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『赤い部屋』江戸川乱歩 「ドキッとする小説」

このnoteは、まだ本を読んでいない人に対して、その本の内容をカッコよく語る設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。

『赤い部屋』江戸川乱歩

【江戸川乱歩を語る上でのポイント】

① 「乱歩」と呼ぶ
② コナンの由来だよと掴む
③ 耽美主義を解説する

の3点です。

①に関して、通の人がモノの名称を省略するのはどの分野でも適用されます。文学でもしかり。「乱歩」と呼び捨てで語ることで、文学青年感1割り増しです。

②に関して、コナンは大人気なのでコナンの名を出せば傾聴してくれます。

③に関して、江戸川乱歩は耽美派の作家でエログロを得意としてます。耽美派とか白樺派とか芸術思潮をサラッと語るとカッコいいです。


○以下会話

■江戸川乱歩の代表作

 「ドキッとする小説か。そうだな、そしたら江戸川乱歩の『赤い部屋』がオススメかな。この小説は江戸川乱歩の初期の作品で、代表作とも言われてる短編小説なんだ。江戸川乱歩らしい怪しくて魅惑的な作品で、短編なのに読み終わった後疲労感を覚えるくらいなんだよ。ミステリー小説が好きな人は絶対ハマる小説だと思う。

■あらすじ

とある日に男7人が、壁紙、床、テーブルから蝋燭まで全て赤色で統一された「赤い部屋」にいるところからこの物語は始まるんだ。この集まりは、退屈な日々に飽きた男たちが、日々への刺激となるような話を語って聞かせる会なんだよ。

この日は新入会員のT氏が話す番なんだ。T氏は退屈な日々を人殺しの興奮で解消してきたと話しだすんだ。

始まりは3年前。T氏が外を歩いていると、たった今老人をひいてしまった運転手に出くわして、医者を尋ねられるんだ。近くには良い医者とヤブ医者の2軒あって、T氏は間違えてヤブ医者の方を教えてしまったんだ。そして翌日、老人が死んだと聞くんだよ。ここでT氏は、間接的に偶然的に人を殺してしまったことに興奮を覚えるんだ。ここからT氏は偶然性を装った殺人を繰り返して、日々の退屈を紛らわすことにするんだよ。

例えば線路を歩いて渡ろうとする老婆に対して、わざと慌てた口調で「危ない!」って叫ぶんだ。すると老婆は声にびっくりして動揺して、足がもつれて、そこに電車がきてひかれてしまうんだよ。

他にも、下水工事をしている穴のそばを、視覚障害のある人が通る時、「そら危ないぞ!左へ寄った、左へ寄った」ってまるで冗談かのように喋りかけるんだ。するとその人は、「バカにするな」って右に寄るんだよ。そうして下水工事をしている深い穴に落としたりしたんだ。

見知らぬ人だけじゃなく、友人にもその手は及ぶんだ。泳ぎが下手な友人と一緒に海水浴に行って、水底に尖った岩がある場所で飛び込みしてみせて、「お前も飛び込んでみろ」と言って、その尖った岩にぶつからせたんだ。こうやって今までに99人の人を殺してきたんだ。

思いもよらないT氏の話に、他のメンバーは興奮するんだ。そこに給仕の女性が飲み物を持って部屋に入ってくるんだ。すると突然、T氏はピストルを取り出して、バンっとその女性を撃つんだよ。女性が悲鳴をあげて、メンバーも驚いて椅子から立ち上がるんだ。だけど女性はなんともなっていないんだよ。T氏のピストルはおもちゃでただのイタズラだったんだ。

T氏は笑いながら謝って、ピストルを彼女に渡すんだ。すると「まあ、本物そっくりだわね。くやしいから、じゃ、あたしも打ってあげるわ。」と言って彼女がT氏に向かって発砲するんだ。

するとバキュンッとさっきとは違う銃声が響くんだ。T氏は倒れてうめき声をあげて、胸からは血を流しているんだよ。

メンバー達は目の前で起きたことに驚愕するんだよ。T氏は、空砲で女性を打ってみせて、二発目には本物の銃弾をこめていて、それを給仕に打たせたんだ。これは事故であって給仕が罪に問われることはないんだよ。刺激が欲しいT氏は、とうとう100人目に自分を殺したんだよ。メンバー達は唖然とするんだ。

