見出し画像

【#2】クヴストディアにおける「肉体と魂の二元論」【ブラスフェマス・考察】

1.肉体と魂の分離について

 ブラスフェマスでは登場人物を語る上で、肉体と魂(精神)が別物として表れる描写が頻出します。
 二元論ということで、人間の二面性を比較したり繋がりを持たせたり…というのはよくあるテーマです。しかしそこからさらに「肉体と魂の二元論」が宗教的世界観と交わった場合について描写されているのが、この作品の突出したところだと思います。

※ネタバレを含みます。



2.作品中の実例その1(三姉妹)

・三姉妹/アルタスグラシアス⇔三苦悶

 意思に反した婚姻を結ばされることに対し、抵抗して「人」ではなくなってしまった姉妹。報われてほしいと思ってしまうところですが、三姉妹の肉体は(おそらく、痛みを伴って)融合してアルタスグラシアスとなります。対して三姉妹の精神はボス「三苦悶」へと昇華されています。


【肉体】アルタスグラシアスと奇形の卵

 三姉妹は毛で覆われた大きな卵となり、その後アルタスグラシアス(彼女達曰く「手遅れ」の肉体)と奇形の卵(汚れの無い無垢なる何か)に分離されたようです。伝承には記載されていないため、それを知るのは彼女本人達だけでしょう。この卵を孵化させると「怒れる声は消えた」として、アルタスグラシアスが夢の向こう側(≒死)へと去っていきます。

 これは「穢れた肉体の成仏」(仏教的表現ですが…)ということだと思われます。一方、孵化した卵は汚れの無い肉体、新たな命として再誕します。(孵化した卵は塩岸の神に渡してしまうので、生物としての命を全うするかどうかは不明…)
 またアルタスグラシアス本人が夢の向こう側へ行けると確信していることから、宗教的な意味で赦しを得られたということでもあるでしょう。これはクヴストディアで重視される「正しい形で葬られること」、作中の教団が掲げる「真なる埋葬」に近いかもしれません。


【魂】三苦悶

 彼女達の魂、怒りの精神はどこへ行ったのか。それらが形をとって表れたのが三苦悶だと思います。魂がどの段階で肉体から分離したのか判断するのは難しいですが、対比する肉体としては卵というより「汚れた肉体(=アルタスグラシアス)」の方でしょうか。
 三苦悶の魂(精神)の場合、個人としての魂というよりも「宗教的な規律、家族観に支配される苦悩」を示すものとして概念化した存在のように思います。(モデルとなった聖人(Santa Librada)の話を調べてみると、近しい逸話が出てくるので理解が深まると思います。)


 彼女達のいう「汚れる」とは一体どういう意味なのか、無宗教である私には理解できない領域だと感じます。
 親の用意した婚姻を拒む行為か。魂の意思を優先して自らの命を無下にした行為か。あるいは彼女達を汚したのはあくまでも他者であるが、その運命の責任は彼女達が負い、魂の意思を守るために肉体を犠牲にしたという意味なのか…

 
 ※因みに三苦悶由来の祈詞「三姉妹のカンテ・ホンド」は大聖堂屋上で見つかります。憶測ですが、これはアルタスグラシアスに捧げる三つのアイテム及び「髪の結び目」の伝承で登場する司宰が遺したものではないかと思います。
 三姉妹の卵の奇蹟を崇拝し、また消えた卵を探して各地に赴いた彼が、忘れられない奇蹟を記した詩節なのかもしれません。



3.作品中の実例その2(ペルペチュア)

・ペルペチュアの肉体⇔ペルペチュアの声

 生前は聖別軍として戦い、命を落としたエズドラスの妹。プレイヤーは黄昏山脈とエズドラス戦で二度闘うことになりますが、最終アップデートによりこの二戦において、厳密には同一人物ではないと判明しました。
 彼女の肉体は霊廟にありましたが、真の魂は「声」として別の場所、しかも夢の向こう側とは異なる場所にいたようです。


【肉体】妹の眠りし地にある霊廟(及び黄昏山脈の樹周辺)

 ペルペチュアの肉体は「妹の眠りし地」霊廟にあります。彼女の「声」曰く「終わりなき黄昏山脈」で悔悟者と戦ったのは自分ではなく、奇蹟たる熱意が生み出した偽者、とのこと。
 憶測ですが聖別軍の深紅の布が肉体の腐食を防いだ、なんてこともあるでしょうか。

 後述する謎の樹の力により、魂の抜けたペルペチュアの肉体に何らかの存在が宿った姿であるならば、「精神の宿らない肉体は別の存在に利用されてしまうこともある」という事例の一つなのかもしれません。例えば、天の意志の思惑とか…


【魂】ペルペチュアの声(エズドラスや悔悟者にのみ聞き取れる)

 その一方で、声までは奇蹟によっても奪われなかったこと、また彼女の魂は夢の向こう側ではない場所にいる…というようなことを語っています。

  エズドラスは死亡時「夢の向こう岸へと渡る」と言ったのに対し、ペルペチュアは「兄は我が声の届かない彼方へと行ってしまった」と語ります。また霊廟での彼女の台詞「真実を覆い隠す霧(影)」とはおそらく、聖下が秘匿し守ってきた「霧とベルベットの世界(天の意志により創られた世界)」を指していると思われます。
 このことから、ペルペチュアは夢の向こう岸にはいない可能性が高いです。

 声とは不滅の魂(精神)を表すものであり、肉体のように奪われることなく、状況によっては死後ですら生者に意思を伝えることができるのかもしれません。



余談.終わりなき黄昏山脈にある謎の樹

 ペルペチュア(の肉体を纏った偽者)と闘うエリアに立つ樹であり、三姉妹の卵を孵化させる力を持つ樹でもあります。この樹についてはっきりと記載された伝承等は(多分)ありません。

 予想としては「魂の宿らない肉体に命を吹き込むことのできる樹」なのではないか…と個人的には考えています。重要なのはそこに本人(肉体の元の持ち主)の魂は既に宿っていないということです。
 奇蹟のいたずらなのか、何者かの作為なのか…とにかくこの場所では再誕の奇蹟(しかし元の魂は失われたままである点から、蘇生ではない奇蹟)が生じる場所なのかもしれません。



・おまけ

【playthepast『Feeling History in Blasphemous: Monstrosity and Spectacle through Time』 https://www.playthepast.org/?p=7842】

 海外のblasphemous wikiを眺めてたら、アルタスグラシアスに関する面白そうな記事がありました。(まだ斜め読みしかできてませんが…)
 Artbookに載ってた、赤ちゃんに授乳してるおじさん?が誰なのかも元ネタが分かってよかったです。やっぱり製作の都合でカットされた登場人物だったのか…
 英文ですが、google翻訳にかければ内容はなんとなくわかると思うので興味ある方はぜひ…私の考察よりはしっかりしたデータベースだと思います。

 「playthepast」というサイト、色々なゲームと文化的事象etc…について関連した記事が掲載されてるようです。インターネットとgoogle翻訳がある時代でよかった…



【ブラスフェマス(blasphemous)テキスト @Wiki】 https://w.atwiki.jp/text_blasphemous/  ←こちらは公式フレーバーテキストをまとめています。整備中ですがよかったら見てね。