2022年の星々

Twitter上で毎月異なるお題で140字小説コンテストを開催している星々。

小説家のほしおさなえさんが審査員に名を連ねていて、最近では応募作も急増している人気ぶり！その活動はコンテストだけに留まらず、雑誌の発行やワークショップ開催など多岐に渡っている。

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140字という限られた短い文字数で様々な物語を紡ぐスタイルが支持されている140字小説。

そんな“140字小説コンテスト”の代名詞でもある星々の2022年お題を使わせていただいて、このたび合計11作(4月のみ未開催)を書いてみた。

過去の歴代受賞作を読んでみると、140字という限られた文字数とお題の漢字を必ず1度は使わなければならないという縛りがあるにもかかわらず、どれも秀作ばかりで、ちょっと絶望しかけたのである。こんなにすごい人たちがたくさんいたら、僕が受賞できるのは何百年後になるのだろう……といった具合に。

でも、諦めるわけにはいかないのだ。書かずして負けたくない。物書きの端くれたるもの、やる時はやるのだ！日常生活では勇ましさなど微塵も感じないこの僕だが、今回ばかりは情熱を燃やして、時には頭を抱えながら140字に想いをぎゅっと詰め込んでみた。

ちょっと前置きが長くなってしまった。
一応最後に付け加えておくと、今回使わせていただいたのは昨年のお題のため、もちろん応募期間は終了している。だけれど、「昔はよく140字小説を書いていたなあ」なんてノスタルジックな気持ちに浸りながら久々に書いてみたのである。分量を問わず、やっぱり物語を考えるのは楽しいなと改めて再確認できたのだ。

☆1月の星々お題「結」
 うち、蝶々結びできないねん。小さい頃から不器用で得意なことなんかあらへん。もういい大人なのだから自分で勉強せなあかんで、って言われるけどどうしてもやる気にならへんの。えっ？お前、埼玉出身東京育ちだろって？やめてよ、恥ずかしい。何が恥ずかしいのって？蝶々結びからのくだり、全部だよ。

☆2月の星々お題「並」
Hey！タクシー！君はいつもそう言ってタクシーを拾う。乗り場が混雑している時には少し離れた所で悠然と手を挙げている。惚れ惚れするわぁ。嫌みで言ったはずなのに、月並みな行為は人を下げるでなと君は酒を呷り豪語する。それでも僕には、下戸な君が酔い潰れ介抱される姿がとても人間らしく映った。

☆3月の星々お題「解」
苦節20年、といってもまだその真っ只中だが今まで楽しかった。ろくに働きもせず来る日も来る日も漫才の稽古をした。でも一向に芽は出ない。今度の大会で駄目なら解散しようと相方は呟いた。今、俺達はその大会の決勝で喋っている。すぱっと諦めさせてくれよ。相方はまんざらでもない表情でそう言った。

※4月の星々は未開催

☆5月の星々お題「歩」
昔からニワトリというあだ名だった。3歩歩いたら何でも忘れてしまうかららしい。つまり、馬鹿にされているのだ！確かに僕の記憶力は覚束ない。でも、それを蔑むのはどうかしてる！それにニワトリにも失礼じゃないか！この怒りは未だに忘れちゃいないぞ！…って、そもそもなんでこの話になったんだ？

☆6月の星々お題「流」
仕事の帰り道に通る公園。地元から出たことのない私は子どもの頃よくここのブランコに乗っていた。友達と靴を飛ばしたり恋破れた夜には静かにその身を預けたりして。久々にブランコに揺られてみる。みんな元気かな。あ！と思った瞬間には流れ星は姿を消していた。今の私は何を願っていたんだろうな。

☆7月の星々お題「放」
試合は同点のまま延長までもつれた。ツーアウトの場面で国民の期待を一身に背負い彼が打席に立つ。ジリジリとした緊張感が伝わってくる。試合後、彼は言った。小さな積み重ねこそとんでもない場所へ行くための唯一の道だと。そして、彼が捉えたボールは熱狂的な歓声と共にセンター前へ放物線を描いた。

☆8月の星々お題「遊」
初デートの日、彼女は来なかった。LINE聞いてもやってないし携帯も持ってないって。そんな訳あらへん！お前遊ばれてたんや！大阪出身の友人がツッコむ。何ニヤニヤしてんねん。いや、お前と話してる時が一番楽しいなと思って。何やねん、気色悪い。実はお前と漫才やりたいんだ。俺もてあそばれとる？

☆9月の星々お題「実」
ここだけの話だけど。みんな知らないけど実は。なんてドキドキする枕詞だろう。何何？早く教えて！となる聞き手をよそに、次の言葉を躊躇う語り手。少しずつ高まる高揚感。これこそが会話の醍醐味！だから僕も使ってみたい。実は君のことが好きなんだ。なんだごめんなさい。あっけなく散り阿鼻叫喚。

☆10月の星々お題「着」
どうしてだろう。親が勝手に決めた相手なのに、最初は一緒に暮らすことすら嫌だったのに、今は不思議と愛着が湧いているの。私の作った手料理をいつも嬉しそうに食べてくれるし、休日のお出かけも本当に楽しいのよ。今までありがとう。そして、これからもよろしくね、ポチ。（いや、犬のことかい！）

☆11月の星々お題「保」
つまり僕は君にとっての保険だったわけだ。浮気の証拠を握りしめ彼女に言った。確かに彼女はとびきり美人。何もしなくても男は群がってくる。でも、だからといって浮気していい訳じゃないだろ！迫真の表情で彼女を追い詰める。何の練習？将来浮気された時の練習さ！お前そもそも彼女いたことないやろ。

☆12月の星々お題「調」
まだまだ生きるつもりだけど一応言っておくね。何を？今までありがと。唐突だし調子狂うな！沢山迷惑もかけたね。大変だったよ！喧嘩した日もあったけど大体楽しかったよ。全部って言えよ！でも、1つだけ心残りがあるな。聞いてやるよ。約束。約束？したじゃん。何だっけ？この前の1万返せー！わー！