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瀧(たき)が、わたしの目の前で心臓と呼吸を止めてしまった後のことだ。のこのこやって来た医者が、瀧の右目を太い指で押し開けた。瞳をペンライトで照らし、芝居がかった口調で「お亡くなりです」と告げた。真夜中に近い病院の個室は蛍光灯が光っているのに薄暗く、瀧の眼を刺す光線がわたしの眼にも染みるほどだった。 死亡を伝えた後も、医者は三十秒くらい瀧の瞳を探っていたから息を詰めてその様子を見守った。本当はまだ、死んでないのかもしれない。 小さな祈りはペンライトの光と共に消えた。瀧の瞳