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短編小説 桃

突然だが私は昨日から生物の寿命が見える様になった。

この世の中高齢化というのが本当にわかる。老人の頭上に浮かんでいる数字はどれも残り少ないがいきいきとしてて元気だ。

同じく若者に浮かんでいる数字も少ないものが多い事には驚いたが酷使しているんだろう。私がアドバイスしたところで無駄な話だ。怪しまれて終わるだけだ。

さて、私は今バスを待っていて隣には老夫婦がいる。数字を見るとどちらも21、おそらく1260秒後には死ぬのであろう。今目の前の数字が20になっていた。

果たして何で死ぬのかわからないが目の前に間近の数字を見るとやるせない気持ちになる。

バスが見えてきた。

隣の数字が一桁になる。老夫婦に異変はない。

バスが来る。異様な蛇行音、運転手の目が虚だ。運転手の頭上の数字が点滅している。

老夫婦を見ると残りの数字が既に1になっている。

自分も危ないので老夫婦を残し、走る事にした。おそらく老人は轢かれるのだろう。

轟音が鳴り響き、地鳴りがした、私は思わず慌てて転んでしまった。

膝についた砂を払い、現場に振り返ると荒れ果てたバスがあり老夫婦が横たわっていた

老夫婦に近寄ると頭上の数字の1が点滅している。恐らくもう息絶えるのだろう。御夫人は最後の力で鞄から何かとりだそうとしている。

傍ら微かに動く口で何かを訴えようとしている旦那さんがいた。

最後の言葉に耳を傾ける、何かできることはないだろうか

「遅い、見えていたくせに」

その言葉に背中に寒気がどっとでた。同時に老体から温かみが引いていく、不意に後ろから声がかかる

「お前の数字、点滅してんぞ」

ご婦人の声がする、自分の頭上を見ると青々とした雲ひとつない空に淡く咲いた桃の花が見え、見惚れてしまった

その瞬間、何も見えなくなった







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