「にて」ってかっこよくない!?

NOTEを読んでいらっしゃるような方はきっと「自分の好きな本」というのをお持ちなのではないでしょうか。

自分もいくつかあるのですが、感動という点に関して言えば『鉄道員』(集英社文庫)に収められている短編『角筈にて』。とある会社員の左遷から始まり、今までの思い出を振り返りながら、最後に奇跡が起きる・・・というお話。次読む本に困っていればお勧めします。

ところで、この話のタイトル『角筈にて』ここにある「にて」という言葉、とても魅力的に見えます。なぜでしょうか。

とりあえず、「にて」を調べてみます。

格助]《格助詞「に」+接続助詞「て」から》名詞、活用語の連体形に付く。
1 場所を表す。…において。…で。「面接は本社―行います」

「わづかに二つの矢、師の前―一つをおろかにせんと思はんや」〈徒然・九二〉

2 時・年齢を表す。…の時に。…で。「本日は午後五時―閉館します」

「長くとも、四十 (よそぢ) にたらぬほど―死なんこそ、めやすかるべけれ」〈徒然・七〉

3 手段・方法・材料を表す。…によって。…で。「飛行機―任地へ赴く」

「すべて、月、花をば、さのみ目―見るものかは」〈徒然・一三七〉

4 理由・原因を表す。…によって。…で。「病気―欠席いたします」

「御物の怪 (け) ―、時々悩ませ給ふこともありつれど」〈源・若菜上〉

5 資格を表す。…として。

「ただ人 (うど) ―おほやけの御後見 (うしろみ) をするなむ、ゆく先も頼もしげなめる」〈源・桐壺〉

goo国語辞書 https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E3%81%AB%E3%81%A6/

 なるほどいくつか意味があるようです。『角筈にて』の場合、「角筈」は新宿区の地名なので、1の意味で用いられてるようです。

 つまり、このタイトルは「角筈で・・・」ということです。物語の内容にはあまり触れられていません。(ちなみに、すこしネタバレになりますが、『角筈にて』においても、あまり「角筈」という地名は重要ではありません。)かなり余白を残したタイトルであるといえます。

 こうなると少し魅力が見えてきます。以前別の記事でも書いたのですが、自分は言葉のなかで生まれる余白がとても好きです。タイトルで舞台だけに言及して、あとは読まないとわからない。とてもワクワクします。

 ところで、この「にて」実際に使うとなると結構難しかったりします。
先ほどの定義を整理すれば「にて」の前には場所の名前が入るわけですが、似合う場所と似合わない場所があります。

 例えば「東京にて」これはどうでしょう?もちろん、人によって思うことは様々ですから、あくまで一個人としての意見ですがこれはすこしに合ってないように思います。思うに、東京というのは範囲が広すぎて「にて」という言葉の持つ指定の意味を薄めてしまうからだと思います。「にて」を使うときには、ある程度狭い範囲を指すことによってジオラマ感を演出できるのかもしれません。

このジオラマ感は多くの表現で役に立ちます。例えば演劇の場合、舞台に用意されてない部分、つまり余白を「~にて」と言及することである程度狭めることが出来ます。もちろん、それはリアリティへとつながります。

あと、非常に個人的な感想ですが、使うと少し恥ずかしくなります。「自分ってこんなものも使えるんだぜ」とアピールしている感じがあるからです。「にて」という言葉を使うには、それなりの経験を積まないと難しい・・・のかもしれません・・・たぶん・・・おそらく・・・