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遺品整理の仕事【21回目】

2022年6月27日(月)

8時半ごろ出勤。

立花さんとバイトリーダーが遅刻していて、なんとなく優越感に浸れるため嬉しかった。

たまに出勤が被る茶髪の男の人がいたので「この仕事辞めるんです」と伝えた。

結構寂しがってくれたのだが、それが本心なのか分からず微妙な反応をしてしまう。

トラックの運転席に乗り込み、立花さんを待っていると、今日は1人でトラックに乗る日だということに5分ほどしてから気づいた。

焦って出発する。

でも1人でトラックを運転するのは最高だった。

現場に到着しそうになったところで、変な細い道に入ってしまった。

今日の施工現場のマンションは見えているが、まったく違う道だった。

管理人なのかよく分からないおじさんに「この道は違うよ」と言われる。

茶髪の男の人に場所を伝えて誘導してもらった。

到着して立花さんを見ると、立花さんは社員の作業着を着ていた。

いままでのピチピチの作業着ではない、社員のブカブカの作業着があまり似合っていなかった。


<1件目>

施設へ引っ越す方の施工で、荷物は4トン。部屋は2LDKほどの広さ。

荷物を運び出す担当と、荷物を引越し先に持っていく担当に分かれる。

わたしは運び出しの担当だった。

白い壁に、優しい木目調の建具の落ち着いた部屋。

施設に引っ越すのは80歳くらいの女の人で、その娘さんが作業の指示を出してくれる。

途中トイレに行きたくなったわたしに、片付けていたスリッパを取り出して部屋のトイレを貸してくれた。

施工をしながら目をやると、キッチンと洋室の境目の壁に、横8センチ、縦10センチほどのメモが貼ってあることに気づく。

見ると、それはおそらく娘さんが書いたメモだった。

「自殺をしてはダメです」

「自殺しなくてももうすぐ死ぬ歳です」

「自殺をするのは神の意向に逆らう殺人です」

と、自殺は悪であるという内容がびっしり書き込まれていた。

これだと余計に自殺したくなるんじゃないかと思ったが、結局死ねずに施設に行くんだなあと思った。

もしかしたら施設への入所は自殺防止の目的もあるのかもしれない。

12時40分ごろ作業終了。

不要な荷物を倉庫に持っていくと、パッカー車(ゴミ収集車)がいたのでそのまま巻きとってもらう。

しかも今日のパッカー車は、ほっしゃんさんが担当だったのでなんでも巻きとってくれた。

巻きとった物の破片が周囲に飛び散る。

お昼休憩はなか卯に行った。

茶髪の男の人の真似をして、うな重と、とろろを頼む。

次は16時から1.5トンの施工だったので、かなり余裕があった。

はずなのだが、15時から5トンの施工があると言われる。

冗談だろうと思って聞いていたがそうではなく、社長がスケジュールに入れるのを忘れていたらしい。

うな重と、とろろを持って現場に向かい、現場に到着してから急いで食べる。

16時からの施工もあるため、立花さんと茶髪の男の人はそちらに向かって、わたしとバイトリーダーが15時からの現場に残った。


<2件目>

1部屋が狭めの、3LDKの一軒家だった。

家の大きさが心地よくて、この広さの一軒家に1人か2人で住みたいなと思った。

この家の人は老人ホームに入るため、ほとんどの荷物を処分することになったらしい。

荷物は結構まとまっていて、量も多すぎることはなかった。

だが部屋は汚れていて、全体的に黒ずみ、ほこり、すす、汚れのこびりつき、米粒、その他食べ物のカス、ゴキブリホイホイがいくつも出てきた。

しばらくするとパッカー車(ゴミ収集車)が来た。

今回のパッカー車の担当は、前髪長めの茶髪で、ちょっとぽっちゃりしていて、LINEの登録名を「マッチョ」にしている人だった。

マッチョさんは気さくにいろいろ話しかけてくれる。

「パッカー車で怪我したことないんですか?」と聞いてみると「めっちゃ汗出てるなーと思ったら腕にガラスの破片が刺さってた」とか「パッカー車に物を押し込んだら押し返されて手首の骨が折れた」と言っていた。

「体動かす仕事は好きなん?」と聞かれ

「運動音痴なのでそうとは言えないです」と言うと

「そうやんな。突っ込んでいいんか分からんかったわ」と言われる。

マッチョさんは「ネイルの仕事はどう?」とか「事務仕事って給料安いよね」とか言っていた。

マッチョさんが行う仕事は本来、こちらが渡した物をパッカー車へ入れたり仕分けたりすることなのだが、あまりの運動音痴を見かねたのか施工を手伝ってくれた。

それに、入所する老人ホームを斡旋した男の人まで施工を手伝ってくれた。

17時半ごろに、立花さんと茶髪の男の人が、16時からの施工を終えて戻ってきた。

しばらくすると、立花さんやバイトリーダーが、2階に置いてある物をベランダから投げ落としだした。

何の音かと思うくらい大きな衝撃音が響き渡る。

すると隣の家の人がベランダから出てきて「ちょっと!!ここボロ屋やねんから止めてくれる?!!」と叫んだ。

そしてすぐに申し訳なさそうな顔をして「ごめんね」と言った。

注意をして反撃をされる恐れを考慮したのかもしれない。

こちらがした不手際に気を使わせてしまって申し訳ないと思った。

2階のベランダには洗濯機が置いてあり、その洗濯機は1階の通路を通れない大きさだった。

もうベランダから投げ落とすことはできないので、なんとか協力して、洗濯機を投げずに下ろすことになった。

立花さんはベランダに立ち、洗濯機を持ち上げて、そのままベランダの柵を超えた。

この人はなんて運動神経が良いのだろうと衝撃を受けた。

ベランダの少し下くらいにバイトリーダーがスタンバイして洗濯機を受け取り、そのさらに下に茶髪の男の人や、マッチョさんがいて、みんなで支え合いながら洗濯機を無事に下ろしきったので、なんだか感動してしまった。

わたしはただ見ていた。

そのあとキッチン掃除をする。

こびりついた汚れを落とすためにマジックリンを使用したが、今回はマジックリンを吸い込みすぎないように注意した。

キッチン掃除を終えて風呂場に向かう。

風呂場は家の奥の方にあり、風呂釜の上に、すすや、汚れきったビニールや、プラスチック、棒などがあった。それらが汚れて茶ばんでおり、水気を帯びていた。

取り出すと、茶色のドロドロした液体が広がった。

その様子が『千と千尋の神隠し』のオクサレ様のようだった。

片付けて清掃をして施工終了。

帰りのトラックも1人だったので最高だった。

トラックが吐き出すキンキンの冷房と、窓を開けて入ってくるぬるい風が心地よくて、死ぬときはこの風を浴びたいと思った。

事務所に戻り、事務スペースに入ると、社員になった立花さんも事務スペースに入ってきて新鮮だった。

21時ごろ退勤。

サポートしてもらえたらうれしすぎてヒョーー!!ダンスダンス!!!🕺🕺🏻🕺🏼 そのあとはサポートしてもらった画面をスクショして何回もニヤニヤします。