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母 37/100

母について、思うところを書いておく。

二日前から実家に帰っている。「入院中の父の容体が悪化した」と、母から連絡をもらったからだ。

母は今、いつ命尽きるとも知れぬ父の介護を日々つづけている。タイムリミットは確実に近づいている。明日かもしれないし、来月かもしれない。

父は三十年以上に渡って肺の病を患い、入退院を繰り返してきた。看護師である母は、そんな父をあらゆる手を尽くして献身的にケアし、サポートしつづけきた。

一方的に支える母、あたり前のように支えられる父

息子である僕の目には、ずっとそんな風に見えていた。

最近になって、そうじゃなかったのだとわかった。

母は生まれてこの方「一人」で暮らしたことがない。大学までは実家で親きょうだいと暮らし、就職後は寮で友人たちと暮らし、結婚後は父と暮らした。子どもが生まれ育ち巣立ってからも、常に父が一緒にいた。

父がいつも目に見えるところにいたから、母は寂しさを感じることなく、忙しなく父の世話が焼けたのだ。家に帰ればいつも父がいるから、母は外で好きな仕事を安心して続けられたのだ。

母は今、生まれてはじめて「一人」になる瞬間が刻一刻と近づいてくる不安を強烈に感じながら、日々を過ごしている。毎日朝から父のいる病院に通い、着々と弱っていく父の傍につきそっている。

言葉を交わし、一つ一つの動作に手を貸しながら、残り少ない父との時間を大切に大切に過ごしている。

見てて切ない。

僕にできることは少ない
父の代わりは、いない

父が、もうすぐいなくなる
母は、母のままでいられるだろうか

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