見出し画像

遺品整理の仕事【16回目】

2022年6月20日(月)

出勤時間不明
おそらく8時半ごろ。

昨日の出来事を引きずっており、社員の藤田はまだ機嫌が悪い。わたしも可愛げがないのでテンション低く接する。

今日は2チームに分かれた。社員の藤田とバイトリーダーの2人と、わたしとカー坊さんの2人。

施行の用意をして出発する。

カー坊さんは、昨日あれから21時までの1時間ほど「面白い話しをしろ」と詰められていたらしい。

「遅くまで拘束されて迷惑。やることいっぱいあるのに。洗い物とか、ハムスターの世話とか」とカー坊さんが助手席でぼやいていた。

<1件目>

1.5トンの施行だった。

物の重さ自体も少ないし、綺麗に物をまとめてくれていて、さらに持っていくものには付箋を貼ってくれていたので、かなりスムーズに終わった。

依頼主は可愛らしい女性で、今回引き取ったものは婚礼道具だった。
「主人が亡くなったから必要が無くなった」と言っていた。

トラックに戻り、カー坊さんから「仕事続きそうですか?」と聞かれた。
それを皮切りにいろいろな話しをしてくれた。
「施行内容についての説明が雑い」「次どうすればいいかが分からない」「社長に人間性がぺらいと言われた」「ここは内輪ノリの陽キャが多くて輪に入りにくい」などの話しに同意をしながら話しをする。

カー坊さんは自己肯定感が低いのか、遠慮する人なのか、コメントに困っているのか、私がカー坊さんの良いところを言うと、やりすぎなくらいへりくだる。なんだか大変そうだなと思った。

カー坊さんが話題を変える。

「というか、この前の施行なんですけど、社長いるときに遺品整理してたら家から600万円出てきたんですよ。遺族には300万円見つけました!って渡して、残りの300万円は社長が自分の懐に入れてましたよ」

「えーーーー!」とひとしきり驚いたが、たしかに社長はやりそうだと思った。

いままでも、遺品から出てきた金目のものは遺族に見られないようすぐさま車に押し込んで確保していたし、遺族の方から着物の査定を依頼されたときは、2,000円の査定額をピンハネし、半分の1,000円を自分の懐に入れているような人だ。

むしろ300万円もよく渡した方かもしれない。
人の良さそうな顔を作って「見つけましたよ!」と遺族の方に300万円を渡す様が目に浮かぶ。

1件目の施行は順調に終わったものの、次の施行現場まで意外と時間がかかり、お昼ご飯を食べる余裕がなかった。

<2件目>

2件目は介護施設から介護施設への引越しだった。
便利な場所への移動になるという理由での引越しなのか、介護施設の費用が安くなるのか、理由は分からない。
生活保護受給の方の引越しだった。

今回は1トンの施行。

介護施設に着くと、バイトリーダーがいた。
3人で1トンなら、かなり早く施行が終わるなと思っていると、社員の藤田が来て「借りていくわ」と言い、バイトリーダーが連れて行かれた。

