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小説を書き始めたのだけれど…。短編小説『嘘の駄作を書け』

「駄作だな」
「えぇッ」
 わたしが書いた小説の原稿を、部長は鼻で笑って机の上にうっちゃった。いっそ清清しいほどの一刀両断っぷりなんだけど…。
 文芸部というより柔道部にでもいそうな大きな男子だから、否定されるとどうにも恐くて泣いちゃいそうになる。
「そ、そこまでダメでしたか……?」
 落胆したわたしは部長に訊ねた。
 文芸部に入部してかれこれ半年になる。
 中学までは女子陸上部だったけど、脚の故障で走るのを断念し、次にわたしが選んだのが小説の執筆だった。
 小説投稿サイトにアップされている作品をよく読んでいて、いつか自分も書きたいと思っていたのだ。そうして入部して小説の執筆を始めたわたしなのだけれど、文芸部の部長はとっても厳しい。
 わたしが書いた小説をことごとく「駄作だな」と一蹴する。
「駄作だな」
 案の定、今回も一蹴された。うぅ。
「どういうところが?」
「いやさ、お前の小説って自分の体験が元になってるだろ」
「え、なんでわかったんですか!?」
「キャラが思い切りお前だからな」
「ふええぇ……」
「でもって大抵オチがない」
「オチがない?」
「例えばこの小説だってそうだ。脚を故障して陸上部を断念した主人公が、とある小説投稿サイトの小説を偶然読んで感動して、文芸部に入った……で、終わってる」
「はい」
「はっきり言おう。日記だこりゃ」
「ふえええん!」
「泣くな阿呆」
 部長がわたしの頭を軽くこづいた。
「小説なんだから、嘘ついていいんだよ。基本的に小説なんて嘘っぱちだ。虚構だ。だったら精一杯嘘をつけ。まずは、嘘の駄作を書くところから始めろ」
「……どっちみち駄作じゃないですか」
「嘘なだけマシだ」

       *

 わたしは原稿を鞄の中に入れ、部室を後にした。
 部室だとほかの人(主に部長)がいて集中できないからね。
 嘘の駄作……か。うーん。
 おっ。
 閃いた。
 頭の中で、嘘がむくむくと膨らんでいくのがわかる。
 ……これって、楽しいかも。


※あとがき
『嘘の駄作』というお題を元にして書いた即興小説を加筆修正した作品です。
実生活で嘘をつくのは時と場合にもよりますけど基本的には推奨されていません。
が、こと小説の世界においては嘘っぱちはオーケーです。
ありもしない異能の力やらそんな美味しい話あるかよとツッコミを入れたくなるようなラッキースケベだって書いちゃっていいのです。
楽しいですよ~、小説執筆。


※長編小説の販売を有料マガジンで始めました。完結済みです。


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