投げ飛ばしちゃえ

ここ2、3日でミコはまた、
腕にたくさんのリストカットをしている。

修学旅行が近づいていることへの不安が
一番の原因だろう。

薄くなっていたリストカット跡の上に
重ねるように、赤いバーコードのような
切り跡がたくさん付けられた。

死なないためにしているんだ。
生きるために、傷つけているんだよね。

頭では理解しているけど、
実際、ミコの腕をみるとかなりへこむ。

修学旅行でのお風呂で、
どう切り跡を隠そうか…
多分、バンドエイドをたくさん貼ることに
なるんだろうが、
他の生徒達はギョッとするんだろうな、
とか。
ミコはみんなにギョッとされつつ、
大きな身体を縮めて
みんなと並んで身体を洗うんだろうな、
とか。

そんなことを想像すると、
泣けてくる。

頭の中がぐちゃぐちゃ。


ミコはよく、お菓子を作る。
丁寧に丁寧に作ってくれる。

本当にうつの状態が酷いときには
お菓子作りさえ、出来なかった。

だから、今、お菓子を作る音が
リビングからしてくると、
少し安心する。


もうさー、
勉強も受験も学校も
修学旅行も友達作りも
全部どこか遠くに投げ飛ばしちゃえば?

もう、
なーんにもなーんにも
しなくていいじゃん。

甘い匂いに包まれて
ミコがお菓子を作っている姿を見ると、
そんなことを言ってしまいたくなる。