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お喋り 13/100

『生きるように働く』(ミシマ社, 2018) という本がある。株式会社シゴトヒトの代表・ナカムラケンタさんの著書だ。

装丁がステキだ。遊び心と優しさと丁寧さが、イイ具合に同居してる。中身も同様です。

ナカムラさんは、大学で建築を学んだのち、不動産会社に就職、2008年に「生きるように働く人のための求人サイト」というコンセプトで「東京仕事百貨」を開設した。2012年より「日本仕事百貨」に名称変更されており、毎月10万人が閲覧してるらしい(主にwikiより引用)

「日本仕事百貨」は、読んでて楽しい。グッとくる。そこで働く人の思いと偏愛、彼・彼女らに対するインタビュアーのリスペクトと好奇心が、いい感じで混ざり合って伝わってくる。特に求人してるわけでもされてるわけでもない僕は、フツーに読み物として楽しむ。

僕がナカムラさんを知ったのは2019年3月のことだ。広島のREADAN DEATというエッヂの効いた小さな本屋さんで開催されたイベントに参加したのがきっかけだ。

ナカムラさんが懇親会でREADAN DEAT店主の清政さんを「メンタルヤンキー」って表現したのがめちゃ印象に残ってる。新鮮な響きだ、メンタルヤンキー。

と、書いてきたけど、今回はナカムラさんや清政さんやREADAN DEATについて書きたいわけではなかった。ここまでは余談だ。

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一昨日から「なぜ書くことがないのか?」とツラツラ考えてたことの、続きだ。

「サラサラと文章書けたらいいのにな」と考えてて、ナカムラさんの本のタイトルを思い出したのだ。

『生きるように働く』

「喋るように書けたらいいな」と思ったのだ。

「喋るように書く」

と言っても、喋るのも得意ではない。だとすれば、まずは「息をするように喋れたらいいな」と思いはじめる。

「息をするように喋る」

先日、TULLY'sでコーヒー飲みながら書き物仕事をしていたら、隣席に座った三人組に意識を9割がた持っていかれ、まったく仕事にならなかった。

三人組の主役は80歳くらいのお爺ちゃんだ。隣には奥さんと思しき女性(以下、奥さん)が座り、正面には娘さんと思しき女性(以下、娘)が座っている。

お爺ちゃんは、のっけから矛盾を抱えている。

爺「どこに座りゃいいんや」
娘「ここでいい?」
爺「どこでもいいんじゃワシわ」
娘「注文してくるから。何がいい?」
爺「なんでもえぇけ」
(財布から1万円を取り出し娘に渡す)
娘「こんなに要らんよ」
爺「ええけぇ、好きなもん買うてこい」
娘「何がいいの?」
爺「なんでもええけぇ」
娘「いつもコーヒーよね」
爺「それでええよ」
娘「アイス?」
爺「アイスは飲まん、ええけぇなんでも、買うてこい」
娘「ホットね。サラダサンドは?」
爺「野菜は食わん」
娘「フレンチトーストでいい?」
爺「じゃけぇなんでもいい言よるやろが、早う買うてこい」

お爺ちゃんは娘に向かって、結構な早口&ボリューム&べらんめぇ口調(広島ver.)で、ずーーーっと喋りつづける(耳が聞こえづらいのだろう)。

過去と現在を自在に往来しながら、何かに誰かに延々と文句を言いつづける。

娘は慣れた手際で相槌を打ちつづける。見事だ。奥さんは一貫して興味なさげにボンヤリ静かに座ってる。置物のようだ。

三人のセッションは、かれこれ二時間ほど続いた。お爺ちゃんは、正に「息をする」ように、思い浮かぶままの罵詈雑言を、大きく感情を揺らすこともなく、ほぼ100%もれなく言葉に変換しつづけている。大したスキルだ。

こんな風に流れるように喋れるってどんな感覚なんだろう? 気持ちいいのかな? 喋り下手な僕は感心しきりだ。

(僕が身内とコーヒーショップに入った場合、ここまでに文字にしたようなやりとりは一切言葉にしないだろう。ほぼ無言で、テキトーに座って、テキトーに自分で注文して、周りの話を聞いてるだけだ。ポジション的には置物奥さんの役回りに近いだろう)

途中で、面白い現象が起こった。

「ちょっとお手洗い...」

リアクション皆無の置物だった奥さんが、おもむろにトイレに立った。

すると、とめどなく喋りつづけていたお爺ちゃんが、ピタリと喋るのを止めたのだ。

「停電?」ってくらい突然スイッチがオフった。

お爺ちゃんは黙って俯いて、フレンチトーストを齧っている。娘さんも特に気にする様子もなく、黙ってコーヒーを飲んでいる。

奥さんが戻ってくると、ブレーカーは速やかに解除される。

お爺ちゃんは何事もなかったかのように、件のなめらかなテンポで罵詈雑言の無限生成を再開する。娘は同じ調子で相槌を打ち、奥さんは変わりなくボンヤリと置物に徹している。

人間関係って面白い... 場って、組み合わせって、大事だな

僕が「息をするように喋る」ためには、どんなセッティングが必要なのだろう?

まずは「イイコト言おう」「感心されたい」「賢く見られたい」「バカだと思われたくない」みたいな邪念は、そろそろまとめて捨て去らなきゃ。

あとは、良き聴き手を見つけなきゃいけない。

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