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あなたのすべてに感染したい 映画『アンチヴァイラル』の美しさとは

youtubeで映画の予告編を観るのが趣味なんだけど、気になったものは借りて観るのが楽しい。

もちろん個人的に「あーハズレだな」って思うものがあれば「何これめっちゃ好き」っていう超マイナーな映画だけど当たりな作品もある。

その中でも誰にも教えられないし教えたくない映画がこちらだぁ。(矛盾)

アンチヴァイラル(2012)

あらすじ

近未来、セレブの感染したウイルスを抽出して自らの体内に投与したり、セレブの細胞を使った培養肉が売買されるなどの技術が発展した時代。
そんな熱狂的なファンが通う「ルーカス・クリニック」に勤めるのは注射技師のシド。客に合ったウイルスを投与する彼にも崇拝する女優、ハンナがいた。
また彼は違法にウイルスを闇取引する中、ハンナと同じウイルスを自分に投与した事でおかしな病を発症してしまう。
それを機に何者かに追われ囚わるシドが行き着く真実とは。

監督:ブランドン・クローネンバーグ
シド:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
ハンナ:サラ・ガドン

じゃあ簡単にあらすじ紹介もしたし、ここからはほぼ全く話の内容に触れないことを書く。

まず予告編を観た時点で「は?」って思われると思うけど、ここではそれでいいです。

内容云々じゃなくて私が書きたいのは、この映画が「手元に飾って置いていたい美術作品」ということだけ。


ケイレブ・ランドリー・ジョーンズという存在

主人公役。驚く人もいるかもしれないけれど、彼は『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』のバンシー役なんです。口から振動波出す子。
近年だと『ゲット・アウト』でヤバいお兄ちゃん役を演じるなど、有名作品にちょこちょこ出ている。

私はバンシー役で彼を知ったんだけど、別にそれきりだった。そんな彼と再会(?)したのはyoutubeで見た『アンチヴァイラル』の予告編だった。

なっ、なんなんだこの人は

バンシーを演じた彼とは思えないその病弱な役作り。
ケイレブ自身が長身で、色白で、そばかすだらけの体の、その異様な雰囲気が『アンチヴァイラル』で映えまくっていたのだ。

TSUTAYA限定でレンタルできると知り私は20歳の秋、初鑑賞を遂げた。

おったまげた

『アンチヴァイラル』自体の感想だと、近未来SFサイバーパンク・ミステリーと謳っていることもあって設定は面白いと思った。
だけどちょっと展開に盛り上がりが欠けるかな、という部分もある。映画館で観たら眠くなるやつ。
ラストはラストで「まぁシド自身が幸せならいいんじゃね」って感じでした。

そこじゃない!!
ケイレブってのはなんなんだ、って印象しかほぼ残っていない。
劇中の彼は体温計を咥え、ぼんやりとどこか見つめているようで何も見据えていないその表情。綺麗。

本当に「この人は病気なんじゃないか」と錯覚しそうなくらい。

わざと風邪でも引かせてから撮影したのか?と思うほどだけど、インタビューによると背中に氷を入れて撮影をしていたらしい。
とにかくこの「病的な役作り」ってのが最高に彼はやり遂げていると思う。

あとケイレブの声も独特で、こう繊細な声質がより味を出していると思う。ボソボソって話す感じが良き。

ちなみにこの映画に出るために監督を追いかけて猛アピールしたらしい。
観た後だとむしろこれはあんたにしかできんわってなる。拍手!

本当に凄い俳優なので他の作品も観てみてください。 


取り憑かれるような「美しさ」と「気持ち悪さ」

むしろこの映画だと「気持ちが悪い」って不快なイメージを持つのが褒め言葉なんだと思う。

有名女優とかアーティストたちセレブへの異常な信仰心を風刺した映画でもあると思うけど、この「気持ち悪さ」と「美しさ」の融合がクセになる作品でもある。

それをシドとハンナで対立させているように感じる。

まずこの映画の「美しさ」の部分。
サラ・ガドンが演じるハンナは、まるで絵に描いたような美しい女性。金髪に青い目、色白の肌に映える赤い唇。

この映画のハンナはほぼベッドに横たわっているシーンばかり。病気のせいでいつ死ぬかわからないような状態。
ハンナの病弱さは「美しさ」を演出していて、艶めかしさというべきなのか、神秘的なものを感じる。

「気持ち悪さ」の部分となると、ケイレブが演じるシドがそれに当たると思う。
シドはハンナと同じ奇病を患いながらも何者かに追われつつ生き長らえている。
背は曲がり、血を吐き流し、ぐったりと倒れこむ。

シドの病弱さについては劇中に「なにそれ気持ち悪い」っていう演出が沢山あって、例えば鼻に長い棒を突っ込むとか、幻覚を見るシーンとか、自らウイルスを投与しているシーンとか、それはもう目を塞ぎたくなるものばかり。

この不快さを視聴者に与えるところが「狙っている」感あるけれどそれを楽しむ映画なんだと思っている。勝手に。
またこれがハンナと対比していて上手い。

『アンチヴァイラル』という映画の最強の魅力はそこにあるんではないかと思う。ストーリーの出来よりもずっと。
内容が薄っぺらいとかそういうわけではないけれど、私が惹かれたのはこの「気持ち悪さの中にある美しさ」だった。

映画を観ているとやっぱりストーリーを汲み取ろうとするから一生懸命理解しようとするじゃん?だけど容赦なくそういったシーンがくるから集中できない→うーん、キモ美しい!本当これ。


飾っていたい映画

冒頭で『内容云々じゃなくて私が書きたいのは、この映画が「手元に飾って置いていたい美術作品」ということだけ。』という風に語ったけど、結論はこれ。

これはストーリー設定もわくわくするもので良いんだけど…内容に優っているのが病気的な美しさだから、私はそっちを重視してオススメしたい。

グロくもエロくもないんだけど、ただ「気持ち悪い」ってだけ。だけどご飯が食べられなくなるような気持ち悪さではない。
なんだろう、生理的な気持ち悪さ?
私はプールサイドに落ちて貼り付いている絆創膏が気持ち悪くて怖いんだけど、アレに感覚似てる。共感されるかはともかく。
結局どっちなの?って思われるかもしれないけれど、この映画はそれが美しいってこと。

前回の真面目に語った記事とはかけ離れたものを書き綴ったけど、誰にでもこんな感覚あると思う。私はこの映画がそうだった。

『アンチヴァイラル』はとある有名映画監督の息子がメガホンを取った作品で、それはそれで注目はあった。

だけど誰にでもオススメできるかと言われればそうじゃないのが本音。だから誰にも教えたくない。教えられない。

でもきっとこの映画に惹かれる人はいると思う。私は完全にビジュアルメインだけど。たまにはそうやって映画観るのもいいじゃない。

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