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【こうばを訪ねて vol.8】品質を守り続ける、家族4人の町工場

金属加工品の一大産地、新潟・燕三条で30社以上の工場と一緒に家事道具をつくる、家事問屋。毎日の暮らしの「ひと手間」を助ける道具をお届けしています。

私たちが大切にしていることは、道具と共に、作り手の想いも皆さんへ届けること。

そのために日々工場を訪ねて、既存製品の反響を共有しながら、新たな製品づくりを進めています。

今回訪れたのは、調味缶などの製造を行っている猪熊製作所さん。調味缶は大手飲食チェーンにも取り扱われており、卓上の調味料入れとして手にしたり、目にしたりしたことのある方も多いと思います。

家事問屋では、引き出しに収まるコンパクトなサイズの「調味缶」「粉もの缶」、3サイズ展開の「保存缶」を製造していただいています。

▲家事問屋の粉もの缶(左)と調味缶(右)
▲コーヒー豆やお茶、乾物の保存に使える保存缶は3サイズ展開

家族経営の小規模生産で品質の高さを守り続ける2代目社長 猪熊尚洋さんに、品質へのこだわりや産地への想いについてお話を伺いました。

【プロフィール】猪熊 尚洋(いぐま なおひろ)
有限会社猪熊製作所 代表取締役
23歳で家業の有限会社猪熊製作所に入社。2020年、2代目社長に就任。子どもの頃からプラモデルやラジコンなどのものづくりが好きで、高校生の時にはPCの自作やバイクに目覚める。現在も休日は6台所有するバイクのカスタムに勤しむ。何事もハマると一途に探究する性分。


「いつかは継ぐのかな」暗黙の道しるべ

―猪熊さんが家業に入られた経緯を教えていただけますか?

小さい頃からうちの工場が遊び場で、ものづくりが好きでしたね。高校卒業後に4年ほど三条の厨房まわりの総合メーカーに勤めさせていただいてから入社しました。

父に言われたことは一度もないんですが、私は長男ですし、当時の雰囲気的に暗黙の了解という感じでした。もし家業がなければ、車かバイクの整備士になっていたかもしれないですね(笑)

父は創業して、下請けの立場で悔しい思いをたくさんしたんでしょうね。下請けからの脱却を目指し「小さいながらも自社製品を持つメーカー」になりたいと夜遅くまで働いていました。
当時から得意としていた「プレス絞り加工(※)」の技術を活かしたミルクピッチャーが自社製品のはじまりです。私が入社した頃には、調味缶の製造もしていました。試行錯誤を繰り返し、作り続けて30年余りになります。

※プレス絞り加工とは:一枚の金属板から、さまざまな容器形状を作る加工法のこと

―このミルクピッチャーを家事問屋のPOPUPのノベルティにさせていただいたときは、とても好評でした。

現在は調味缶が中心ですが、デッドストック状態だったミルクピッチャーを家事問屋さんが見つけてくれて。
しばらくして近所のFACTORY FRONTさん(家事問屋を扱ってくださっているセレクトショップさん)の家事問屋POPUPへ伺った際にノベルティを見て、うちの母も「あ、うちのだ!」とすぐに気づいて喜んでいました。

▲鮮やかなエメラルドブルーの箱には、家紋である柏をモチーフにしたKASHIWA印

家事問屋のコンセプトに共感

―家事問屋では、調味缶、粉もの缶、保存缶を製造いただいています。ふたの穴の大きさや数など相当こだわっていらっしゃるそうですね。

うちは調味缶では最後発なんです。もちろんいろいろと研究していますが、見た目の差別化も図ろうと、ツヤ消し加工を施したシンプルなデザインのものを自社で金型を起こして製造していたんです。

ちょうど売り出そうとしていたタイミングで家事問屋さんからお話があり、家事問屋の製品としてリリースすることになりました。品質の証として弊社のKASHIWAの刻印をそのまま残してくれたことが、うれしかったですね。

大手の会社さんからお声がけいただくこともあるのですが、うちは僕を入れて4人の家族経営で大量生産ができないので、残念ながらお断りすることも多くて。

自分自身が一つひとつ手を動かして作っているものなので、大量生産して使い捨てのように扱われたりしたら悲しいです。

少しくらい高くても末長くご愛用いただけるようなものを作りたいし、自分も買いたい。だから、車やバイクも、直しながら長く乗り続けているんでしょうね。

家事問屋も同じ思いです。使い手さんもそういった価値観の方が多いなと感じています。作り手さんの想いをお伝えすることで、大切に使おうと思ってくださっているようです。

初期の頃から、そういう家事問屋さんのコンセプトに共感する部分があって。それまでは、使い手さんの存在がとても遠かったんです。でも、家事問屋さんは作り手と使い手をつなげようとしてくれる。使い手さんとの距離が近く感じられて、斬新だなと思いましたね。

品質をめぐる父との衝突

猪熊製作所さんは家族経営をされていますが、家族経営ならではの良さや大変さはありますか?

調味缶の重要な部分はネジの構造にあるんです。フタは締めやすく外れにくい必要があるのですが、そもそもネジを切る前の、フタと本体の絞り加工を施した寸法が安定していないと製品として成り立たないんです。

最後発だったからこそ、品質について父は人一倍熱心にやってきたんです。でも、年齢を重ねて70歳くらいになってくると気力が続かなくなってきたのか、品質が安定しなくなってきてしまったことがありました。

その頃、安価な中国製品が入ってくるようになっていましたが、取引先はうちの品質を買ってくれていました。ところが、ミスやクレームが出てくるようになってしまって、その頃はよくぶつかりましたね。

父は3年くらい前に他界して、今は自分が社長になって弟と一緒にやっていますが、気を許せる反面、身内だからこそ言いにくいこともありますね。もちろん、身内だからこそのいい部分もありますが、難しいですね。

この“面白い産地”を次世代に

▲叔父さん(左)と弟さん(右)と一緒に

猪熊製作所さんの産地への想いをお聞かせください。

高齢化がますます進み、製造をやめる工場も出てきています。

うちは息子が今大学で、経営を学んでいますが、仲間と将来について模索中のようです。でも大学の先生に「継ぐのも悪くない」なんて言われていて、どうするのかわからないですけど。万が一「継ぎたい」なんて言ってきたら、「どうぞどうぞ!」ですけどね(笑)

これだけ狭い範囲にさまざまな金属加工ができる工場が集まっている地域は全国的に見ても他にありません。小さな工場がたくさんあって、近所付き合いでつながり合っているからこそ、いろいろな技術や製品が生まれて、面白い産地になったと思います。

せっかくいいものが作れる技術と環境が消えていくのはもったいないので。なかなか打開策が見つかりませんが、今自分にできることとして、品質を守り続けたいと思います。

▲創業当初から活躍する現役の機械。年季の入った外観が歴史を物語る

調味缶の分野で群を抜く品質の高さで知られ、家事問屋のロングセラー製品を担ってくださっている猪熊製作所さん。

手の届く範囲で、長く愛用される誠実なものづくりを貫く猪熊製作所さんの姿勢は、家事問屋が目指すところです。
唯一無二であるこの産地を未来につなぐため、作り手に寄り添い、よい製品づくりのお手伝いをしていきたいと考えています。

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〈取材協力〉
有限会社猪熊製作所
〒959-1281 新潟県燕市桜町230-3
https://www.iguma.com/


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