真夜中のオフィス街
夜が深くなったオフィス街。
昼間は喧騒にまみれる街並みも、たちまち人がいなくなれば、まるでゴーストタウンのような風情を醸し出す。
残業はあまりしないタイプだが、それでもどうしようもなく仕事に追われ、終電近くまでパソコンのキーボードを叩いている日もある。
無機質な蛍光灯のもと、朝から頭をフル回転させ額に汗をにじませていたら、とっぷり日は暮れていて空腹も疲労も忘れている。一区切りついて、自分の身体の状態に気づいてようやく省エネモードに切り替えるのだ。
会社を出れば夜の風が頬を撫でる。背の高い街灯が等間隔に並んでいる道。その光に照らされながら、ゆっくりといつもの道中を歩き出す。
そんな夜の密かな楽しみが、帰り道で缶コーヒーを飲みながら歩くこと。小気味いいプシュッという音とともにほろ苦い匂いを漂わせ、独りでに自分を労う。
大人になって久しいが、怒られることはあっても褒められることはめっきり減ってしまった。子どもの頃はテストで高得点を取ったり運動会で一等賞になったら周りの大人たちは褒めてくれていたなあ、と今でも時々思い出したりする。
だからこそ、今は自身でポジティブな言葉をかけるほかない。社会に出て、目に見える成果を出すことがどれほど難しいことか、毎日直面しながら生きてきた。他人と比べてしまうと自らの欠点ばかり目につくからしないようにしているが、自分の心に薪をくべる作業だけは定期的にするようにしている。もう長いこと継続してきたのだから、きっと僕にはそんな時間が必要なのだろう。
缶コーヒーも底をつくと、空き缶片手に星の見えない夜空を見上げる。
どんどん加速しているように感じる毎日に、ちゃんと納得しながら前進し続けられるだろうか。
どうしようもない不安を抱えつつも、心の中心にあった夢や憧れが少しずつモデルチェンジしてきたように、今では想像もつかない自分に将来なっているかもしれないと考える。そんな淡い期待をしていれば、曇りがかった夜空でも、いつか仄かな光を見つけ出すことができるから。
最寄り駅はもうすぐだ。前方には少々くたびれた背中や、若々しい学生、顔を赤らめた飲み会帰りの人たちがそれぞれのペースで改札を通り過ぎていく。
挨拶は交わさないが、心の中で「お疲れ様」と声をかけながら僕も同じ改札をくぐり帰路に就く。
帰り道のほんの数分しか過ごさない真夜中のオフィス街には、誰の目にも触れない僕だけの足跡が静かに眠っている。
皆さんから大事な大事なサポートをいただけた日にゃ、夜通し踊り狂ってしまいます🕺(冗談です。大切に文筆業に活かしたいと思います)