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開発ストーリー「ホットパンが生まれるまで」


おいしさと使いやすさにこだわったホットパン。理想を追い求めた結果、開発は何度も大きな壁にぶつかり、ついにはお蔵入りの危機も。それでも「これまでにないホットサンドメーカーをつくりたい」という一心で乗り越え、なんとか発売までこぎつけました。
ホットパンに秘められた熱いストーリー。関わった4人のメンバーに伺いました。

原点は子どもの頃の思い出

ホットパンの原点は、日本のホットサンドメーカーの草分け的存在「バウルー」にあります。家事問屋・久保寺は、子どもの頃からバウルーでつくったホットサンドを食べて育ってきました。

久保寺:
「バウルーは母の嫁入り道具。よく週末のお昼には、バウルーでつくったホットサンドが出てきました。大人になってキャンプに行ったときに再会。『あ、これ食べたことある。』って思い出して。ホットサンドメーカーでつくると何でもおいしいから止まらなくなって、家に帰ってからも食べたいと思うんだけど、家でつくるとちょっと不便。コンロの周りにこぼれて汚れてしまったり、洗いづらかったり」

家でも日常的に使いたくなるような、使いやすく、おいしく仕上がるホットサンドメーカーをつくりたい。家事問屋の立ち上げにあたり最初の製品にしたい。そう思って懇意にしているデザイナーの小泉さん、燕三条のメーカー・小田島さんに声をかけ、開発をはじめます。2014年のことでした。

おいしさもIH対応も諦めない

おいしさの決め手となるパンを挟む皿部分。ここは「アルミダイキャスト」という、溶かしたアルミを金型に流し込んで成形する製法を選びました。アルミは金属の中でも熱伝導に優れた素材。

そんなアルミを厚く成形することで蓄熱性が高まり、熱を均等にムラ無く伝えることができます。外はカリッと、中はふっくらとしたホットサンドに仕上がるのです。

ホットサンドメーカーをつくるにあたり絶対に譲れなかったのが、ガスコンロだけでなくIHでの調理にも対応すること。そしてフッ素樹脂加工を施して、汚れを落ちやすくすること。

そこで、皿部の製造は韓国の工場に依頼しました。

小田島さん:
「IHに対応したフッ素樹脂加工の技術は、圧倒的に日本より韓国が進んでいるんです。韓国製のものは、加熱スピードが断然速い」
直接韓国に足を運び、とりわけ優れた技術を持つ工場と出会うことができました。

▲右は最初の試作品。左の現行品と比べると厚みがあります。 小田島さん:「IHに対応するには厚みがないと歪んでしまう。ただ最初は厚すぎて重量が1.5倍くらいあったんです。そこで韓国側の経験値をもとに、極限の薄さまで攻めてもらいました」

しかしここで最初の壁にぶつかります。金型費の高さです。金型はアルミダイキャストには欠かせないもの。一般的なホットサンドメーカーの場合、2種類の皿がぴたっと嚙み合ってプレスできるような仕組みになっています。

この場合、金型も2つ必要になる分、高額に。少しでもコストを抑えるため、1つの金型で開発を進めることになりました。

▲開発初期の頃に3Dプリンターでつくった皿部の試作品。この時点では金型を2つつくる想定だったため、蝶番の部分(上部の突起)や縁の凹凸が上皿と下皿で異なります。これが一般的なホットサンドメーカーのつくりでもあります

開発の鍵を握るワイヤー

皿部分はアルミダイキャスト製。では、ハンドルや2つの皿をつなぐ蝶番は? となったときに、小田島さんが目をつけたのはワイヤー。

小田島さん:
「ワイヤー加工は燕三条が得意とする技術の一つ。ハンドルから蝶番まで一体化したワイヤーでつくれば、他にない見た目にもなる」

と、ワイヤー加工に長けたエトーメッシュの伊藤さんに加わってもらいます。ハンドルは具だくさんでも挟めるよう太くて強度があるものを。

一方、蝶番には細かなギミックを要求。コンロの上で開いたときに、安定して置けるようにしたい。

洗いやすいよう上皿と下皿は分解できるようにしたい。普段は容易に外せないのに、外したいときにはすんなり外れて欲しい。まるで知恵の輪のような仕組みが求められます。

そんな譲れないこだわりの数々が、開発の大きな壁になりました。

伊藤さん:
「とにかく蝶番が大変でした。何度試作してもうまくいかず、『これじゃ加工できないですよ』と図面を引いた小泉さんに戻す。そのやりとりを何度も繰り返しました」