結局またカー坊さんと2人での施行になった。

どちらにしろ1トンでかなり物量が少なかったので早く終わった。

依頼主本人はいなかったので、荷物を移して、介護施設の方にあいさつをして、そのまま終了。

なか卯でカー坊さんとわたしのどちらも海鮮丼セットを買い、事務所に戻った。

同じ海鮮丼を食べながら、カー坊さんは「陽キャってなんであんなに仕事できるんですかね?」と陽キャへの劣等感を募らせていた。

とは言うもののカー坊さんは一生懸命で仕事ができるので「あんたも仕事できてるよ」と言おうかと思ったが、また変にへりくだられるのが面倒くさくて言うのをやめた。

なか卯の海鮮丼セットを食べ終わると、カー坊さんは一生懸命事務所を掃除していた。

私は請求書関連ですることがあったので、事務スペースに入った。

すると唯一いる事務の女の人に声をかけられた。
施行時間と事務の方の勤務時間が合わず、ちゃんと話しをするのは初めてだった。

「ここ、思ってたのと同じやった?」と聞かれる。

またそれを皮切りに話しが続く。
「ここほんと説明足りないよね!」「わたしストレスで痩せたのよ!」

お互いこの遺品整理の求人を深夜に見つけ、深夜テンションのまま応募したことが同じだったので更に盛り上がる。

「前任者の人だって2回一緒に入って、そのまま辞めちゃったのよ」「しかも前任者のときと仕様が変わってね、もう前任者の人に聞いても分からないの」「社長に聞いても仕様が変わったのに履歴見ろって言われるし、マニュアルもないのよ!」「拘束時間長いし、時給換算したらここの給料安いよね」「けど『時給の働きしてな!』とかは言うてくるの!」と話しが立て続けだった。

事務の女の人も、わたしも、同じような鬱憤が溜まっていたため大いに盛り上がってしまい、話しが続く。

「いつもこの金額のボーダー超えたら請求するっていう項目があるんだけど、イレギュラーで無くなったのにそれも教えてくれないの!」「それをわたしのせいにされて『確認してないですよね?言い訳しないでください』って言うの。いつもと同じようにしただけなのに、そのイレギュラーは社長が伝えることじゃない?!」

「それでね!わたし辞める話しは何度もしたのよ!普段キツイのに、辞める話しになったら『最初っから高いレベル求めてないからね。もうちょっと頑張ろう!』とか言ってくるのよ」

「ここ家族経営でしょ。教育もちゃんとしてくれないし。わたしたち捨て駒だと思われてるわよ」

本当にそうだろうなと思った。
家族間のなあなあな雰囲気や家族と接する意識を、家族ではない従業員に対しても使用し、使えるところまで使う。
人が辞めれば、すぐ補充できる人員を社長は人の良さそうな顔で誘うのだ。
身体を動かすことができれば誰でもできる仕事だから。

「前に履歴書見たんだけどね、ここは本当にすごく人が入れ替わってるよ」
「この前、東北から来た正社員の男の子がいるんだけどね、1日だけ姿を見て、それ以降見てないよ」

「いま、どんどん施行の終了時間も遅くなってる。前より忙しくなってるよ。逃げれるなら早めに逃げたほうがいい」

今日は社長から早く帰れると聞いていたのに、定時の17時を過ぎても連絡はなく、18時をすぎて退勤の許可が出た。
いつもスマホに張りついているくせに、こういうときには返事がない。

今日、事務の女の人から話しを聞いて、わたしの社用携帯に登録された名前が「関西②」であることを改めて理解した。
いままで何人もが「関西②」になってきたからだ。


2022年6月21日(火)

休み。
社長に今月末で辞めることを伝える。

辞めたいとは思っていたが、昨日で「もういいや」という思いが強まった。

このとき鷹野さんと家からそれなりに近い寿司屋に来ていて、寿司屋の待ち時間にLINEで社長に退職の意志を伝えた。

辞めたいというのにLINEを使うなんて、という気もするが、社長にはあまり会えないし、電話をするのは怖いし、とにかく早く退職の意思を伝えたかった。

入社してから、社長が自分の名字を一通送ってきただけのLINEに、退職の意志を伝えるため連絡する。

いま見ると、自分の文章が少し面白い。

お疲れ様です。入社後より勤務を続けてまいりましたが、体力的にもしんどく、また私に求められている働きができておりませんので今月末で退職したく存じます。


その後来た社長の返答。

お疲れ様!色々と考えてるんやね。了解です。とりあえず、一度、話できるかな?

サポートしてもらえたらうれしすぎてヒョーー!!ダンスダンス!!!🕺🕺🏻🕺🏼 そのあとはサポートしてもらった画面をスクショして何回もニヤニヤします。