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どうしても読みたかったアフガニスタンの絵本

中村哲先生とアフガニスタンのこと

 私が初めてアフガニスタン料理と出会ったのは1999年、アメリカ東海岸の都市ボルティモアのレストランでのことでした。その美味しさに驚くと共に、アメリカの主要都市にはアフガニスタンからの難民・移民が開いたレストランがごく普通に存在していることを知りました。世界中のグルメが食べられると思っていた東京で食べられない料理があること、しかも、その料理が本当に美味しいことは、私にとって大きなカルチャーショックでした。以来、私の夢は「アフガニスタンで本場のアフガン料理を食べること」です。

 日本に帰国して「ペシャワール会」のことを知り、会員になりました。なかなか行けないアフガニスタンと、少しでもつながっていたかったから。一度だけでしたが、中村先生の講演会にも足を運び、用水路によって砂漠が緑に変わったスライドが映し出されたときの先生の嬉しそうな顔を今でも覚えています。

アフガニスタンの魅力を伝えたい

 12月4日、中村先生は凶弾に倒れました。いつもなら、12月の読み聞かせではクリスマスや年越しなどにちなんだ昔話や絵本を読むことにしています。でも、どうしてもアフガニスタンの本を読みたいと思いました。

 アフガニスタンのことを描いた絵本には『せかいいちうつくしいぼくの村』(小林豊作・絵 ポプラ社)という素晴らしい作品があり、続編に『ぼくの村にサーカスがきた』『せかいいちうつくしい村へかえる』も出版されています。インパクトの強い本だけに、ブックトークなどで背景も含めて説明するならいざ知らず、朝の15分という短い時間では読みっぱなしにして帰ることになります。どうしようかと迷いましたが、結局、『アブドルのぼうけんーアフガニスタンの少年のものがたり』(金田卓也 偕成社 ※残念ながら絶版になっているようです)を持っていくことにしました。長さは、私が読む速さで10分程度です。

 この絵本の中には戦争も飢えもありません。「ひろいさばくのむこうには、いったいなにがあるんだろう」と出かけた幼い兄弟は、出会った人々に助けられながら今まで知らなかったことを見聞きし、翌日、家路に着くという、穏やかであたたかい世界が広がっています。生意気ざかりの5年生にはちょっと物足りないかも・・・と思いつつ、それでもこの絵本を読みたいと思ったのは、見ず知らずの子どもたちに手を差し伸べるアフガニスタンの人々のやさしさを伝えたかったからです。また、この絵本には砂漠を歩いている途中の兄弟がトラックから落ちたメロンで喉の渇きを癒やす場面があります。アフガニスタンのメロンはとても美味しいそうで、絵本の中のそんな一コマから、子どもたちにアフガニスタンの日常を少しでも感じてほしいと思いました。

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子どもたちの反応は

 子どもたちにあまり馴染みがない国の昔話や絵本を読むときは、世界地図も持参して、その国がどこにあるか、知ってもらうことから始めます。「今日はアフガニスタンの絵本を読みます」と口を開くと、「あ、中村哲!」という声が子どもたちから上がりました。本当は、中村先生の活動やアフガニスタンという国が何十年も戦争に苦しんでいることも紹介しながら読むべき絵本だったのかもしれませんが、私の中ではまだ数分でまとめられるようなことではなく、「そう、ニュースでも取り上げられているけれど、この前亡くなった中村哲さんが活動されていた国です」と前置きして、『アブドルのぼうけん』を読みました。

 子どもたちがこの絵本をどう受け止めたのかは、正直、わかりません。ただの自己満足かもしれないという気持ちもあります。それでも、『アブドルのぼうけん』に広がるアフガニスタンの風景や人々の営み、人間らしい情の深さが少しでも心に残ってくれれば、と願っています。

 


読んでいただいて、ありがとうございます!