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読書の秋

以前の投稿にも書きましたが、私は読書が得意な方ではないのです。学生の頃は、一冊の本を数回(数日)に分けて読むということがなぜか出来なくて(今思うと本当に不思議なんだけど)、一度に読んでいた。一度に読む面倒臭さ、周りに読書好きがいなかったのもあるし、小説に面白みを感じることができなかったのもあり、小説以外の色んな分野の本があることを知らなかったこともあり、そんな言い訳のオンパレードで、本当にたまにしか本を読まなかった。

社会人になり数年後、英語の自主勉強の一環で英語で本を読み始めた。最初は読みやすい恋愛小説から。その内、社会派小説や、「David and Goliath」や「Sapiens」などの社会学系の本を読み出して、本読むことの面白さを実感した。人生の中で出会って話をする人の数なんて大した数ではない、私の場合。なので出会った人から得る話や知識なども限られている。だからこそ、私の限られた出会いの中では得ることはない知識や他の人達の話を得られる読書は、私にとって大事だ。

そんな先日本屋さんに寄ったとき、一冊の本に目が止まった。
「Vi er det liv vi lever -En fortælling om skæbnen- 」Svend Brinkmann著
日本語に訳すセンスが全くないので、あえて英語に直訳すると「We are the life we are living -A talk about the fate-」という感じなのかな。(ネタバレありますので、もし読む方がいらっしゃいましたら、ここで閉じることをオススメします)

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この著者は心理学の大学教授であり、ラジオのパーソナリティーもしている。それが私の好きなラジオ番組の一つでもある。毎週テーマに沿ってその道の専門家を呼んで話を聞く、というもので、テーマは色々。子どもとデジタル社会との付き合い方だったり、言論の自由だったり、前回は環境問題についてだった。毎回のテーマが面白いものばかりだし、この人の明快な話し方(遠回しな言い方や要点が不明瞭ではなく)も好きな理由の一つ。彼は既に何冊か本を出しているらしいが、今回はその読者の1人である90歳の女性との対話を元にした本ということで、「Hillbilly Elegy (J.D. Vance著)」や「 Born a crime (Trevor Noah著)」のようなeye-opening的なものを期待して買ってみた。(ちなみに、この2冊はオススメです。結構古い出版になりますが、、。自分とは全く異なる環境で育った人達の価値観や考え方を知るいい機会になりました。いや、世の中には色んな価値観があるというのは知っていたけども、実際にその人達の人生を本一冊分通して実例を知れたのはとても良い刺激になった。)

この女性の90年に渡る人生は確かに興味深いものだったし、成人して結婚後、自分はこのままではダメだと気づき、学校に通い直して、本を沢山読み、自分で小説や詩を書き、自己成長を欠かさず、定年まで働き続け、他人に出来るだけ頼らず自立し続ける姿勢はすごいなと思う。ただ、本のおおよそ半分は彼女の話で、残りは著者の分析。彼はいろんな人の言葉や理論を引用して、彼女の行動だったり心理状態を解釈説明する。でもこの説明が抽象的で本当に難しかった。心理学勉強してる人、本当にすごいなと思った。ソクラテスだったりキアケゴーだったり色んな人の引用が出てくるけど、実例を出して説明してもらえますか?って何度も心の中で呟いた(ちなみに、「人生は後ろ向きにしか理解できないが、前を向いてしか生きられない」と言ったのはキアケゴー(Søren Kierkegaard)ではなく、キアケゴーの人生を書いたPeter Thielstの解釈らしい)。例えば、彼らが「空は青い」と言ったとして、青には実際には色んな青色がある。どの青色を指しているのか、ぐるぐる考えて、きっとこの青だ!と思ったとしても、それが果たして彼らが意味した青色と同じなのかは、全然不確か。その不確かから来るスッキリしない感じが、本を読んだ後に残った。心理学には元々興味はあったけど、たったこれだけで、この学問に足を入れてみようという気が失せた。

現代では、幅の広い選択に、選択の自由があり、「何事も可能だ、目指せば何ににもなれる」というメッセージが溢れる中、もし達成できなければ自己責任(努力が足りなかった、選択を誤った自分が悪い、など)になり、全ては自分次第という風潮があるが、著者はそれに疑問を抱く。なぜなら、人生には自分でコントロールできない部分がある。だから人は、全ての自分の行動に責任があるわけではない。それを宿命とするならば、私たちは、それを受け入れることも必要なはずだ。

そんなことを女性の人生を例にとりながら、伝えていたと思うが、まあ確かにそうだなと思った。が、特にそれ自体は新しい考えでもなく、、で読了してしまった。この著者、沢山本を読んで、彼らの理論を噛み砕いて、それを元に自分で一般の人でも分かりやすい解釈を作って、さすが教授だなと思った。ただやっぱりというか、理論は理論、実際の人の人生なんて人それぞれで、理論という型に一律にははまりにくいかなと。所々、いい文章があるけれど、私にはちょっと響かなかったかも。

おまけ:
彼のラジオの中で、以前この本のことをちょっと話す回があったんだけど、番組の助手的な役割の人が「この宿命(fate)というテーマ、めっちゃつまんないですよね。なんでこんなテーマ選んだんですか?」と突っ込んでて面白かった。

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