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スゴ本① 16/100

すごい本を読んだ。

日本を代表する心理学者・認知科学者である佐伯胖さんの『「わかり方」の探究ー思索と行動の原点』(小学館, 2004)という本だ。

実は、読むのは初めてじゃない。多分以前の版だと思うのだが、20年以上前、大学院生の頃に一読した記憶がある。

当時は「なんだかゴチャゴチャとまとまりのない、切れ味の悪い物言いをする人だなぁ」という印象を抱いた気がする。流し読みで、本棚に戻した。

大学を出て、主に医療や教育の現場でカウンセラーとして働きはじめ、以後さまざまな方の相談に応じてきた。どんな支援方法が、姿勢が望ましいのかと試行錯誤を繰り返してきた。

経験を重ねるほどに、ことばの切れ味が悪くなっていく。「一概に言えないよね」と、一般論が語れなくなっていく。

現場に出て20年、いま読み返してみて、学生時代とは180度(いや540度!?)印象が一変した。

ヤバし...

誰かが誰かとコミュニケーションする(本書は学校教育を主眼に書かれているが、カウンセリングにおいても同じことだ)という一見単純に見える事態であっても、それはお互いに刻々と影響しあい変化し続ける複雑なプロセスだ。背景にも多重な関係性なり文脈がマクロにミクロに絡み合っている。なので、簡単に「〇〇という目的のために●●する必要がありました」「●●とは◻︎◻︎ということです」「●●したら△△になりました」と、スッキリさっぱりと、マニュアルに沿うようには記述しえない。

そんな気の遠くなりそうな複雑なプロセスが、この本では、丁寧に腑分けされ、科学的な知見に照らした分析も加えられ、再び現場で検証され、そうやって著者が納得感をもって「わかった」と思えたひとつひとつの「知」の結晶が、一見まどろっこしくも見えるが考え抜かれた(これ以上単純化すると、大切な要素が抜け落ちてしまうというギリギリの)文章で、しかもやわらかいことばで(ひらがながメチャ多い)、精緻に、文字に置き換えられている。

「わかる」とは?
「できる」とは?
「考える」とは?
「信じる」とは?
「おぼえる」とは?
「見える」とは?
「読む」とは?
「内側から見る」とは?
「遊ぶ」とは?
「話す」とは?
「うちとける」とは?
「笑う」とは?
「泣く」とは?
「きめる/きまる」とは?

日々の「臨床」や「学び」の過程において直面する、悩ましく、捉えがたく、けれど必須の考えざるをえない事柄がほぼすべて網羅されている。いちいち目からウロコをボロボロ落としてくれる。

もう何度か読み返して、著者の提示してくれたフレームワークに沿って、自身の日々の取り組みを見直し、整理してみようと思う。

ありがたい本だ。

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