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オヤジ4 43/100

母と毎日、電話で話している。

父の身体の各所から、あるべき働きが着々と失わつつあるらしい。とても、とても苦しそうだと。

「生命」には、外部からの有害な圧力や侵入者を駆逐し、自らを更新しつづけることで崩壊に抗う働きが備わっている。生命の生命たる左証とも言えるその働きが徐々に失われていくことを、老いと呼ぶ。

老いは「生命」を、人の手でメンテナンスしてやらないと自律的に機能できない、旧式の使い古した「機械」に変える。その機械は、あるラインを超えると、雪崩式に、相互連鎖的に、ありとあらゆる不具合を起こす。そしてある日、その機能をスッと停止する。

主治医が説明してくれた順序どおりに、きわめてロジカルに、父の身体は壊れていってる。

対して、知覚、記憶、認識、思考、感情といったいわゆる心の機能はシッカリと保たれているようだ。

さまざまなネガティブな感情や思いが、日がな一日頭を駆けめぐることになる。それに伴う耐え難い苦痛が、日がな一日身体中にもたらされることになる。

なんと残酷なことかと、気が滅入る。

明日は、母の誕生日だ。

数日前の夜に、妹の携帯に父から電話が入ったらしい。

「母さんのバースデーケーキを予約して、届けてやってくれ」

父の優しさと気遣いに、涙が出そうになる。

別れの日が近づいている。

哀しい。

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