイッと上げる仕草)では、現実的な話をしましょうか。
会誌の原稿、お願いします」
黒上「(日光を浴びた吸血鬼のように顔を隠す)ぎゃ~~。」
只野「締め切りは、とっくに過ぎてるんですからね!」
黒上「(椅子の背にもたれて天を仰ぐ)わかった。わかった。
(口の端でフッと笑い、体を起こしてつぶやく)日常…ね。得難えがたいじゃないの」

他愛のない会話が続くなか、段々と照明が落ち、そのまま幕が下りはじめる
只野「ところで、会誌を電子化しようと思うんですけど」
黒上「なになに、イイじゃないか。有料販売かい?」
只野「違いますよ。っていうか、何を根拠にウチの会誌が売れると思うんですか」
黒上「特に根拠はないけど、やってみないと分からないんじゃない?」
只野「相変わらず強気ですね。
いいから聞いてください。学内の文化系サークルの紹介ページがあるじゃないですか。そこにリンクを張ってですね。。。」
幕が下り切って、完


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