フォローしませんか?
シェア
1 桃太郎が、真昼の陽光差し込むリビングで、ソファに腰掛けテレビを観ている。 「桃太郎さん、桃太郎さん。目の前にあるそのテレビ、何をしてるかわかります?」 カウンターキッチンから歌うように声をかけると、桃太郎は黙ったまま頭を横に傾けた。テレビに映っているのはバラエティ番組だ。若者相手に昭和生まれの司会者が、昭和の人々のファッションや暮らしぶりを「ほら、古臭いでしょ?」と自虐めいた笑いと共に紹介している。そのテレビに真正面から向き合う愚直なまでにぴんと伸びた背を見つつ、
一 心を奪われると終わる。 だから私は息を詰めて生きていました。 黒い壁とガラス製のパーティションで区切られた役員室の天井には、橙色の間接照明が灯っている。部屋の中央には飾り気はないがデザイン性の高い大きなデスクが一台。そのデスクに向かう岸 侑李(きし ゆうり)は、マホガニーの天板に置いた右手の爪先を見ていた。いつもと同じように磨かれ、薄色のジェルネイルが塗られた爪が明かりを反射している。親指の付け根に浮いた甘皮を人差し指で擦りながら裏返すと、爪の間の垢に気付いた