あまりの出来事に赤い部屋はシーンと静まり返るんだ。しばらくするとクックックッという笑い声が沈黙を破るんだ。その音をたどると、T氏が笑っていたんだ。隣を見ると給仕の女性も笑っているんだ。

実はこの一連の事件はT氏が給仕の女性とくわだてた芝居だったとT氏が話しだすんだよ。そして99人の殺害も全て作り話だったんだ。T氏が「初めから終わりまで、みんな作りごとなんですよ。」と言って、この話は終わるんだ。

■なぜ最後ネタバレをしたがるのか

クオリティが高くて、わかりやすくて、面白い小説だよね。でも江戸川乱歩の小説で、唯一直すべきところをあげるとするなら、最後のネタバレの部分。「これは全て作り話なんですよ」って言う部分。これって絶対いらないよね。僕だったら、本当にT氏が銃殺されて終わらせる。せっかく面白い小説なのに、最後にがっかりするんだよね。

ほんとなんで最後にこんなこと書くんだろうか。T氏に「全て作り話です」って言わせる、いわば「ネタバレ発言」って小説においてどんな効果があるんだろう。考えられる理由としては三つあると思う。

一つ目は、登場人物を安心させるため。赤い部屋で話しを聞いている6人の男たちを安心させるために、ネタバレ発言をしている。

確かにこれは一理ある。だけど例えばこの6人が他の小説にも出てきて、後ほど『赤い部屋』の話が伏線となって登場するなら意味があるかもしれないけれど、6人はこの小説だけの登場人物だから、誤解をとく必要ないと思う。T氏が銃殺されて終わってもなんの問題もない。

二つ目は、読者を混乱させらないため。『赤い部屋』を読んだ人がこの話を本当だと思うのを避けた。

これに関しては、『赤い部屋』を読んでる僕らは、これが小説すなわちフィクションであることを知ってるから、そこに登場するT氏の話が現実世界のものではないことを知ってるよね。だからわざわざT氏に「これは嘘でした」って言われても「あ〜よかった〜。嘘だったんだ〜。安心した。」とは当然ならない。だから、読者のための発言ではないと思う。

三つ目は、江戸川乱歩のエゴ。僕はこれが1番の理由だと思う。江戸川乱歩はT氏を通して「どうだ!びっくりしただろ!」って自分の口から言いたかったんだよ。

『赤い部屋』はT氏の第一人称の語りで構成されているんだ。このT氏の語りは、作者である江戸川乱歩の語りでもあるよね。読者は、江戸川乱歩が操ったT氏が、登場人物たちに語る話を客観的に盗み聞きしている状態なんだよ。

もし『赤い部屋』がT氏が銃殺されて終わったら、作者の声を代弁する人がいなくなって、物語が作者の手から離れるよね。作者が介入できない閉じた世界になるんだ。この小説を読む読者の意識としては、物語に没頭しているから、少なくとも小説を読み終わって本を閉じるまでは、江戸川乱歩本人への意識はなくなる。

一方、T氏が死なずにネタバレ発言をすると、『赤い部屋』は最初から最後まで作者の声で語られた「嘘のお話」になるんだ。物語が完全に作者の手中にあることが分かると、T氏の後ろにいる作者の存在が強くなってくるんだよ。

つまりT氏がクックックッと笑って「初めから今までみんな作りごとなんですよ。」と言うセリフが、そのまま江戸川乱歩のセリフとして聞こえてくるんだ。

江戸川乱歩は読者に、小説を読み終わってから「江戸川乱歩面白い」って思わせるのではなくて、小説を読んでる最中に自分が登場して「どうだ騙されただろ?」って言いたかったんだね。

結論、江戸川乱歩がたびたび最後にネタバレをするのは、江戸川乱歩が目立ちたがり屋だからなんだ。あくまで僕の解釈だけどね。

それでもやっぱりクオリティは高いドキッとするお話なんだ。ミステリー系が好きな人は絶対ハマると思うよ。」

おまけ

江戸川乱歩は、短い文に面白さをぎゅっと詰め込んだ小説をたくさん残しています。『赤い部屋』だけでなく、『人間椅子』『芋虫』なども短くて高クオリティです。こういった、スタートからゴールまで最短距離で進む小説は、TikTokなどの短い面白い動画を好む令和の日本にぴったりの作品だと思います。文庫で買うなら『人間椅子』や『芋虫』も入ってる『江戸川乱歩傑作選』(新潮文庫)がオススメです。

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江戸川乱歩傑作選(新潮文庫)

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