民間信仰と仏教

 民間信仰の中には神道の神や、九星術由来の方位神、仏教の仏などがよく登場する。今回はそのなかでも仏教、とくに仏像が民間信仰とかかわっているパターンを紹介していく。

①願事タイプ

 これは薬師や観音などが、仏教での本来の役割・ご利益とは別に、民衆側からの願い事を変えるという面から信仰されているタイプである。

②イメージタイプ

 これはその仏の名前や姿・伝説のストーリーからイメージされた加護と結びついて、信仰集団が生まれるパターンである。具体的には馬頭観音などがそうである。

馬頭観音

 馬頭観音は本来は憤怒の形相をしており、衆生の無智・煩悩を排除し、諸悪を毀壊する菩薩である。しかしながら、「馬頭」という文字から、馬の守護神として主に馬を使う職業の人々、馬借や旅人に信仰された。現在でも競馬関係者には篤く信仰されているという。

愛染明王

  愛染明王は「愛染」の字・読みから「藍染」がイメージされ、染物屋に信仰された。

聖徳太子

 聖徳太子は四天王寺や法隆寺などの巨大建築にかかわったという伝承から室町頃から太子講が作られ大工や左官などの建築業者に信仰されるようになった。

馬喰菩薩

 おしら様伝承により「馬」の字からイメージされ、養蚕業者に信仰された。

③両部神道タイプ

 これは山王や八幡などの神仏習合によるものである。

山王信仰

 山王信仰は比叡山の日吉大社でまつられる山王権現への信仰である。山王権現は比叡山の地主神であるとされる。神道と山岳信仰と天台宗の習合によるものである。八王子権現を山王信仰の一部としてみることもできる。

八幡信仰

 八幡信仰は宇佐市の宇佐八幡宮でまつられる八幡大菩薩を武家により武運の神として信仰された。応神天皇(誉田別命)であるとされ、神仏習合では本地を阿弥陀如来としている。

④修験道タイプ

 両部神道と同じように修験道で仏が礼拝対象とされたタイプである。富士講や木曽御嶽講などがこれに含まれる。

⑤庚申タイプ

 庚申・月待・日街・地神信仰などもとは仏教は無関係だったが、後に仏を本尊にしたタイプである。庚申塔では三尸の虫を押さえる力を持った金剛童子という位置づけとして青面金剛が彫られていることが多い。
 なお日待に関しては「日祀部(ひまつりべ)」に関する記述が日本書紀の敏達天皇条に書かれていたり、日吉神社で日待神事があったため、信仰の発生が民間かどうかは定かではないが、近世においては講としてある程度の流行があったことから民間信仰と言って差し支えないだろう。

⑥昇格タイプ

 妙見・三宝荒神・堅牢地神など、仏教上では脇役だったが、民間信仰では本尊となるパターンである。
 妙見は中国で北極星・北斗七星信仰と結びついたものであるため、仏教の教義では天部ということになっている。
 三宝荒神の三方とは仏教の仏・法・僧の三つである。
 堅牢地神も仏教では地天とも言って天部に属することになっている。
 他にも十一面観音を祀る淡島など神仏習合ともいえるものもある。