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10月1日は「日本酒の日」でした。
日本酒、特に純米系が好きな私は、毎年のように新米の出来栄えが気になり、お米も作物もおいしく実ってほしいと願います。

そんな私が憂慮しているのは、肥料の問題。
土に栄養を与えて作物の生育を助け、できる限り多く収穫できるようになってほしい、という思いの下に使われる肥料。有機肥料や化学肥料など様々な種類があり、土の性質や状態、作物の種類や時期に合わせて使われます。

そんな肥料が、近い将来なくなるかもしれない、という話があります。もちろん、肥料すべてがなくなるわけではなく、肥料の製造に必要な成分……というか、物質の枯渇が危惧されているのです。

リン(燐)です。

現在のマッチの先端にはリンが使われておらず、側薬(箱のこする部分)に赤リンが使われているとのこと。

リンは、マッチに使われるお馴染みの物質ですが、生命活動にも不可欠な物質であるため、肥料にもふんだんに使われております。もちろん私たちの体にも含まれており、怪談でおなじみの「ヒトダマ」は、土葬された死体から発したリンが自然発火して生じる……なんて説もあったほど。

現在、リンは鉱物としてロシア、アメリカ、モロッコ、中国などで採掘されており、それらを生成して、窒素やカリウムなどの物質とともに肥料へ加工されています。昔は安価でしたが、鉱床の枯渇や自然災害等により大幅に高騰し、その水準が今も上昇しているようです。

リン鉱石(中国雲南省産。Wikipedia日本語版より)

では、なぜ枯渇したのか。
鉱床なので、埋蔵量には限りがあるのは当然のこと。ほかにも人間の生活が昔と大きく変わったことが挙げられています。

昔読んだ論文のおぼろげな記憶をたどると、たしか……
リンを肥料として使用しはじめてから、リンの消費量はそれまでの3倍以上に跳ね上がったことに加え、リンが土へと戻らなくなったことが大きな要因とされていたはずです。

前者は20世紀型の農業によるもので、明確です。
後者は、動植物の死体が土に還らなくなった、ということです。人間は火葬によって灰となり、陶磁器の壺に収まってしまいます。動物も植物も食卓に上がるものや飾られるものは死んでも土へ還らず、ほかのごみと一緒に沿岸に埋め立てられたり、焼却処分されたりしてしまう。そのため、本来生命体と大地との間で循環するはずのリンが大地に戻らなくなっているのです。

そうしたリンの現状を報告した論文が、2009年のScientific American(日本では日経サイエンス)に掲載されました。
当時の段階では、「当面は南海のグアノを使うことを視野に……」的な話が書かれていました。「グアノ」とは、海鳥やコウモリなどの糞が堆積し、長期間をかけて鉱物化したもので、「グアノ鉱石」「グアノ鉱床」と呼ばれます。


リンを豊富に含んだグアノ鉱石(Wikipedia日本語版より)

当初は採算ベースに合わないのでは?と言われていましたが、すでにグアノ鉱床の採掘は行われており、現在は「○○国の鉱床は採掘されつくした」といわれる段階まできています。

このままいけば肥料のさらなる高騰は避けられず、もしリンが枯渇した場合は目も当てられない食糧危機に陥るかもしれません。「おいしい純米酒」という贅は夢物語となり、食糧確保で精一杯な時代になるのかも……。

ともあれ、「今日も純米酒がうまい!」と思える生活を続けられていることが本当に幸せなのだと思います。

※トップ画像はPhotoACより、naonさん撮影の画像です。

【参考資料】
・『迫り来るリン資源の危機』D. A. バッカーリ(スティーブンス工科大学)
 日経サイエンス2009年9月号

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