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小説

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これまでに書いた小説を置いてあります。おもしろいよ! R18のBL作品は下記URLへ。すこしエッチだよ! novel18.syosetu.com/n2252hc
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#短編小説

小説|視える

 瀧(たき)が、わたしの目の前で心臓と呼吸を止めてしまった後のことだ。のこのこやって来た医者が、瀧の右目を太い指で押し開けた。瞳をペンライトで照らし、芝居がかった口調で「お亡くなりです」と告げた。真夜中に近い病院の個室は蛍光灯が光っているのに薄暗く、瀧の眼を刺す光線がわたしの眼にも染みるほどだった。  死亡を伝えた後も、医者は三十秒くらい瀧の瞳を探っていたから息を詰めてその様子を見守った。本当はまだ、死んでないのかもしれない。  小さな祈りはペンライトの光と共に消えた。瀧の瞳

小説|ライカの啼く夜(未完)

 冬枯れの梢を掠め落ちた月明の照らす顔面には青みがかった白目と黒い瞳が目立つ。その少女のような少年が言うには、ここを静箕(しずみ)と呼ぶらしい。なら目的の集落に違いないが、俺の立つ場所からは人家の明かりがまるで見えない。 「死にに来たの? おじさん」 「お兄さん」 「殺されたいのかな、おじさん(・・・・)」と、あどけない声に薄く大人の男を滲ませた声色で笑われた。顔に似合わず、感じの悪い子供(がき)である。  細くうねる山中の道だ。ぐぅと根本の曲がった樹々の向こうから、水音が冴