八方塞がりの状況に、開発の手はストップ。

小田島さん:
「もう無理だと思いました」

久保寺:
「実は会社にも止められました(笑)。無理に出さなくてもいいんだぞって。それくらい時間がかかってしまって、追い詰められていました」

▲一番苦しんだ蝶番の試作品の一部。 小田島さん:「これだと立たないよとか、すぐ外れちゃうよとか。こっちは良くてもあっちはダメみたいなことの連続でした」
▲ストッパーも様々な形状を試しました。 小泉さん:「新潟の人たちは経験が豊富。トライアンドエラーを重ねていろんなことを知っています。ストッパーについてもたくさんの事例を教えてもらって、その中からホットパンに合うものを選ぶのがデザイナーである僕の役目でした」

熱意が熱意を呼び覚ます

このままお蔵入りかーー。

そんな状況を打破したのは、小泉さんのスタッフから送られてきた1枚の写真でした。 そこには小泉さんが出張の飛行機まで試作品を持ち込み、蝶番のギミックを考えている姿が。

小泉さん:
「難しいけれど必ず解決できると思っていました。でもさぼると見つからないから自分が動かなきゃ」

その熱意に全員が心を動かされます。

久保寺:
「小泉さんが真剣に考えてくれている。ここでやめるわけにはいかない」

と再スタートを切ります。結局できあがったのは2017年5月。開発をはじめてから3年が経過していました。そして気づけば販売価格は予定の2倍以上に。これには全員が焦ります。

小田島さん:
「まずいと思いました。でも全部突き詰めていて、削れるところなんてない。コストダウンする方法がなかったんです」

久保寺:
「こんなに高くなってしまって、正直売れないと思いました」

さらなる挑戦へ

しかし販売を開始するとじわじわと口コミで広まり、今では月1,000個を生産しても供給が間に合わないほどに。目下の課題は生産数の増加です。とくに時間がかかっているのがワイヤーの製造。

小田島さん:
「他のメーカーにも頼もうと考えたことがありました。でもいなかったんです。簡単そうに見えて、ここまで精度の高いワイヤーをつくれるのはエトーメッシュさんだけ。多くのお客さんに喜んでもらえている商品だからこそ、安易にパートナーを変えたくない。品質を大事にしたいんです」

と、現在の体制はそのままに、少しでも生産スピードを上げられる道を模索しています。

▲「ワイヤーは生き物」といわれるほど、難易度の高いワイヤー加工。一本ずつ異なるクセがあるので、長年の経験をもとに目で見て調整していきます。熟練の技術と手間が必要とされる仕事です。
▲実は、発売時(左)と現在(右)ではハンドルのかたちが少し変わっています。現在のものは中心部がくびれています。これは皿部にワイヤーをはめた後にハンドル部分に力をかけることで、皿部からワイヤーが外れにくくするための工夫。発売後に寄せられたお客さまの声を元に改良しました

そしてその傍ら、ホットパン第2弾の計画も動きはじめているんだとか。

伊藤さん:
「さらに難しいことになりそうです」
と頭を掻きながらも、全員の表情からワクワク感が伝わってきます。

つくり手とデザイナー、それぞれがベストを尽くして生まれたホットパン。さあ次はどんなものができるのか。楽しみにお待ちください。

【ホットパンの詳しい情報はこちらから】

▲ 2022年4月発売分から、計10レシピを掲載したレシピブックを付属しています

<取材協力>
株式会社オダジマ
株式会社エトーメッシュ
Koizumi Studio

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