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論語と算盤 / 利益という推進力と、道徳という制御力

日本の資本主義の父とも呼ばれる「渋沢栄一」の1916年(大正5年)に出版された本になります。


著者の「渋沢栄一」は、2021年にNHK大河ドラマで、主人公とした「青天を衝け」が放送され、2024年に、日本の新紙幣1万円札の顔になる予定です。

本書は、大正時代に書かれたものにも関わらず、現在でも通じる部分が多くあります。

「道義を伴った利益を追求せよ」と「自分より人を優先し、公益を第一にせよ」

本書の骨子は、「道義を伴った利益を追求せよ」と「自分より人を優先し、公益を第一にせよ」という2点になります。これは、「道徳」や「利益」のどちらか一方の話しではなく、両方を追求する必要があると書かれています。

「道徳」を重視するというのは、正論のように感じます。しかし、私利私欲を捨て去ることは一見良いように見えますが、それが過ぎると人間の活力は失われ、生産力が低下し、国力が低下すると、中国の「宋」を引き合いに説明しています。実際に、仕事でも、その仕事を頑張ったとしても、自分への利益にまったく還元されないとなると、努力する気力が失われていくのは想像できると思います。

しかし、個人の「利益」だけを重視したとしても、良い結果にはなりません。実際に、周りと強調せずに個人の利益を追求するような殺伐として社会・組織では、足の引っ張り合いで生産性は低くならざるを得ません。

渋沢は、「利益」という欲望を心の常にもっているべきであり、その欲望は「道理」によって制御するようにしたいとあります。何かをなすための、「欲望」の大切さと、それを制御するための「道理」の大切さを説いていますが、「欲望」が自動車のガソリンであるならば、「道理」は自動車のハンドルのようなものです。前に進むには、「欲望」を動力にすることで強く進むことができますが、「道理」がなければ、何かと衝突してしまい事故を起こしかねません。

私はいつも次のように望んでいる。仕事を進めたい、事業を発展させたいという欲望は人間の心につねに持っておくべきだ。しかしその欲望は道理によって制御するようにしたい。ここで言う道理とは仁(*4)・義(*5)・徳(*6)のことで、この三つを含むものだ。この道理と欲望とが表裏一体となっていなければ、中国の宋が衰退したようなことになりかねない。また、欲望もそれが道理に反しているようなら、どんな展開になろうとも他人のものをすべて奪わないと気が済まなくなってしまう。結局、不幸に陥ってしまうだけだろう。
引用:渋沢栄一. 論語と算盤 モラルと起業家精神 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1606-1612). Kindle 版.

イノベーション・オブ・ライフ との共通点

本書の内容は、「イノベーション・オブ・ライフ」で書かれていた内容は、個人の話しですが、本書の内容とも通じます。エンロンの不正会計や、ハーバードの卒業生たちが誤った道を進んでしまっている理由は、ハーズバーグの二要因理論(動機づけ理論 / モチベーション理論)の「衛生要因」と「動機づけ要因」のなかで、「衛生要因」を優先して選択した場合に、不幸な結果になるとあります。

衛生要因 = 金銭的な報酬を優先することが、不幸な結果になるわけではなく、他のどの要素よりも「金銭」が優先されるときに問題がおきてしまうとあります。衛生要因は満たされているのに、さらに大きな報酬を得ようとするとするところで、報酬を維持・向上させるための無理 や不正が発生してしまうとあります。衛生要因は、不満を取り除くだけの効果しかありません。仕事での幸福や満足度を得るには、「動機づけ要因」を求める必要があります。

これは、先程の欲望を何で制御するかという話しではないでしょうか。それが「報酬」のようなものになると、ハンドルを誤ってしまう可能性が高くなります。正しくハンドルを操作するには、「報酬」ではなく、「道徳」といった倫理観や責任などでコントロールしなければ、結果として、個人としての幸せも得られる地点まで到達できないのではないでしょうか。

私は日頃、何かを成し遂げるためには大きな野望を抱き、利益を得ようという思いを強く抱くことが推進力になると考えている。中身のない理論に走ったり、見栄を張りたがる国民のままだったりしては、本当の成長は望めない
引用:渋沢栄一. 論語と算盤 モラルと起業家精神 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.369-371). Kindle 版.

まとめ

論語と算盤は、大正時代に書かれたものでしたが、「道徳」と「利益」というものが、大きく隔たりがあった時代に書かれたものです。その背景には、「儒教」に対する解釈の誤りなどが指摘されていますが、「金儲けは卑しい」とされる考えが浸透していました。結果として、現代でもまだ金儲けというものに対して、ずる賢さのような「卑しさ」と感じる部分が根強く残っていると感じる部分があります。

考えさせられたのは、ビジネスをして「利益」を出すことを肯定すること。しかし、その「利益」は「道徳」に従っているかどうかの基準に則って行動すること。そうすることで、個人にとっても社会にとってもよいビジネスをすることができると感じました。


イノベーション・オブ・ライフ読了時のメモはこちら

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